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    わたがし大動脈ラメラメ

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    POIPOI 43

    Bガミさんメギクエ連作短編その2
    月曜日・フェニックス

    生存競争 王都周辺の森に幻獣が発生したという報告を受け、アジトに駐留していたメギドの中から数名が討伐へ向かった。
    小さいが毒を持つ蛇型の幻獣とのことで、毒の扱いに心得があるもの、身体機能が優れているもの、そして医療の心得があるものが抜擢された。
    現場で討伐を行っているのはウァレフォル、フェニックス、シトリー、アンドラス、ガミジンの五名だ。
    幻獣とはいえ、まだ幼体のものが大量発生した様子で、二手に別れて行われた討伐は順調に終わりへと向かっていた。フェニックス・ウァレフォル組があたった方面にいた幻獣はすぐに殲滅作業が済み、ウァレフォルはフェニックスに先に他のものと合流するようにと指示を出した。それに従い、フェニックスは先ほど二手に別れた地点に戻り、反対側にいるメギドたちを探した。すると、すぐに出会ったのはガミジンだった。
    「こちらにいた幻獣はすべて倒しました。ガミジン、そちらの首尾は?」
    「こっちも終わったとこだ……いや」
    ガミジンはまだ動こうとする蛇型の幻獣にクナイを投擲し、止めを刺した。
    「今終わった」
    「……そのようですね、解剖をしていたアンドラスを呼びましょう」
    ガミジンとフェニックスは無言でその場から移動し、アンドラスとシトリー、少し遅れてウァレフォルと合流した。
    「よし、全員集まったな。アンドラス、解剖結果の報告を頼む」
    「この幻獣は蛇型だけど、生物としての機構は植物に近い。コイツが出す毒は触れると肌が焼けただれたようになる、要するにかぶれるってことだな。正直そこまで強力な毒じゃないが、触れるとかなり痛みが出るはずだ。さっきの戦闘中に体液を被った覚えがあるなら言ってくれ、塗り薬と包帯で処置する」
    「なるほどね、植物に近かったの。だから雷で焼いても肉が焼けるような匂いがしなかったのね」
    「植物系の幻獣は珍しくありませんが、このような別種の幻獣を模倣するものはあまりこの辺りでは見かけませんね……ヴィータに被害が出る前に巣や卵を捜索し、発見次第、即刻焼き払いましょう」
    「待て、目撃証言があった幼体を潰したってだけだ。まだそいつらの親が残ってる可能性はあるんじゃねぇか?」
    「ふむ……そうだな、ひとまずは手当てを優先しよう、フェニックスとアンドラス、頼んだぞ」
    小報告が終わり、すぐに水での洗浄、塗り薬と包帯やガーゼでの保護が行われた。後方に控えていたアンドラス、マントで体液を弾いていたフェニックスは平気だったが、ウァレフォルとガミジンは手や顔に体液を浴びていたため、すぐに対処を受けた。
    「ああ、ちょっと炎症になってるね。あとでソロモンの力を借りて治そうか」
    「いや、この程度の傷ならいい。外傷が残るほどのものならばいざ知らず、たかだかかぶれだろう」
    「きちんとガーゼを取り換えればひどくはならないでしょう」
    「……幻獣の毒が身体に残ってる可能性もある、一応ソロモンの力を使った方がいいんじゃねえか」
    「そうね、その可能性は否めない。それに温度やフォトンに反応して変質する毒も少なからず存在するわ。なんであれ警戒第一で行きましょう」
    「わかった。じゃあアジトに戻ったら二人とも治療だね」
    「……では、このあとの行動についてだが、先ほどの小報告で指摘があったように、蛇型幻獣の親個体が潜伏している可能性がある。あれらの成体がどの程度の大きさになるかはわからん、ここからは編隊を組んで行動する、質問や意見はあるか?」
    シトリーが手を挙げた。
    「提案なのだけど、私は別動隊として陽動を担当したい」
    「ふむ、と言うと?」
    「さっきの幼体、私の雷の光で目が焼かれたのか、ひどく苦しんでたわ。その要領で親を炙り出せないか試したいの、どう?」
    「いいんじゃねえか。俺はシトリーの案に賛成だ」
    「右に同じくです」
    「俺も賛成だ。シトリーの雷で弱ったまま確保出来るなら、解剖して成体がどんな威力の毒を使うのかサンプルが採れる」
    「……よし、ではシトリー、陽動を頼む」
    「任せて、親個体はきっとフォトンスポットを目指すはず、深部から追い出してみせる」
    そう言ってシトリーは彼ら四人と別れ、行動を開始した。そして現場に残った全員に向け、ウァレフォルが指示を出す。
    「ここからは二手に別れよう。巣や卵とおぼしきものがあれば周辺を警戒し、互いを守り合いながら行動だ」
    「二人一組か、どう別れる?」
