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    yomo_IV

    @yomo_IV

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    yomo_IV

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    ドルカシと言っていいのかわからないけど、そのつもりで書きました
    色々捏造しています

    ◆◆◆
     たまに、夢を見るんだ。
     暖炉に焚べる木も尽きてしまった小屋の中、巻いてもらったマフラーを握り締めて震える小さなボクの手を引いて、ママを探しに行くんだ。

     ところでキミは、パナシェ山って行ったことある?
     すごく静かで、すごく綺麗な山。初めて見た時は、山自体が彫刻のように見えたっけ。そんな山で生まれた氷も、やっぱり美しくてね。自然に生まれた氷なのに、不純物がほとんど入っていなくって、食べるのはもちろん氷像にも重宝されているんだ。
     ママは、その氷を使いたかったんだって。ボクも噂は聞いたことがあったから、そんな氷を使ったママの彫刻は芸術祭で一番目を惹くだろうと思った。
     何より、ボクが見たかった。
     だから一緒にパナシェ山へ行った。氷の塊が彫刻に変わって行く所は、本当に美しかったなぁ。

     …………ああ、ごめん。話がそれちゃった。
     ママを探しに行って、二人で声を枯らしてママを呼ぶんだ。いたら返事して、お願い、祈るような気持ちで叫ぶんだ。
     けれど、吹雪がごうごうと声を奪っていく。小さなボクが泣き出してしまう。ママはどこにもいない。まっしろな世界をただただ歩き続ける。

     そんな夢を、見るんだ。


     暖色の明かりに照らされた青白い横顔が訥々と吐き出す言葉を、カシスはうんうんと頷いた。一通り吐き出したところで少し感情の整理が出来たのか、シードルの唇からひどく重たいため息がまろびでた。
     時計の針は深夜を示している。普段は気にも留めない森のざわめく声が、やけに大きく感じる静かな夜だった。唸り声とも呻き声ともつかぬ声に目が覚めたカシスは、しばらく考えて、うなされている声だと結論付けると眠り直そうとした。
     しかし、増す一方の悲痛な声に寝るに眠れず、仕方がないとシードルを揺り起こしたのだった。
     夢に半身浸かったままのシードルが、ぼんやりと自分を現実に呼び戻すように話し始めたので、カシスは部屋に備え付けてあったスツールを引っ張り出してそこに腰を落ち着かせた。
    「よく、見る夢なんだ。心配しなくていいよ。起こしちゃってごめん」
    「いいよ。いつもはナイフを磨いてる時間だ」
    「そうなの? キミって夜更かしなんだなぁ。身長、止まっちゃうよ」
    「これ以上大きくなれって? 期待されてんなぁ」
     軽い調子の言葉に、シードルが安心したように笑う。額や頬に張り付いた髪をほぐしながら身の回りを整えていたシードルが、急に「うわあ」と眉を寄せた。冷や汗で張り付いたパジャマは、カシスの目から見ても不愉快だろうことが窺える。
    「替えの服は?」
    「洗って干したばっかり。まだ乾いてないかも……」
    「タイミング悪かったな。裸で寝る?」
    「いやだよ、風邪引いちゃうじゃないか」
    「そのままなら、どっちにしろ同じだろ」
    「そうだけどさぁ~……」
     自分の荷物から普段着を引っ張り出して神妙な顔をしているシードルに、カシスは上を脱いで放り投げた。
    「うわ!? なに!?」
    「ないよりマシだろ。上だけなら貸してやるよ」
    「風邪引かない?」
     戸惑ったような声を背中に受けながら、カシスはスツールを元いた場所に片付けた。言われてみると少し肌寒い。夜明けを期待してみたが、窓から見える空はまだ暗かった。朝にはまだ時間があるだろうな、と思う。
    「毛布被れば平気だよ。ほら、寝ちまおうぜ。明日もあるんだから」
    「……ボクのベッドびしょびしょだけど、本当に借りていいの?」
    「じゃ、オレのベッドで寝る?」
     着替えているらしい衣擦れの音がぴたりと止んだ。カシスは一度横たえた体を起こして、シードルの方を見た。自分よりも細い指先が迷うように揺れていた。
    「それ、ボクがキミのベッドを借りるって話? キミはどこで寝るの?」
    「オレ? 別に、床でも寝れるよ」
    「それこそ風邪引いちゃうじゃないか!」
     思わずと出してしまったらしい大声に、シードルはすぐにバツが悪そうに首を縮めた。
    「一緒に寝るには狭いだろ。他にないじゃん。たまには年上に甘えてもいいんじゃない?」
    「……床でも眠れて、甘えてもいいって言うなら、一緒に寝ようよ。少しくらい我慢できるし、キミだってできるでしょ」
     今度はカシスが肩を竦めざるを得なかった。これで頑固な所があるというのは、マサラティ村で痛いほどに思い知っている。着替え終わったシードルが、カシスのベッドの前に立ちはだかった。
    「できないって言ったらどうするんだよ」
    「考えてないや。……言わないでしょ?」
    「言わないけどさぁ……」
     青白かった頬に血の気が戻っていることに気がついた。かわいそうに震えていた指先は、カシスの憐憫を幾ばくか誘ったものだが、今はすっかり落ち着いている。とはいえ、悪夢が尾を引いて一人寝に抵抗があるだろうことは想像に難くなかった。
    「それじゃ、いいよね」
     そうでなければ、こんなに強引に話を進めようとはしないだろう。焦れたらしいシードルの膝が、場所を空けろとカシスの脇腹をつついてきた。
     腹を割りすぎるのも問題だな、と帰ってきた眠気の中で考える。断る手段を考えるのも億劫になってきたので、カシスは壁と仲良くして眠ることにした。
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    Replies from the creator

