reservedシャツに腕を通す。ネクタイを締める。ルーティンと化した流れでカイの身支度は完了する。仕事柄緊急呼び出しも珍しくないから、いちいち準備に時間をかけてはいられない。
「おい起きろ。いつまで寝てるんだ」
未だベッドの中のレッカへ声をかける。まだ覚醒していないのかと思いきや、案外ハッキリと揶揄いを含んだ笑いが返ってきた。
「抱いた翌朝にかける言葉がそれかよ。そんなんじゃモテねえぞ」
「うるさい。早く支度しろ」
へいへい、と雑な返事をしながら起き上がるレッカの肩に解かれた銀髪がさらりと流れる。髪留めどころか、一糸まとわぬ裸体。昨晩、カイが散々触れて、抱きしめて、貪った身体。気まずさにカイはあからさまに目を逸らした。レッカは辺りに放り投げられていた服を拾っては身につけていく。
「いてっ」
小さな呟きだったが反射的にカイは振り返った。レッカの背中のファスナーが半端なところで止まっている。髪の毛の先を噛んでしまったらしい。
「チッ。うぜェ」
「何してるんだ…。直してやるから、髪持ち上げておけ」
「ん」
さすがのレッカでも自分の背中は見えない。見かねてカイが手を出しにいくと存外素直に髪を抑えながら背中を差し出してきた。レッカなりに甘えているのかもしれないと感じながらカイはファスナーに指をかける。
絡まっていた髪を掬い出して、今度はゆっくりと上げていく。背筋のラインを辿るように。終点の襟の先には、白いうなじが晒されている。吸い寄せられるようにカイはそのうなじにキスをした。
突発的かつ衝動的。意味なんて何も込めていない。黙ったまま唇を離すと、レッカが振り向いてニヤリと笑う。
「なんだァ? 今夜の予約のつもりかよ」
「別に。そういうわけじゃない」
カイの否定もレッカは聞く耳持たずだ。上機嫌のまま髪を纏める。うなじが隠される。カイ以外には触らせないとばかりに。
「仕方ねーな。予約されてやる。せーぜー残業すんなよ、くはは!」
「…おまえこそ。いいから、さっさと行くぞ」
「フン、任務なんて秒で片付けてやるっつーの」
ベッドから跳ねるように降りたレッカは、カイよりも先に部屋を出ていく。カイも上着を手に取ると後に続いた。
今日ばかりは、緊急呼び出しがかからないことを願った。