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    わたがし大動脈ラメラメ

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    POIPOI 43

    Bガミさんメギドクエスト連作短編その4
    水曜日・オセ

    あるべき場所へ 幻獣討伐を終え、アジトへ帰投するばかりとなった折り、ブエルが気付いた。
    「あれ?オセさんがいないよ」
    その場にいたメンバーはそれぞれの目撃情報を交換し、結論を出した。またいつもの自由人が出たのだろう。
    「今回の件は王宮から依頼を受けたものだし、現場にいたものから調書を作りたいとフォカロルから聞いている。どうしたものか……」
    「こんな山中でオセを見付けるなんてそう簡単じゃないぞ。俺たちだけでも戻った方がいいんじゃねぇか」
    「……一人ここに残ってりゃ遭遇する可能性はあるんだろ、なら俺が残る」
    そう言ったのはガミジンだ。同行したメンバーが一斉にそちらを向くと、彼は続ける。
    「今ここにいるやつらはアジト住みな訳じゃねぇ、それぞれもう戻らねぇと面倒があるだろ。俺もアジト住みじゃねぇが、時間の融通は利くし、調書もアイツだからわかるようなことを覚えておけばいいんだろ。幸い、ここからアジトまでの移動もそれほど掛からねぇしな」
    ガミジンが言う通り、今回のメンバーはグレモリー、フォラス、ブエルといった面々で、それぞれに立場や保護者がある。メギドラルへの遠征も控えているため、彼らはそれに向けた調整でも忙しない生活を送っている。
    「ガミジンの提案に異論があるものはいるか?……なら、ガミジンにオセへの調査は一任した。頼むぞ」
    「わかったよ、テメェらはとっとと戻りやがれ」
    「ガミジンさんありがとう!」
    「すまん、ガミジン。今度何か礼するからな」
    各々が彼を見返しながらポータルの方へ去っていく。それを眺め、ガミジンは日が暮れかかる山に目を向けた。
    「……行くか」
     豊かなフォトンが一帯に含まれるこの山は、時折幻獣たちの住処に選ばれ、その度に何かしらのトラブルが発生している。しかし、この山で獣が被害に遭うことはほとんどない。逃げるのが上手いのか、それとも、見えないところで被害が存在しているのか。真相は不明だが、いつだったか、ガミジンがウァプラと共にこの山を訪れた時に、ウァプラは珍しく上機嫌に「良い山だ」と呟いていた。ヴァイガルドの自然保護に関して一家言がある彼が言うのだから、その言葉は間違えではないのだろう。
    分け行っても分け行っても、深い緑が地表を埋めつくし、側には生き物の気配がある。生きた自然だ。
    (オセ、気に入って奥に行きやがったな……)
    彼女は任務を投げ出したりはしないが、基本的にソロモンが居なければ好きなように戦い、そして任務が済めばふらりと何処かへと居なくなってしまう。彼女のそういう自由で何者にも縛られない気風はガミジンとしては羨ましく思えたが、あのように振る舞うことは難しい。野生的でありたい、その言葉が表す通りに生きている。誰も彼女を真似られはしない、そう思うほど彼女は彼女と言う『個』を体現していた。それを見ていると、ガミジンはどうしても胸が悪くなった。
    自分が望む自分であることは、彼には叶えられない望みだ。自分には出来ない生き方を選べるメギドたちが、彼には少し眩しすぎた。
     不意に、頭上を覆う木々が消えて広々とした野原が現れた。青々と繁る草木は天高くに昇る月の光を受けて輝き、夜の暗がりを目映く照らしていた。
    「……こんな場所があったのか」
    ガミジンは驚いたように呟き、野原の中央へ踏み込むと周囲を一望する。月明かりのやわらかな光のお陰で、鬱蒼と繁る山の木々の枝葉の隙間にも微かな光が射し込んでいる。
    これならば、少しは動きやすいだろう。そう思い、ガミジンがその場から奥へ踏み込もうとすると、背後から異様な殺気を感じて振り返る。気配の方角には草むらがあり、そこの葉の揺れがゆっくりとこちらに近付いていた。
    幻獣の討ち漏らしか、あるいは別の何かか。ガミジンはクナイを構え、威嚇として草むらの少し手前にそれを投げ付けた。だが、気配の主は怯むことなく、それを意に介さない。
    やがて、草むらの向こうから物凄いスピードでガミジンに近寄ってきたのは一匹の狼だった。それも、大人の身の丈程もある大きなものだ。狼はガミジンの左腕に噛み付き、そのまま彼を地面に倒して低く唸り声をあげた。篭手越しでも肉に突き刺さる牙の鋭さに、ガミジンは焦りを感じた。この狼はただの獣ではない、この山のフォトンの恩恵を最も受けている個体、『主』に当たるものだと直感した。
    通常のそれにはない力の強さに苦戦し、ガミジンはなんとか腕を食い千切られないよう、腕に力を込めた。
    ギリギリと狼が顎に力を加える度に骨が軋み、肉がプチプチと音を立てる。どうやら限界が近いらしい。
    (よりにもよって……獣にやられるのか、俺。クソ、これで終われるか!!)
