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    とこ*

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    とこ*

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    知凛/ちねりん カプ未満 ちょっと不穏
    ⚠モブ同級生→寛へのいじめとも取れる表現が軽微ながらあります

    #知凛
    rin
    #ちねりん
    longevityWheel

    【知凛】海鳴り「あっ知念やぁ!」
    「マジムン!マジムン!」
    「目ぇ合わさんけー!石になりゆんどー!」

     ああ、まただ。凛の頭にカッと血が上って、激昂は考えるより先に言葉となって、気が付けば口から飛び出していた。
    「グラァッ!ぬーあびちょーがよッ!言いたい事あるんならこっち来て正々堂々と知念にあびれやッ!くぬフリムンがッ」

     よくある子供らしい悪ふざけ、大人が見ればせいぜいその程度の事と思うかも知れない。だけど遠くから浴びせられる揶揄いの言葉――奴らは絶対近くでは言わない――、寛に投げつけられる言葉の数々は、凛の目には無数の針に見えた。寛は何を言われたところで表情を崩さない。それでも針は確実に寛の心に刺さっているように凛には思えて、同時に凛の心までもがチクチクと痛んで、いつだって言い返さずにはいられなかった。
    「ま~た平古場よ」
    「まぶやぁまぶやぁ~!」
    「逃げろッ」
     砂浜を見下ろす国道の向こう、小さい小さい影たちが散り散りに消えていく。弱虫、卑怯者。凛はぎり、と唇を噛んで寛の方へ向き直る。寛はただ砂浜に膝を抱えて座ったまま、陽が沈みゆく水平線を眺めていた。

     六年生に進級した時点で、寛の身長はゆうに180を超えていた。元から脂肪が付きづらい体質なのか、鍛えれば鍛えるほど筋肉は骨身に貼りつくように研ぎ澄まされて、身体は縦に縦にと伸び続けた。同級生の目にその長身は畏怖の対象として映り、しかし堂々たる見た目に反して寛は寡黙な性格であったから、子供たちの幼い畏怖はたちまち浅はかな攻撃性へと変わった。