    「私とアンドラス、フェニックスとガミジンで分けよう」
    「組み合わせの意図はあんのか?」
    「理由は三つだ。攻撃パターンの幅を持たせること、戦略強化、そして医術。まず一つ目は遠隔攻撃と近接攻撃が行える組み合わせだ。アンドラスとガミジンはどちらも投擲武器を使用できるため、近接の心得しか持たん私とフェニックスの援護に回って欲しい」
    「……援護か、まあいい」
    「頼りにしていますよ」
    「ふん」
    「続けるぞ。二つ目の戦略強化だが、私とアンドラスは速攻戦略が得意で、フェニックスとガミジンは耐久型だ。各組が親個体に接触した時に取れる戦略は多い方がいい、それぞれのアプローチを活かせばうまく攻略出来るだろう」
    「なるほど、確かにそれなら得意な戦略が合う者同士で組んだ方がやりやすい」
    「そして最後、医術だ。万が一負傷し、現場から動けなくなった場合も医療の心得があるアンドラスとフェニックスがいるなら指示をあおぎながら手当てができる。以上だ」
    「異論はねぇ、いつでも行けるぜ」
    「よし、それでは全員作戦実行だ!かかれ!」
    ウァレフォルの号令に従い、4人は二手に別れて移動する、薄暗くて湿っぽい森の中には何かが潜んでいるような気配が漂っていた。
    (……地面に這いずった跡、そしてその先はおそらくフォトンスポット……シトリーの読みが当たりましたか)
    地面にしゃがみ込み、検分を行うフェニックスを見向きもせず、ガミジンはじっと森の奥を見詰めていた。
    「……何かありましたか」
    「少し下がってろ」
    ガミジンに言われるまま、フェニックスは少し後ろに下がる。彼が後退したのを確認し、ガミジンはベルトからクナイを引き抜き、空中にそれを振るう。何度か十字を切るようにそれを繰り返し、クナイをしまい込み、ガミジンは何かを掴んでフェニックスに示した。
    「これは……蜘蛛の糸」
    「ああ、まだ真新しい。張った奴はまだ近くにいる」
    「幻獣のものですか」
    「だろうぜ、しかも、さっきの幻獣の痕跡が残る周辺にコイツの罠が残ってる。……共生してやがるな」
    「地上は蛇型が支配し、頭上の木々を蜘蛛型が支配、といった具合でしょうか。アンドラスとウァレフォルたちは……」
    「森の構造からしてアイツらが行った方向はこっちよりも太陽がよく射し込むからな、蜘蛛型の奴は向こうにはいねぇだろう」
    「……つまり、こちらに奴らの通路が集まっている可能性が高い」
    「ああ、この分だと何匹いたっておかしくねぇ」
    二人は淀んだ空気が漂う中、武器を握る手に力を込めて進み出した。ガミジンは棍棒を右手に持ち、左手にクナイを握り込んでフェニックスの背中側を警戒した。二人の圧し殺した足音の他に、微かな地面を這いずる音が彼らに聞こえてきた。
    (近くにいる……だが、まだ飛びかかるのは早いか)
    (ガミジン、頭上の枝が揺れています。おそらくは蜘蛛型です)
    (挟み撃ちに遭ったのは俺らの方ってわけか……フェニックス、テメェは蛇の方をやれ。蜘蛛は俺が仕留める)
    (……承知)
    相対する二人と二匹の幻獣は、ほとんど同時に攻撃を仕掛けた。フェニックスは自分の喉に食い付こうと飛び掛かってきた蛇型を、横殴りにするように後方へ吹き飛ばし、距離を置いた。
    ガミジンは、糸を吐き捕まえようと現れた蜘蛛の目にクナイを投げつけて潰し、思い切り棍棒を叩き込んで地面へ引きずり落とした。
     蛇型の親個体は、大人の身体ならゆうに飲み込める大きさの体躯をしており、見た目には植物系の幻獣とはわからない。蛇型はシューシューと息を吐きながらフェニックスと距離を取り、しかし確実にその首を狙っていた。
    「本物の蛇と同じ要領で倒せるのなら、狙うべきは首ですね」
    フェニックスは剣を胸の前に構え、蛇型を見据える。殺し方はわかっていた。そして、そこに至るために必要な立ち回りも。
    「……参ります」
     蜘蛛型と相対し、ガミジンはクナイと棍棒を構え、更なる追撃の機会を狙った。次に潰すなら、目か口か、それとも頭か。蜘蛛はどうやら怒っているようで、脚をザワザワと動かしながら強襲する機会を狙っているらしい。だが、ガミジンは容赦せずにクナイを二本目と口に叩き込む。蜘蛛型は新たに身体を抉られた痛みで呻き、耳障りな悲鳴を上げた。
    「どうした?こっちにやり返したくてうずうずしてんだろう。掛かってこいよ、飛び付いてきやがったらぶん投げてやる」
    言葉が通じているのか否か、不明だが、蜘蛛型は樹に糸を吐き、ガミジンの頭上へと待避を謀るが、ガミジンに糸を切られ、また地面へと叩き落とされる。
    「逃げられると思うな、テメェはあと一撃その頭にコイツを叩き込んで終わりだ」
    棍棒を両手に持ち、頭上に振り上げ、ガミジンは蜘蛛型に最期の一撃を与えた。
