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    わたがし大動脈ラメラメ

    @mgd_htrgt

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    POIPOI 43

    去年のガミさん転生日に書いたもの

    変えられない、そして、変わっていく。アルコールに浸り、喉が渇くほど酒をあおりながらも冷静で居続ける頭にガミジンは辟易していた。
    なんと言うことはない。嫌な夢を見て、完璧とは言えない仕事を終え、上等とは言えない酒を口にして、最悪と言うには少しばかり出来の良い、最高と言うにはあまりに安っぽい一日を洗い流したかった、ただそれだけだった。それがどういうわけか、アルコールは彼の思考を鈍らせる事なく、ただただ素面と変わらない気分と、二日酔いより最低な不快感を加速させていた。
    今日は酔えない日だったらしい。
    ガミジンはアジトでも相当の酒豪の部類で、飲んですぐに戦っても前後不覚になることがないほど、酔いには強かった。それどころか、日によってはいくら飲んでも酔っ払うことが出来ない日があった。丁度、今日がそうだ。
    酒は、脳みそをどこまでも曖昧に、支離滅裂に、最高と最低を区別なくとろかしてしまって、今日が『ツイていた』とか、『大ハズレ』だったとかを忘れさせてくれる最高の薬なのに、それが効かないという事実に、彼は大きな溜め息をついた。その一呼吸さえ酒の匂いをたっぷりと含んでいるのに、アルコールは脳の支配を拒む。酔いたい時に酔えないと言うのは、全く不便だ。
    こんなところが強かった所でなんだというのか。ガミジンは、肝心な所が思い通りにならない我が身を呪った。別に、自分の身体や心を憎むのは珍しい話ではない。いつも、どこか何かを呪いながら、酔ったり酔えなかったりしながら、28年、いや、明日で29年付き合ってきたこの身体を諦めて眠っていた。
    毎年毎年、気が付いたら年を重ねて、知らぬうちにままならなくなっていく身体を呪っている。
    ヴィータになってから、否、生まれついてから追放されてこの世に堕ちて、もう数百年の呪いを重ねてきた。ガミジンを呪う誰かが居たとしても、ガミジンはその誰かよりも強く自分を呪っていた。本気で憎しみを抱いたことはないが、何故己は己のままなのかと考え続けていた。答えは、まだ出ていない。
    酒場を出て、一人。黒一色の空にまばらに散る星を眺めた。
    光が弱すぎて綺麗には見えない。無垢な頃ならば、もっと汚れを知らなければ綺麗に見えたかもしれないが、彼の目にはそうは映らない。夜とは、こんなに心細かっただろうか。夜に限った話ではない、いつもどこか不安感がある。何処に居ても自分はここに立っていて良いのか、誰かと生きていて良いのか、そんな卑屈な自分が顔を覗かせる。
    身の程知らずの負け犬。
    そう、思い続けて、自分を否定しながら、誰かにその自分を肯定される度に、自分を誇っていたいと、肯定してくれた者を裏切りたくないと願っていた。
    どす黒い感情を抱えながらも、一縷の光を捨てられない己を、ガミジンはどうしようもなく呪い、そして、許した。どうせ、死ぬまで自分は自分でしかない。
    『個』は変えられないのだから、呪いながら許し続けるしかない。その末に、何かを変えられたなら、自分を誇ることが出来たならそれをこれまでの呪いのツケとして受け取ろうか、そんな風に思った。
    白んでいく空の下、彼はその目に大きな光を見た。大地を照らし、空を染めていく様に、彼は束の間、目を奪われた。
    もう、何百と繰り返し続けた長い夜が終わろうとする。
    春が近いのだ。
    雪融けと共に蕾が花開くように、極寒の夜が光に溢れた朝を迎えるように、いつの日か少年が大人になるように、自分の手で変えられるものはなく、いつか変わっていく自分と世界がある。
    変わる世界はどんなものだろうか。
    彼は、29年目の朝日に目を閉じた。
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