でんでん太鼓どうして彼にでんでん太鼓を贈ったのか。
降りしきる雪の中、惜しげもなく笑顔をこちらに与える彼に、自分が与えられるものが他に何も持っていなかったからだ。
それでも彼はでんでん太鼓をじっと見つめると嬉しそうにこちらに笑いかけてくれた。
その笑顔によくわからない胸の軋みを感じて、ひどく慌てた。
とっさに何も言葉が浮かばず、身を翻すとその場を駆け出してしまった。
雪の街中を走ってはいけないと、強く叔父に窘められていたのに、彼は走って探し人を見つけた。
「兄上」
兄の藍 曦臣は彼の姿を見つけると、ほっとしたようにこちらにやってきた。
「忘機、何処に行っていたんだい」
彼は兄の差し出された手を強く引いた。
「こちらへ」
「何かあったのかい、忘機」
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