伝説の地 階段の上から太平洋を臨む景観は、季節の花々と文化に彩られて休日ともなれば多くの観光客の訪問を受けるK県の陸続きの小島の隣に、人知れず漂う離島があるのを多くの人は知らないだろう。
先の観光島とは異なり、この離島は完全に本土とは隔てられているため、海路をボートで向かう以外に道はない。それではちょっとしたプライベートビーチとして使用されているのだろうかと想像してみるが、この離島には文化も風情も全くなく、この世の春とばかりに咲き誇る雑草たちが栄華を極めているばかりである。
他の誰にも知られていない秘密は往々にしてヒエラルキーの欲望を満たすものであるが、この離島がひっそりと存在している事実が公になっていないのは、そんなことを口にしたが最後、捨てそびれた燃えるゴミの袋を部屋の隅に隠すがごとき恥辱を味わうからだ。「まあ、そんな貧相な島があるの?なぜそれを知っているの?まさかよく行くということ?そうなの」という言葉と共につまらなそうな視線を投げかけられ、逆に相手の欲望を満たす結果に終わる。
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