無題(タイトル未定) 疲れた身体を引きずり部屋に戻るなり目に入ったものの存在を認識すると、立香は無言で扉を閉めた。
「ンンンンンン……マスタァ……マスタァ、せっかく戻られましたというのにどこに行かれるというのです」
扉の向こうから聞こえた嫌な音にぞわぞわとするものを感じながらも立香は振り向かない。やはりというべきか、立香がそこから逃げようと足を動かす前に扉は開いてしまったのだから、ああ……と彼女は諦めて自分の顔を手のひらで覆うしかなかった。
「いや、ちょっと用事を思い出して……」
「何も今すぐというものではないのでしょう? ならば少しお休みになられては?」
逃げの言葉も見抜かれているのは明白だ。それでも振り向かないまま、立香は深く溜め息を吐いた。
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