無題(4)散々、好き勝手やってきたツケが回ってきた。
ははっ、と乾いた笑いが口から思わず漏れる。背の脇に手を伸ばすと、大振りのナイフがちょうど背側の右胸の下辺りから生えている。刃が横向きなあたり、本気で殺しにきてる。しかも、体に走る痛みから、恐らくこれは対吸血鬼用なのだろう。一般人がどうやって入手したのか、恐ろしい。
昔ならば、こんなちんけなもので刺されるほど落ちぶれちゃなかったが、自分も随分年を取ったらしい。背後から刺されるまで、ちっとも女の存在に気づかなかった。はたまた、吸血鬼を脅威とする人類の技術進歩か。
刺されると同時に投げ飛ばした女が地面に突っ伏して泣き叫び、突然の出来事に固まっていた駅の民衆がその声に正気を取り戻したのか、騒ぎ始めるのをケンはまるで他人事のように聞いていた。
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