    蜘蛛型は頭を潰され、大きく痙攣したあとゆっくりと動きを静止し、絶命した。
    ガミジンはそれを確かめると、フェニックスの方を振り返る。そちらでは、フェニックスが蛇型の攻撃を振り払いながら、身体を弾き飛ばし、腕を高く持ち上げるタイミングを作り出して、剣を振り上げていた。そして、まっすぐに振り下ろされたその軌道は、蛇型の首を的確に捉え、一撃で絶命へと導いていた。
    その技の見事さに、ガミジンは目を奪われた。一瞬にして、その生を奪い去る慈悲の技。ガミジンには手にすることが叶わないものだ。
    「……ガミジン、そちらも終わりましたか」
    「ああ、そっちも片付いたみてぇだな」
    フェニックスは首を落とした際に剣についた体液を振り払い、肩にかついでガミジンのそばへ寄った。
    「あとはシトリーが予想したようにフォトンスポットに根を張る幻獣を始末できれば良いのですが……」
    そう言っている途中で、森の奥が一瞬大きく明るい光を放った。あの光は、シトリーの雷だろう。どうやら彼女も近くにいるらしい。シトリーの追い込みが成功しているのならば、ウァレフォルとアンドラスも光に向かっているはずだ。そうなると、向こう側の人数は3名になる。戦力としては申し分ないが、敵の数はまだ未知数だ。
    「まだ蜘蛛型が潜伏しているなら、十分に戦況は覆されますね。私たちも行きましょう」
    「おう」
    二人は先ほどの光が見えた方向へと走った。



     結果として、森に潜伏していた蛇型の親個体は3体いて、それぞれ陽動と遊撃で別れていた全ての組の目の前に出現した。蜘蛛型はどうやら別の土地から流れ着いてきたはぐれの個体だったらしく、他にそれらしき幻獣の痕跡は見当たらなかった。
    「案外手際よく行ったわね、上出来だわ」
    シトリーは満足げに頷いて、さきほど倒した蛇型の死骸を巣と卵のそばに寄せた。蛇型の巣と卵はそこら中にあり、一つ一つ潰すのは悪手ということで、親個体の死骸と共に焼き払うことになった。
    「解剖してみたら、蛇型のヤツは卵の方がもっと強力な毒を有する種類だったよ。だから自然に駆除が出来なくて数が膨れ上がったんだろうな。生まれたあとの方が簡単に対処できるけど、それじゃ手間が多すぎるから焼いて始末するのを推奨するよ。熱しても特に問題なさそうだし」
    「では、それでいこう」
    こんなやり取りのあと、速やかに卵と死骸の回収が行われた。蜘蛛型はともかく、蛇型はかぶれる体液を持つため、野生動物の餌にならないので始末しておく方が良いと話し合いで決まった。
    「……こんなとこだろ、おいもう燃やして良いぜ」
    ガミジンがそう言うと、フェニックスが用意していた松明を幻獣の死骸に投げる。すると、ほどなく積み上げられた山は燃え崩れ始めた。その炎をガミジンとフェニックスはじっと見つめていた。ふと、フェニックスは炎を見つめるガミジンの目付きが普段と違うことに気付いた。どこかで見た覚えがあるような、その目の色を前にフェニックスは不安感を覚えた。
    一体、ガミジンのような目をどこで見たのか。フェニックスは頭を巡らせ、不意にその答えに辿り着いた。処刑人としてフェニックスが剣を振るっていた頃、処刑台を見に来ていた貧しい兄弟が、ちょうどこんな目をしていた。彼らは、いつも虚ろな疲れ切った目をしていて、物悲しい雰囲気を纏っていた。そんな彼らは、処刑台を見ている時にだけは、どこか薄暗い希望をその目に宿していた。それと、似た類いの眼差しをガミジンは携えていたのだ。
    フェニックスはガミジンの名を呼んだ。彼は無言で振り返る、炎を見ていないその目は、いつもと変わらない。先ほどの戦闘中でも彼は生き生きとしていたはずだ。あの楽しげな雰囲気は、メギドの本能からなる戦闘の喜びだと思っていたのだが、もしかすると、別種の喜びなのかもしれない。
    「……死んだものを羨ましそうに見るのは止しなさい」
    この言葉が彼の侮辱になる可能性は十分にあり得た。彼から怒りを買い、今後一切の同行を拒まれる可能性もあった。それでも、フェニックスは自分が言わなくてはいけないと、そう感じていた。
    予想に反して、ガミジンは驚いたような顔をして、そして大きな声で笑い出した。滅多に彼がしないような、まるで馬鹿馬鹿しいものを見て可笑しさに堪えられないというような笑い方だ。ひとしきり笑うと、ガミジンはフェニックスを振り返り、さきほどとは打って変わったどこか寂しげな目で答えた。
    「……わかってる。だが、考えるだけなら自由だろ」
    そして、ガミジンは再び炎を見詰めた。その眼差しに写り込む悲しみが、死への思いがどれほどのものなのか、フェニックスはわからなかったが、炎に照らされるガミジンの横顔をひどく悲壮な思いで見詰めていた。
    炎はまだ、消えそうになかった。
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