    yomo_IV

    DOODLEシードルとガナッシュ
    ED後/尻切れ
    ◆◆◆
     ボク、キミを知りたいと思ったんだ。
     シードルと向き合うように置かれたカンバスの奥に置かれたスツールへ腰掛けて早々、そんな言葉が飛んできた。予想だにしていなかった言葉だったものだから、ガナッシュは驚いて「そうなんだ」と素っ気ない返事しかできなかった。
     一呼吸おいてから、カンバスに姿を切り取られたシードルの様子を窺う。別段気を悪くした様子はなかった。琥珀色の絵筆がするするとカンバスの上を泳いでいくのが、たまにガナッシュの方からも見えた。
     知りたいとは、どういうことか。
     臨海学校を終えてから、以前にも増して芸術一辺倒となったシードルのことを、ガナッシュは理解できない時がある。知りたいのならば、膝を突き合わせて話した方がいい思うのだが、どうやら彼にとって語らうことは知ることではないらしい。

     選んだ授業を終えて、さあ帰るかとガナッシュが荷物をまとめていると、別の授業を選択していたはずのシードルがガナッシュの元にやってきた。絵のモデルになってほしいのだと言う。
     オレでいいのかと聞くと、キミがいいんだよ、と何故だか笑われてしまった。そう言われては、断る理由がない。カバンに荷物 1305

    yomo_IV

    TRAININGカシスとシードル
    ED後
    ◆◆◆

     西日の差し込む美術室の、準備室に続くドアの隣に置かれた古いイーゼルと、長い年月の染み込んだ角いす。用事のない放課後、いつもシードルはそこにいた。誰もいない美術室を満たす画材たちの香りが好きだった。
     今日もまた、シードルはイーゼルの前に座っていた。立てかけたカンバスに筆を走らせていたシードルの耳に、ふと扉が開く音が届いた。絵を描くことに没頭しすぎて、マドレーヌ先生が下校を促しに来ることがままある。またやってしまっただろうか。シードルは窓へ一瞥を向けて、おや、と思った。まだ、夜の帳は下りていない。
     であれば、なにか別の用事だろうか。絵筆を転がらない場所に置き、振り返る。
    「よう」
    「カシス!?」
     青天の霹靂。彼の扱う魔法からするに、窓から槍の方が的確だろうか。何はともあれ、予想だにしていなかった来訪者に、シードルはひどく驚いた。
     当の本人はそんなシードルを気にもせず、適当な角椅子を下ろして座った。シードルにとってはちょうどいい角いすも、カシスが腰掛けると随分と窮屈そうに見えた。
     すっかり筆を止めてしまったシードルに、カシスがゆっくりと瞬く。
    「なんだよ、描かないの?」 3398

    yomo_IV

    TRAININGカシスとガナッシュ
    ED後。大学みたいな場所というのを失念してました。大学なら……みんな一緒に卒業だよな……。
    くたびれた靴で踏みしめた砂利が、レンガと揉まれてざりざり悲鳴を上げている。日中の喧騒であれば取るに足らないその音も、深夜ともなれば街並みによく響いた。時間さえも眠ってしまったのではないか。そう錯覚するほど静かな暗い道の先に、最低限のあかりを灯したウィル・オ・ウィスプが静かに佇んでいる。

     ここまで足を運んだのは、ただの好奇心だった。夜間に学ぶ人々がいると聞いたから、なんとなく夜に浮かぶ学校を見てみたかった。
     いざ目の当たりにしてみると、もっと早くに訪ねたらよかったな、と思った。よく知った建物の、知らない空気を歩いてみたかった。先日、晴れて卒業生となったばかりのカシスには、学び舎に立ち入る用事がない。
     不意に街並みを嘗めた風に煽られて、カシスは肩を震わせる。インバネスを羽織っていても、冬の風は刺さるように冷たい。
     明日から、カシスは旅に出るつもりだ。それなのに体調を崩すのはまずい。寒さに縮んでしまった背筋を伸ばして、踵を返そうとした。その時だった。
    「こんな時間に、遠くまで買い物?」
     誰もいないと思っていた場所に、聞き馴染みのある声が響いた。驚きこそしたものの、知っている声であ 1693

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