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    わたがし大動脈ラメラメ

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    POIPOI 43

    ガミイルの出会った頃からお互いにいい雰囲気になるくらいまでの妄想を書きたいな~のその1

    最初の一杯 穏やかな春の日差しと、淹れたての茶の香り、そして柔らかな風が吹き付ける部屋の中、和やかさに満ちた場所には似つかわしくない仏頂面の男が佇んでいた。
    男の名はガミジン。彼は望んでこの部屋に居るわけではない、むしろこのような平穏無事が形となったような場所には縁がなく、居心地の悪さを覚える質だ。彼をこの部屋に招いた張本人は彼の目の前で朗らかな笑みを浮かべて茶を淹れている。
    彼女の名はイルセ。縁あってガミジンに危ないところを助けられ、その礼として彼女は彼をここへ招いた。
    イルセの目的は恩人をもてなすことであり、彼がここへ来たことで目的はもうほとんど果たされたと言っても過言ではなかったのだが、当の客人は不機嫌な態度を隠しもせず、訝しげに彼女を睨めつけていた。
     ガミジンという男は元来人嫌いな気があり、その生い立ちゆえ物心ついた頃から他人の厚意には裏があるという偏見を持っていた。例え厚意を受けた相手が子どもだろうと、老人だろうと関係ない。
    その中でも特に彼が警戒し、心から信頼していないのは若く見目のよい女だ。
    イルセという女は、第一印象から述べるのであれば華奢で大人しく少し幼さの残る整った顔立ちをしていて、分かりやすく言うのであれば世間知らずそうな容姿をしている。それが男女問わず人を惹き付けそうな雰囲気を漂わせていて、ガミジンを更に警戒させていた。
    こういう容姿の女は二種類に分かれる。
    一つは、自分の容姿とそれが周囲の者に与える影響に自覚的で、効果的に自身を活用する者。
    もう一つは、容姿の通りに世間知らずで甘いお人好しの者。
    ガミジンはどちらとも関わりを持ちたくはないと思っているが、強いて言うなら前者のタイプが嫌いだった。持てる武器を上手く振るえるというのはよいことだが、それを搾取する形で役立てる女は好ましくない。それなら多少は甘ったるい方がマシだ。
    (さて、こいつはどっちだ?)
    無言を貫き、イルセをじっと観察する。動作にそつがなく、どこに何があるかを把握した立ち回りが効率的で抜けているような見た目に反して一人暮らしに慣れているらしい。
    「はい、どうぞ。冷めない内に召し上がってください」
    そう言って差し出された茶はなんの変哲もない色と香りで、差し出してきた彼女は屈託ない笑顔を見せていた。
    ガミジンは腕組みを解くと、カップを持ち上げて香りを嗅いだ。甘苦いような独特の香りは、これまで味わったことがない。高価なもの、というよりこれは──。
    (薬草茶か?)
    顔馴染みの傭兵に薬草酒を薬代わりに飲む者がいたが、彼が口にしていたそれと似たような香りだ。
    ガミジンが口にするより先に、イルセは茶を口にした。それを見てから彼も茶を飲む。風味も少し変わっているが、清涼感があって喉や胸の辺りがスッとしたような感じがした。
    「お口に合いましたか?」
    微笑んで訊ねる彼女にガミジンはわざとらしく鼻を鳴らして答える。
    「別に、妙に薬くせぇ茶だとしか思わなかったぜ」
    「わかりますか? これ、私がいつも飲んでいる薬草茶なんです。いつも咳が出てしまうので、それを抑えるもので……」
    そう言うなり、彼女は咳き込んで背中を丸めた。出会った日もそうだったが、彼女は今日この日にも既に数回こうして咳をしていた。
    確かあの傭兵も咳が止まらないと言っていた。彼女の言葉は嘘ではないらしい。ようやく咳が収まると、イルセは申し訳なさそうな顔で笑う。
    「ごめんなさい、一度出ると止まるまでが長くて……」
    「そうらしいな……咳止めが効かねぇくらいに」
    嫌味っぽく言う彼の言葉に、イルセは困ったように答える。
    「ええ本当に、おまじないくらいの効果しかなくって……困っちゃいますね」
    どうやら彼女は嫌味が通じないタイプらしい。ガミジンは妙にくさくさとした気分で女性に当たる自分が情けなく思えてきた。
    勝手に警戒し、勝手に当たり、そして八つ当たりにすらならずに微笑まれる。居心地の悪さ極まれりだ。
    「お茶のお代わり、いかがですか?」
    空のカップを見てそう言ってくる彼女を一瞥すると、彼は首を横に振って立ち上がった。
    「もういい、茶で腹を膨らませる趣味はねぇ。そろそろ帰るぜ」
    ガミジンがつかつかとドアへ向かうと、その後ろからパタパタと軽い足音が聞こえてくる。
    「でも、まだ何もお礼が出来てません! せめて何かさせてください」
    「……あのな、なんでテメェはついこの間会っただけの俺に執着するんだ? まだ顔見知りですらない男を家に招いてまでもてなそうとするなんざとんだお人好しだ。そうでもなきゃ裏があるんじゃねぇと疑いたくなるくらい怪しいぜ」
    「会っただけじゃないです!」
    「あ?」
    「助けてくれたじゃないですか、見ず知らずの私のことを」
    真剣な目でまっすぐに見詰めて、彼女は答えた。そのあまりにも曇りのない目が、疑いも作為も計略もない眼差しが無邪気過ぎて、ガミジンはつい目をそらしてそっぽ向く。
    「あれは成り行きでそうなっただけで……テメェを助けようとした訳じゃねぇって言ったはずだろ」
    「でも、私は助けられました。気まぐれだったとしても、あなたがいてくれたから今こうしていられます。本当に、ありがとうございます」
    「ぐっ……やめろ……そういう目で見てくんな! テメェみたいな手合いが一番苦手なんだよ!」
    彼女の熱視線から逃げるように、彼はドアを開けて出ていく、その背中を追うように彼女の言葉がかけられた。
    「またいつでも来てくださいね! 今度はちゃんとおもてなしさせて貰いますから!」
    家から離れてもまだドアが閉まる音が聞こえない、彼女はまだ外に立って彼を見送っているのだろう。その真っ直ぐさがまたガミジンの心をさざ波立てる。
    (なんだってんだよ、あの女……)
    肩越しに振り返ると、彼女が手を振っていた。春先のまだ少し冷たい風を受けながら、彼女は笑ってガミジンを見送っていた。
    よく晴れた昼下がりのことだった。
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