DIVE 檀家回りのために坊さんが走り回るような忙しない月だから『師走』
小学生の頃、国語の授業でそう教わった気もするが、平成の世の年の瀬に、走り回るのは坊さんばかりではない。俺のようなうだつの上がらない銀行マンも課せられたノルマを達成すべく、方々にある得意先のご機嫌取りのために朝から晩まで駆けずり回るのだ。でも、それももう、疲れてしまった――。
足繫く顔を見せに来るらしい他行の存在をちらつかせ、「融通を利かせてくれないならば、そちらに乗り換える」と得意先から半ば脅すように通告され、決まりかけていた5,000万円の追加融資話がとん挫しかけたのが三日前。ここ半年の俺は、ノルマに届かない成績のせいで毎日のように副支店長からの罵声を浴びているというのに、この案件を落としたとなったら……。
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