タケ漣ポリセ 序章新曲の振り付けにはポリネシアンダンスの動きを取り入れようかという案が出ています、とプロデューサーが言った。俺たちTHE虎牙道の新しい曲について、今日は4人で打ち合わせだ。
「おお、いいッスね!情熱的で神秘的な感じッス」
「ポリ⋯?」
「なんだそれ」
円城寺さんはすぐに頷いたけれど、俺とコイツは揃って顔に疑問符を浮かべた。ダンス、は聞き取れたがその前の聞きなれない言葉はなんだろう。
「前にライブでハワイに行っただろ?あの辺りの島はポリネシアって地域になるんだが、そこの伝統的な踊りのことだ」
「ハワイの……フラダンスとは違うのか」
「近いですが、もう少しテンポが早くて力強い感じですね」
「フン。どんなダンスだろーが、オレ様にかかればヨユーだなァ!」
知らないくせに自信だけは有り余っているコイツには呆れるが、実際ダンスとなると一番上手いので言い返せない。
「明日から新曲のレッスンに入ります。もちろん他の仕事もありますので、気力体力のペース配分には気をつけてください」
「了解ッス。頑張ろうな、タケル!漣!」
「ああ。まかせてくれ」
「言われるまでもねぇっての」
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帰宅してシャワーを浴びてから、改めてポリネシアンダンスについてスマホで検索をかけてみた。仕事に関わることなのだし、調べておいて損はないはずだ。ずらっとした文字列のサイトの他に動画がヒットしたので、後者を再生してみる。円城寺さんとプロデューサーの言う通り独特の雰囲気のあるダンスだ。俺たちの曲にどう取り入れられるのか、少しわくわくした気分になる。
「なに見てんだチビ」
俺と入れ替わりでシャワーを終えてきた男は、濡れた髪をタオルで雑に拭きながら覗き込んでくる。髪から伝った水滴がスマホの画面に落ちた。
「髪ちゃんと乾かせ。新曲のダンスの参考に動画見てた」
「オレ様にも見せろ」
「おい、触ると画面が…。もう、オマエも自分ので見ろ!」
俺から奪い取るようにコイツがスマホの液晶を触った拍子にページが切り替わってしまった。画面いっぱいに開いてしまった通販アプリの広告を閉じるべく操作している俺の後ろで、小さく舌打ちが聞こえる。
「メンドクセーな…。えーとォ、なんだったか…ポリ、メシ…?」
「ポリネシアンダンス」
ポー、リー…と一文字ずつ呟きながら手の中の小さな画面を睨んでいる。コイツは文字を打つのが苦手だ。今度音声入力を教えてやろうかと考えて、うまく聞き取られず機械相手にキレるコイツを想像してしまった。ちょっと面白い。
「……なっ、ンだコレ!!」
「うわっ」
急にコイツが自分のスマホを放り投げた。鈍い音を立ててテーブルの縁に当たったスマホが床に落ちる。「なにしてんだ、危ないだろ」と振り向いた先で、コイツは顔を真っ赤にして眉を吊り上げていた。なんであの動画でこの表情になるんだ? 訳がわからないまま落ちたスマホを拾ってやって何気なく表示された画面を見た。
「“五日間かけて性感を高める究極のセックス法”… なに見てたんだオマエ!?」
「知らねー!! ポリなんとかで探したら出てきたんだっつの!!」
俺までスマホを落としそうになりながら画面をスクロールする。ページの見出しには『ポリネシアンセックス』とあって、おそらく、単語の途中まで入力したら予測で引っかかってしまったんだろう。
「全然別物じゃないか…」
「ウルセー。初めからチビが素直に見せてりゃよかったんだろーが」
二人して性的な話題に取り乱した恥ずかしさもあり、気まずいような生温い雰囲気になる。その空気を破ったのはやはりというか、コイツの発言だった。
「…で、なんだよ。そのポリなんとかセックスって」
「えっ。…オマエ興味あるのか」
「“究極”とかついてたら気になんだろーが。チビこそ興味あんだろ。さっきからずっとそれ読んでるし」
図星を付かれて俺はなにも言えなくなった。
サイトの記事曰く、四日間かけて段々と触れ合いを濃厚にしていき五日目に満を持して挿入に至る。焦らした分だけ性感が高まり絶頂が長く続く。云々。
そういった内容を伝えてやるとコイツは「ふーん」とあまりピンときていない反応をした。
「一回で済むことをわざわざ五回に分けるのかよ。なんでこれが究極なんだ?」
「わからないが…丁寧に時間を掛けるとよくなるんじゃないか。料理とかにもあるだろ、そういうの」
「テーネーとか知らねーし。トロっちいだけじゃねーか」
「まあ、オマエみたいに堪え性のないやつには向かないんじゃないか」
「あぁ?」
ついいつもの調子で返してしまって、あ、と思った時にはもう遅かった。
「最強大天才のオレ様がそれくらいで音を上げるわけねえだろ。五日間くらい楽勝なんだよ!」
「…オマエ本当によく考えてから喋ったほうがいいぞ」
to be continued…