好きだと言われた。そうか、と思った。友愛でないのは顔を見れば明らかな事だった。他人に対する距離感は気を付けていたつもりだったが、それでもダメな時はダメらしい。
自分しか聞こえない大きさで喉が鳴る。どれほど閉口を貫いても、重なった視線が逃げていかない。風が下がった頬を撫でていく。上手い断りの文句も、適当ないなし方も思いつかなかった。オレも好きだよ、ありがとう、そんな風に流してしまえばよかったのに、なぜだか言葉がべったりと喉にこびり付いて離れずにいる。
背筋がひりひりする。あつい日差しに冷えた頭の裏側が結露しているような、妙な心地だった。好意に対しての言葉なら湯水の如く溢れてくるのに、はいかいいえの簡単な二択が出てこない。
一歩、距離が詰まる。答えを促されたのだと察して、おくびにも出さないものの、いよいよカシスは窮した。
がんと、とつぜん殴られたようだった。知りたくはなかった。喉の奥がひきつれて、腹の底が冷えて、それと対照的に頭がどんどんのぼせていく。絶えず押しては寄せる心音の波が煩わしい。ゆっくりとまたたいて、空を仰いだ。見慣れた雲が、カシスを覗き込んでいる。
「オレと、どうなりたいの」
どうしようもない頭を搾って出した言葉は、そんなどうしようもないもので、カシスはひどく自分に落胆した。