    ガミジンは脚に力を込め、横殴りに狼の胴を蹴って自身の身体から距離を離した。生温かい血がポタポタと流れる腕を抱え、ガミジンは野原から草むらへ飛び退く。だが、狼からの追撃はなかった。狼は、ガミジンがまだそこにいることを関知しているようだったが、彼が視界から消えてすぐに興味を失い、野原の片隅に駆け寄り側の草むらに鼻を突っ込んでいる。
    (なんだ……?)
    ガミジンがそれを見詰めていると、背後から女の声が聞こえた。
    「気が逸れているうちに、早く逃げなさい」
    「……オセ」
    「嫌な予感がしたから来てみれば……、運が悪いわね、キミ。その腕じゃろくに武器も振れないでしょう、取りあえずあたしについてきて」
    「……わかった」
    オセに言われるまま、ガミジンは彼女の後を追った。彼女に連れてこられたのは小さな洞穴だった。雨風が凌げる程度の付加さがあり、床には葉が敷いてあった。
    「テメェの隠れ家か」
    「そう、いつもならレラジェくらいしかここには来ないんだけど……キミを放っておいたら血の匂いにつられて別の獣が出てきそうだったから、今回だけは特別」
    「チッ……心配されちまったぜ、クソ」
    「あんまり他のメギドと関わりたくないのはわかるけど、頼ることは大切なんじゃない?キミはヴィータの社会で生きてるんだもの」
    そう言ってオセは洞穴の奥から水を汲んできて、それをガミジンの腕にかけた。新鮮な冷たい水が傷に染みて、ガミジンは顔をしかめた。
    「痛いだろうけど、今は血の臭いを落としておかなくちゃ。我慢して、その腕につけてる篭手も外しておかないとあとで酷いことになるわ」
    彼女の指示に従い、篭手を外すと、その下から青黒くなった傷が姿を見せる。
    「この程度で済んで良かったわ。最悪、ソロモンくんに召喚して貰わないといけなくなったかもしれない」
    「テメェはあの狼とやり合ったことがあんのか?」
    「いいえ、彼女の番と一度だけ獲物を取り合ったわ」
    「……メスかアイツ」
    「獣のメスは大抵気性が荒いわ、彼女の場合はそれだけが理由ではないけれど」
    「俺が何かしたのか」
    「有り体に言えば彼女の支配域に踏み込んだってところだけど、そうね……ヴィータ嫌いなのよ、彼女は」
    「獣なら大概そうだろ」
    「彼女はヴィータに番を奪われたの、密猟者に」
    密猟と聞き、ガミジンは顔をしかめた。以前、密猟者を少々手荒に追い出す仕事を任されたことがあったせいか、少しばかり気になった。
    「その現場を見ていないけど、ヴィータを食い殺した傍らで、獣との争いでは付かないような傷が付いた番の亡骸を温めている彼女を見たわ。それ以来、彼女はあたしを見て逃げるようになった。もう何度もこの山で過ごしたけれど、あんな風に嫌われるのは初めてだったわ」
    「……だから、あんな殺意がこもってたのか」
    「本気で食い殺すつもりだったんでしょうね。でも、キミがすぐにその場を離れたから見逃してくれた。運が良かったわ」
    「そりゃ良かったよ、全く、ひでぇ目に遭った」
    ガミジンはそう言いつつ、自分の腕に包帯を巻き付けた。骨は折れていないが、動かせばギシギシと骨が悲鳴をあげる。まだ痛みが引いていかない。
    「今日はここで夜を明かせばいいわ、明朝に迎えに来るからそれまで休んでいなさい」
    「テメェはどこで寝るんだよ」
    「あたしは別の隠れ家があるから、そこで過ごすわ。眠る時は一人でいたいもの」
    オセはそう言うと、ガミジンを置き去りに何処かへと消えた。ガミジンは一人になり、壁にもたれてぼんやりと外を眺めた。外は月明かりが射し、明るいが山のどこからか聞こえてくる知らない鳥の声と枝が揺れる音で心がさざ波だった。
    珍しく、一人でいることの気楽さや安心感よりもヴィータの身体で過ごす一夜が不安だった。
    どうしようもなく、一人きりでいる夜にはいつも昔の夢を思い出してしまう。メギドだった頃の夢、そして、一人ではなかった頃の夢だ。既に、どちらも遠く彼方へと押し流されてしまったもので、取り返しの付かないものだ。それを頭ではわかっていながら、惜しむ想いが押さえられない。
    ヴィータとして得た安らぎ、メギドとして得た愉悦、強者のみが持つ絶対感、全てが今の自分にはない。
    今の自分は、狼に食い殺されかかり、誰かの手を借りて治療され、情けをかけられて生きている自分だ。どうしようもなく一人では生きられない。望まない他者のいる環境が疎ましく、そして時にそれに救われる。けれども、心はどこか渇いていた。
