Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    yomo_IV

    @yomo_IV

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 6

    yomo_IV

    ☆quiet follow

    シードルとガナッシュ
    ED後/尻切れ

    ◆◆◆
     ボク、キミを知りたいと思ったんだ。
     シードルと向き合うように置かれたカンバスの奥に置かれたスツールへ腰掛けて早々、そんな言葉が飛んできた。予想だにしていなかった言葉だったものだから、ガナッシュは驚いて「そうなんだ」と素っ気ない返事しかできなかった。
     一呼吸おいてから、カンバスに姿を切り取られたシードルの様子を窺う。別段気を悪くした様子はなかった。琥珀色の絵筆がするするとカンバスの上を泳いでいくのが、たまにガナッシュの方からも見えた。
     知りたいとは、どういうことか。
     臨海学校を終えてから、以前にも増して芸術一辺倒となったシードルのことを、ガナッシュは理解できない時がある。知りたいのならば、膝を突き合わせて話した方がいい思うのだが、どうやら彼にとって語らうことは知ることではないらしい。

     選んだ授業を終えて、さあ帰るかとガナッシュが荷物をまとめていると、別の授業を選択していたはずのシードルがガナッシュの元にやってきた。絵のモデルになってほしいのだと言う。
     オレでいいのかと聞くと、キミがいいんだよ、と何故だか笑われてしまった。そう言われては、断る理由がない。カバンに荷物を詰め込んで、さあさあと促されるままシードルに連れられて、疑問を口にできずに今に至る。
     スツールに座してから、どのくらい時間が経ったのだろうか。確認しようにも、時計はガナッシュの背中側にあった。
     何もせずに座ったままというのは、ガナッシュが考えていたよりも退屈なもので、退屈が過ぎると段々と体が緊張してくる。緊張すると、指や足が勝手に動こうとしてしまう。身じろぎ程度であれば不満そうな視線に刺されるだけで済むのだが、少しでも動こうとすると「動かないで」とピシャリと咎められてしまうので、ガナッシュは退屈をどうにか殺せないか視線を迷わせた。
     肩を寄せ合う石膏像、完成前の油絵、何やら抽象的な形の粘土、立てかけられた版画板。一点一点に視線を向けていると、ふとシードルに目がとまった。美術室の開放的な窓から差し込んでくる陽光に濡れた髪が、きらきらと輝いている。伏せられていた睫毛が上を向くと、奥から紫水晶を水でといたような色の瞳が現れた。唇から浅い吐息が逃げていく。
    「なに?」
     いつのまにやら筆を止めていたシードルがこちらを見ていた。手持ち無沙汰だったから絵に熱中する姿を観察していた、などと言えるはずもなく、ガナッシュはゆっくり頭を振る。
    「……なんでもない。できたの?」
    「ううん、あと少し。キミって絵になるね」
    「そうかな」
     キミの方が絵になるだろう、とガナッシュが言う前に、シードルが楽しそうに笑った。
    「そうだよ。他の人が持っていないものを持ってる。芯の強さって言うのかなぁ。ブルーベリーも、強くてキレイなんだけど……ガナッシュとは少し違うんだ」
     絵の具のついた筆をタクトのように揺らして、シードルがなにやら一人で合点したように頷く。その穂先はすぐにカンバスに戻って行った。
    「描いていて楽しいよ。キミのことが少しずつわかってくる。ねえ、ガナッシュ。キミは昔よりも、ずっとステキになったね」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    yomo_IV

    DOODLEシードルとガナッシュ
    ED後/尻切れ
    ◆◆◆
     ボク、キミを知りたいと思ったんだ。
     シードルと向き合うように置かれたカンバスの奥に置かれたスツールへ腰掛けて早々、そんな言葉が飛んできた。予想だにしていなかった言葉だったものだから、ガナッシュは驚いて「そうなんだ」と素っ気ない返事しかできなかった。
     一呼吸おいてから、カンバスに姿を切り取られたシードルの様子を窺う。別段気を悪くした様子はなかった。琥珀色の絵筆がするするとカンバスの上を泳いでいくのが、たまにガナッシュの方からも見えた。
     知りたいとは、どういうことか。
     臨海学校を終えてから、以前にも増して芸術一辺倒となったシードルのことを、ガナッシュは理解できない時がある。知りたいのならば、膝を突き合わせて話した方がいい思うのだが、どうやら彼にとって語らうことは知ることではないらしい。

     選んだ授業を終えて、さあ帰るかとガナッシュが荷物をまとめていると、別の授業を選択していたはずのシードルがガナッシュの元にやってきた。絵のモデルになってほしいのだと言う。
     オレでいいのかと聞くと、キミがいいんだよ、と何故だか笑われてしまった。そう言われては、断る理由がない。カバンに荷物 1305

    yomo_IV

    TRAININGカシスとシードル
    ED後
    ◆◆◆

     西日の差し込む美術室の、準備室に続くドアの隣に置かれた古いイーゼルと、長い年月の染み込んだ角いす。用事のない放課後、いつもシードルはそこにいた。誰もいない美術室を満たす画材たちの香りが好きだった。
     今日もまた、シードルはイーゼルの前に座っていた。立てかけたカンバスに筆を走らせていたシードルの耳に、ふと扉が開く音が届いた。絵を描くことに没頭しすぎて、マドレーヌ先生が下校を促しに来ることがままある。またやってしまっただろうか。シードルは窓へ一瞥を向けて、おや、と思った。まだ、夜の帳は下りていない。
     であれば、なにか別の用事だろうか。絵筆を転がらない場所に置き、振り返る。
    「よう」
    「カシス!?」
     青天の霹靂。彼の扱う魔法からするに、窓から槍の方が的確だろうか。何はともあれ、予想だにしていなかった来訪者に、シードルはひどく驚いた。
     当の本人はそんなシードルを気にもせず、適当な角椅子を下ろして座った。シードルにとってはちょうどいい角いすも、カシスが腰掛けると随分と窮屈そうに見えた。
     すっかり筆を止めてしまったシードルに、カシスがゆっくりと瞬く。
    「なんだよ、描かないの?」 3398

    yomo_IV

    TRAININGカシスとガナッシュ
    ED後。大学みたいな場所というのを失念してました。大学なら……みんな一緒に卒業だよな……。
    くたびれた靴で踏みしめた砂利が、レンガと揉まれてざりざり悲鳴を上げている。日中の喧騒であれば取るに足らないその音も、深夜ともなれば街並みによく響いた。時間さえも眠ってしまったのではないか。そう錯覚するほど静かな暗い道の先に、最低限のあかりを灯したウィル・オ・ウィスプが静かに佇んでいる。

     ここまで足を運んだのは、ただの好奇心だった。夜間に学ぶ人々がいると聞いたから、なんとなく夜に浮かぶ学校を見てみたかった。
     いざ目の当たりにしてみると、もっと早くに訪ねたらよかったな、と思った。よく知った建物の、知らない空気を歩いてみたかった。先日、晴れて卒業生となったばかりのカシスには、学び舎に立ち入る用事がない。
     不意に街並みを嘗めた風に煽られて、カシスは肩を震わせる。インバネスを羽織っていても、冬の風は刺さるように冷たい。
     明日から、カシスは旅に出るつもりだ。それなのに体調を崩すのはまずい。寒さに縮んでしまった背筋を伸ばして、踵を返そうとした。その時だった。
    「こんな時間に、遠くまで買い物?」
     誰もいないと思っていた場所に、聞き馴染みのある声が響いた。驚きこそしたものの、知っている声であ 1693

    recommended works