    「悔しくねーんかッ。いっつもいっつもよ、あんな風に遠くから好き勝手あびられてよッ」
     心無い言葉を何度浴びせられたところで、寛は何ら反応を示さなかった。その様子が凛には歯がゆくてしょうがない。卑怯者どもを追い払った後は、同じくらいの剣幕で寛に食って掛かるのが常だった。
    「ん、凛」
     のんびりと顔を上げ、自分の隣、砂浜をぽん、ぽん、と叩く。いつもだったら素直に横に腰掛けて、気にすんなよ、気にしてないよー、と言葉を交わし何となくうやむやになってしまうところだが、今日という今日は我慢できなかった。小学校卒業までこんなくだらないちょっかいが続くのか?いや中学に入ったとて同級生の顔ぶれにさして変化は無いだろう。このまま友人がナメられ続けるのは我慢ならない、自分がナメられてるのと一緒だ――。凛は隣に座る代わりに、寛の腰に素早く馬乗りになって上半身をどさり、と砂浜に押し倒した。肘で巧みに受け身を取りながら、寛はされるがままに仰向けになった。覆い被さってくる凛の長髪が頬に掛かる。それでも表情を崩すことは無かった。
    「……知念」
    「ぬーがよ、凛」
    「何で言い返さねーんばぁよ。やーが黙ちゅーから、あぬフリムン(バカヤロー)どもが調子に乗るんどー⁉」
    「言い返す……何てや」
    「知らんッ!」
     寛の胸倉を掴んで凛が叫ぶ。全身に怒りをたぎらす凛の姿が自分よりもよほど傷ついている様に見えて、寛は凛の腰の辺りをぽん、ぽん、とあやすように叩いた。
    「なんか……腹立ったらよ、ビャーッてあびれよ。悔しかったらよ、思いっきりわじれよ……」
     いくら言葉を荒げたところで、寛はそんな凛をふんわりと受け止めてしまうから、凛の激昂はみるみるうちに萎んでどこかへ消える。胸倉を掴む手を離して、わっさん、と小声で呟いた。寛は何も言わず、今度は凛の太ももをぽん、ぽん、と叩いた。いいよ、と言っているのが凛にはわかった。
    「……あんしぇー、帰るど」
     バツが悪くなり、のろのろと立ち上がる。凛が退いた後も寛は仰向けのまま動かない。「ン、」と差し出された凛の片手をそっと掴んで、それでも起き上がろうとしなかった。
    「凛」
    「……ぬーがよ。ほれ起きれよ」
    「わんはよ、腹も立ってなければ、悔しくもあらんよ」
    「……」
    「本当だよー。ああやって、何やかんやあびられてもやぁ、本当に、一個も、なんとも思わんからよ。だから、何て言い返せばいいのかもわからんのさぁ」
     寛の顔は夕陽を浴びてハッキリ見えるはずなのに、次第に靄がかかったように表情が見えなくなっていく。凛は目を細めて、寛の手を握ったまま不思議な靄を見下ろし続けた。乾いた砂が潮風に舞って、二人の頬をパラパラと優しく叩いた。
    「……わったーが、道場で知り合ってから、もうどのくらいになるかねぇ」
    「は……?」
     二人が武術道場で出会ったのは小学校に上がるか上がらないか位の時だったから、凛は「六年くらいかや」とぶっきらぼうに応えた。そうだねぇ、と相槌を打つ寛の声は波の音にかき消されそうに小さいのに、凛の耳のすぐ傍で囁いている様に明瞭に響いた。
    「わったーは、強く(ちゅーく)なったよねぇ」
    「あー、まあ……うん」
    「いくら遠くにいる相手でもよ、例えば……縮地で距離詰めて、上段で蹴り入れたら、全員、怪我で済むかはわからんワケよねぇ」
    「え」
    「この片手でよ、首掴んで……ちょっと力入れゆん、そしたら、あったーはすぐに死んでしまうワケよねぇ」
    「知念」
     寛の大きな手。今凛の手を握っている、優しく大きな手。知らず力が入って凛はその手を握りしめた。寛はあくまで脱力したまま続けた。
    「あっけないモンさぁ。弱すぎて、かわいそうになりゆん。気の毒になりゆん。だからひとつも腹が立たんのさぁ。あったーはちむーどー、わんはちゅーばーどー」
     歌うような寛の口調だった。確かに――虫ケラが遠くで喚いたところで何ら腹立つものでも無いだろう。いや、虫ケラは人を傷付けるような事を言わないのだから、あんな奴らより上等だ。凛は腹の底から可笑しくなってきて、は、と息を洩らした。
    「だーな」
    「だーるよ」
    「虫ケラの方が上等やぁ」
    「……?決まちゅーさね。虫ケラは可愛いよー」
    「ははっ」
    「ふふ……」
     じゅんに哀れな奴ら、しに愚かな奴らだ。そう、やろうと思えばいつだってやれる、何と言ってもわったーは強いのだから。武術の心得がある者が素人に手を出す事は言うまでもなくご法度だ。だから寛が他者に手を上げるくらいならば、万が一そんな局面が来るならば、寛がやる前に前に自分がやろうと思った。何故かわからないけどそうしようと思った。

     先ほどから寛の顔を覆っていた靄はどんどんどんどん濃くなって、今では顔全体が真っ黒に塗りつぶされて表情は伺い知れなかった。ただ漆黒の靄の中、きらきら光る二つの瞳。どこまでも澄んだ白目と闇に沈む黒目。見つめる凛の胸の中、ざざー、ざざーと激しい潮騒が渦巻いて、渦は次第に全身に広がって、耳の奥まで痛いほど。ざざー、ざざー。
     海鳴りに包まれて二人きり。胸踊るような、恐ろしいような、ずっとこのまま居たいような。初めて知る胸のざわめきは恐らく愛だった。だけどそれが愛だと気づくには、凛はまだあまりにも幼かった。

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