それぞれの両翼『それぞれの両翼』
まっしろ、はじまりのいろ、けがれなきいろ、マサラタウンーーー。
そこへと向かう大きな影。リザードンに乗って故郷へと向かうグリーン。
「・・・・・・む」
そのマサラタウンに入る手前でグリーンは下にある影を見かけた。馴染みのある帽子とフシギバナ。
「リザードン、降りてくれ」
グリーンの要求にリザードンはすぐ応じて、下降する。
降りていく間に、レッドと相手しているトレーナーのバトルを見る。相手のポケモンはカントー地方のポケモンではないのはわかった。おそらく、レッドの名を聞いてはるばる遠いところから来て、挑戦をお願いしたのだろうと推察する。
相手のポケモンとトレーナーもいい動きをしていることは遠目でグリーンもわかる。だが・・・・・・それ以上にレッドの動きが冴えている。
「フッシー!そこだ!ハードプラント!」
草タイプの奥義技を指示したレッド。反動が大きい技だが、威力は絶大。フシギバナの背にある大きな花から太い蔦が伸びて、相手のポケモンに当たった。
「ルチャブルー!」
ポケモンの名前を叫ぶトレーナー。それを聞いて、カロス地方のポケモンかとグリーンは気づく。
相手のトレーナーのルチャブルはハードプラントを受け、背を地面に着けて倒れたまま動かなかった。
「よし!」
レッドは、ぐ!、と拳を握った。
相手のトレーナーは項垂れつつもルチャブルをポケモンに戻した。
「・・・・・・なんもできなかった」
絶望するような声音。誰にも聞こえないくらい。
だが、影で見ていたグリーンには聞こえていた。
(また強くなっているのか、レッド)
ここ最近のレッドとそのポケモンの成長が著しくなっている。確かに彼は”戦う者”の二つ名として、バトルが強い。だが、本当にここ最近の強さはどこか異次元さを感じさせている。
「ありがとな!遠いところから!」
レッドもフシギバナをボールにしまうと、トレーナーに近づいて、握手を求めるように差し出した。
その手をトレーナーは見るが、ふい、と目を逸らした。
「ああ」
短く返事しただけで、踵を返して行ってしまう。そこにぽつりと立ちすくむレッドと木陰に潜むグリーンだけになる。
「・・・・・・これ以上本気になったらだめなのかなぁ」
レッドの呟きに、グリーンは思わずその場から出て何か答えたくなったが、今は何も彼にかける言葉は持ち合わせておらず、踏みとどまった。
レッドがそこから立ち去るのを見てから、グリーンは再びリザードンを出して、目と鼻の先ではあるもののマサラタウンへ向かう。
先程のレッドの呟きがグリーンの頭の中に響く。
(あいつ、不完全燃焼だったな・・・・・・オレで相手できるか?)
グリーンは自分の考えに少しばかり驚く。レッドとバトルするのに不安に思う自分がいる。彼とはよくいいバトルをするが、自分でも勝率はどうにか五分と言える。
いろいろと物思いに耽るうちに、オーキド博士の研究所へたどり着いた。
リザードンはしばしの故郷を懐かしみたいだろうと、ボールには戻さなかった。
中に入ると先客がいた。
「あら、グリーン、やっほ」
「ブルーか。おじいちゃんに何か用か」
「えぇ。個人的なところも含めて。だから、先どうぞ」
ブルーは掌を上にして、グリーンに譲る。
だが、グリーンはその場からすぐ動かなかった。
「グリーン?どうしたの」
「いや。なんでもない」
「何かあるでしょ。話してご覧なさいな」
グリーンがそっぽを向くのを見て、ブルーは聞く体勢をとる。
小さく短く息を吐く。それから、口を開いた。
「お前、最近、レッドとバトルしたか?」
「レッドと?あ〜・・・・・・2週間くらい前にやったわね。会ったかと思ったら、バトルなんですもの」
ほほほ、と笑って答えるブルー。
「ちなみに、勝ったか?」
「勝てるわけないでしょ、私がレッドに。あ、でもなんとか全滅は免れたわ」