    共にありたかった誰かとは、もう共に居られない。そんなやるせなさと、一人ではなかった頃の思い出が思い返されて知らず知らずのうちに、声に漏れる。
    「……かえりてぇな」
    何処へ、何時へ、何へ、それすらもわからず、ただ望みだけが口をついてでた。
    ふと、ガミジンが意識を取り戻すと、外ではザアザアと雨が降りしきっていた。時折頬を濡らしていたのはこれだろう。
    雨音に耳を傾けながら、ガミジンはあの狼を想う。彼女は今、一匹でこの雨に濡れているのだろうか。
    「あら、起きてたのね。残念だけど、この雨じゃ山を下りるは無理そうよ、止むまでは待ってなさい」
    オセはそう言って、ガミジンに果実を差し出した。山葡萄のように見える。
    「干し肉はあるだろうけど、水がないから代わりにこれで喉を潤しなさい」
    彼女からの助言に従い、ガミジンは喉を潤しながら、オセに問う。
    「……一人が好きなわりに、妙に世話を焼くじゃねぇか」
    「ほんの気まぐれよ。本当はあまり口出しもしたくはないのだけれど、キミはソロモンくんの軍団にいるメギドだもの」
    「そうかよ……テメェは、メギドの力を取り戻せて満足か?」
    「退屈だから出てくる話題とは思えないのだけれど、何が聞きたいの?」
    「テメェは軍団を持たないメギドだったんだろ」
    「ええ、一人だったわ」
    「俺も一人で生きてた。だが、追放されて、ヴィータになって……一人で生きていけなくなった。だがテメェはずっと一人なんだろう、どうやったらそんな風に生きられる」
    「おかしなことを聞くわね、あたしだってヴィータになってるのに。そうねぇ……ずっと一人だったけど、それでも赤ん坊の頃はあったんじゃない?」
    「うろ覚えなのかよ」
    「記憶にないもの。その頃に死んでないんだったとしたら、あたしはヴィータか獣かのどっちかに助けられたってことになるわ」
    「まあ、そうなるか」
    「それが自然、野生の摂理ならあたしはそれに従う。ヴィータだろうと、獣だろうと、情けをかけて誰かを生かすなら、あたしも同じように誰かを生かすわ。昨日キミを救ったのと同じように」
    オセの言葉を聞き、ガミジンは複雑な表情を浮かべた。
    「結局一人じゃないのよ、あたしたちって。メギドの力があってもなくてもあたしはあたし。でも、環境が変わればあたしが持つ役目は変わる。それだけのこと」
    「……よく、割り切れるもんだな」
    「あたしより、キミの方がよっぽど割り切れてるでしょ。自分の自由よりも軍団の規範、個人の利益より軍団の利益。理想的な個全分断じゃない。それじゃあダメなの?」
    「ダメだ。……どうしても、『一人』で居たくなる。他人といることが、どうしようもなく嫌になるんだよ」
    「意外だわ。ガミジンはもう少しヴィータや軍団が好きだと思っていた」
    「……全員が好きになれる訳じゃねぇ、気に食わねぇ奴も、どうしたって考えが合わねぇ奴もいる。それに適応してるだけだ」
    「へえ……嫌になっていたとしてもそれを隠してるのね」
    「それが軍団ってもんだろ」
    「そうね、でもあたしはそれが嫌だった。できることなら一人でいたい、あの軍団はそれなりに好きだけれど……飽きたらどこかへ行ってしまうわ」
    「野生的ってやつか?」
    「フフフ、そういうこと。息がつまるなら、何度だって自分が自分らしくいられる場所に帰ればいいのよ。あたしがそうするように、それがキミにとって楽になるための手段になるかはわからないけれどね」
    「……自分らしくいられる場所、か」
    雨が上がり、昼下がりの山に暖かな陽光が射し込む。
    「もう大丈夫そうね、それで、キミはどこへ行くの?」
    ガミジンは、少し考えて立ち上がる。
    「一旦はアジトへ戻るが、そのあとは、行きてぇ場所に帰る。……今はそうしてぇ気分だからな」
    「キミがしたいようにすればいいわ。それじゃ、またいつか会いましょ。戦場かアジトで」
    そう言って、オセは山の更に奥へと消えていく。彼女もまた、自分らしくいられる場所へと行くのだろうか。ガミジンはその背中が見えなくなるまで彼女を見つめ、そして踵を返して歩き始めた。
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