「そうか」
端的に答えるグリーンに、ブルーは訝しんだ。
「ほんとどうしたの、グリーン。あなたがレッドのことで悩んでるのってそんなにないじゃないの」
「あぁ。オレらしくないな」
冗談半分で言っても、真面目に答えるので、より不思議な感覚になり、ブルーは思わず前のめりになった。
「グリーン?なにかあったの、レッドと」
「・・・・・・あったわけじゃないが。レッドの強さ、ここ最近、秀で始めている」
そう始めて、グリーンは先程のバトルのことをブルーに話した。そして、自分が感じたことも。
ブルーはからかいもせず、真剣に耳を傾けていた。
「・・・・・・男ってほんと面倒くさい生き物ね」
出てきた言葉にグリーンは、むっ、と顔をしかめる。
「なんだと」
「私からシンプルに言うとね、私たちが強ければ大丈夫でしょ」
ブルーがさらりと言ってのけるのを見て、グリーンは目を見開く。
それにブルーもやや赤面した。
「柄にないこと言ってるのは自覚あるわ。でもね、レッドの強さ、私もあの2週間くらい前のバトルでひしひしと感じたわ。この人、どこまで強くなるのかしらって。グリーンが感じたように、もしかしたら、あの人はとんでもないトレーナーになる。その時、彼と並ぶような人がいなきゃ、あの人はバトルを楽しめなくなるわ。それなら、私たちが常に強くなっとけばいいわけじゃない」
珍しいブルーの長台詞に、グリーンは黙ったまま。しばらくして、小さく首肯した。
「・・・・・・ふっ。オレの悩みなんざ、お前にかかれば、なんともないってことか」
「なに言ってるの。私もあなたにこうやって、話してみて、私もレッドのこと、改めて不安になったわよ」
ブルーは苦笑いしながら言う。すぐ真剣な表情に戻る。
「でもね、グリーン。あなたにだけは話しとくけど、私はね、レッドを支えるのは私たちでもあるけど、私を支えるのはあなたとレッド、あなたを支えるのはレッドと私って思ってるわ」
この後は言わなくても言っている意味わかるでしょ、とブルーはウインクする。
ふっ、とグリーンはクールに笑う。ブルーから目を離したところで、オーキド博士が立っているのに気づいた。
「おじいちゃん!」
「え?あら、おじいさま!」
ブルーも今気づいた。
オーキド博士は2人の話を途中から聞いていたのか、感慨深そうな表情をしている。
「グリーンよ、良い友と出逢えたな」
一言だけ、オーキド博士は言うと、自分の視線先を指さす。
グリーンとブルーはその先を見て・・・・・・そのまま固まった。彼らの視線先にはレッドがいた。
「え、あっ、悪い・・・・・・オレ、全部聞いちゃってた・・・・・・」
レッドがそう言うと、恥ずかしさでグリーンは顔を片手で覆い、ブルーは自分の髪をいじった。
「おまえな、声かけろ・・・・・・オレたちが恥ずかしいだろうが」
「も〜〜〜・・・・・・」
グリーンとブルーが恥ずかしがるので、レッドも気まずくなったが、それを吹き飛ばすかのように、グリーンとブルーの肩をそれぞれ腕で抱き込むようにして回した。
「ありがとな、2人とも。心配してくれて」
レッドの素直なお礼に、グリーンは小さく舌打ち、ブルーは火照る顔を手で仰いでいた。
「さ!グリーン!オレとバトルだ!」
突然の誘いに、グリーンとブルー、それにオーキド博士はずっこけかけた。
「急だな!」
「いいだろ。なっ」
にっ、と笑うレッドに、グリーンもニヤリと笑い返す。
「負けても知らないからな。あ、ブルー!おまえも!」
「えぇ〜?わたしもぉ〜?いいけどぉ」
言葉は嫌そうにしてても、ブルーの表情もにこやかにしている。
「おじいちゃん、話は」
「うむ。あとでで構わん」
オーキド博士にグリーンは頷くと、レッド、ブルーと共に外へ出る。
3人の後ろ姿を見て、オーキド博士はそっと呟く。
「おまえ達、3人で頂点を目指しておくれ」
Fin.