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    小春(刀)

    @koharu_sword

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    小春(刀)

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    途中までです。
    にゃん→ちょぎ、くに→ちょぎで長義くんに片思いしてる南泉&国広が話をしています。
    その会話の中に、鶴ちょぎ描写がありますのでご注意ください。

    #にゃんちょぎ
    cats-eye
    #くにちょぎ
    #鶴ちょぎ

    ガチ勢の話。常に話題の中心はあの人で。

    【タイトル未定】

    「南泉」

    こそっと隠れるように呼んだのは、この本丸の初期刀の山姥切国広だった。
    にゃあ?と首を傾げながらも呼び止められた南泉一文字は、以前頭からすっぽりと布を被っていた頃に呪い仲間さんかと問い、今や顔を隠さなくなった国広の元へと近付いた。

    「んだよ、昼飯食いっぱぐれんぞ」

    「少し話がしたい。昼食後、北の小部屋に来てくれないか?」

    訝しげな顔の南泉など気にしていないというように、言いたいことを言うと、そのまま肩から外套のように羽織った布を翻して、さっさと歩いていってしまった。
    南泉は国広と殆ど接点がない。
    最初に少々話しかけはしたが、古馴染みの写しというほんの僅かな好奇心だけであり、決して社交的とは言えない国広とは態々話すようなことなど無かった。
    その古馴染みが唯一にして最大の接点。
    面倒なことになりそう、そう思いながら──

    「そーいや、オレもアイツに話したいことあった、にゃ」

    取り敢えず昼食を摂る為に、食堂へ向かった。


    ***

    本丸北側の小部屋。
    そこは一日中日が当たらない部屋で、六畳にも満たない名前通りの小部屋だ。
    納戸や物置のようにも使われず、かといって個人部屋に割り振るにも条件が悪く、周りは保管資料の置かれた部屋ばかりで、稀にちょっとした打ち合わせや仮眠程度に使われるような何も無い部屋だった。
    その中で小さな卓袱台の前に南泉がぽつんと座っている。

    「早く来すぎたにゃ」

    誰に言うでもなく、簡素な茶箪笥の上に乗った粗品で貰ったような時計を見た。
    昼間でも電気をつけないと暗い部屋で待つこと数分。
    足音が聞こえると、何となく南泉は座り直し、襖に目をやる。

    「すまない、待たせたな」

    時間を決めていたわけではなく、特に気にしていない南泉は、国広が飲み物や菓子を持ってきていて、どこか気を遣われていることに擽ったくて笑った。

    「で?話って?」

    向かい合い座る。
    初めての時は、会話らしい会話とは言えなかった。
    以前と比べ、随分と雰囲気が変わりはしたが、妙な空気は避けたい南泉としては、早々に本題を切り出した。
    凡そ検討はついている。
    国広と南泉の話題などひとつしかない。

    「本歌のことが・・・聞きたい」

    やっぱりな、と内心頷きながら、南泉は一応「なんで?」と訊く。
    本丸内の大多数が気付いていることだ。
    国広が本歌である山姥切長義に、羨望や憧憬以外の感情を向けていることは。
    そして、長義は南泉の古馴染みであり、本丸内で一番距離が近いと言っても過言ではない。
    用意していた麦茶で口の中を湿らせると、国広は照れたように口篭り、それでいて仄暗いものを瞳に宿して口を開いた。

    「アンタと話している時の本歌は、とても表情豊かだ。普段どんな感じなのか、何を話しているのか・・・知りたいんだ」

    静かだが思い切った告白のように、国広は言い切った。
    南泉は背中に入れていた力を抜くと、卓袱台に肘を着いて「ふーん」と口角を上げる。

    「そうだにゃあ・・・話してることは別に他愛ねーよ。飯や戦の話、たまに昔話もするくらいだな。互いに色々知ってっから、そういったモンも織り交ぜてにゃ。まぁ、此処は騒がしいから話題に事欠くことないしなぁ」

    だらしなく肘を着いた掌の上に顎を乗せ、ふにゃっと顔を綻ばせた。
    戦帰りにそのまま主の仕事を手伝い、徹夜して風呂で溺れかけたこと、放っておくと食事を抜きがちになってゼリー飲料で済ませて怒られていること、朝が弱く部屋を出るまで酷い顔をしていること、酔うと少しだけ素直になること。
    思い出しながら話す南泉は幸せそうに笑う。

    「そういう隙を周りに見せりゃ、アイツももっと楽に生活出来るんだろうけどな」

    土台無理な話だった。
    此処には数多の名剣名刀が居て、何より写しである国広が居る。
    長義の性格をよく知る南泉は、余程吹っ切らない限り大きな隙は見せないだろうと分かっている。
    しかし分かっていても、少し悲しいのだ。
    国広が悪いわけではないのだが、どうしたって長く傍に居た古馴染みの肩を持ってしまう。
    ふぅ、と小さく息を吐き、すっかり自分の思考に浸ってしまったことを思い出して、ハッと国広に顔を向けた。
    あまり変わらない表情だが、眉を寄せて難しい顔の国広にしまったと南泉は慌てた。

    「いや、別に・・・これは自慢とかじゃ」

    国広は長義が好きで、それは南泉も同じなのだ。
    有り体にいえば恋敵だが、互いの性格から仲間を蹴落すという選択肢は無く、至って平和な関係を築いている。
    接点がないだけともいうが、面と向かって長義の話をしたのは初めてで、些かの照れと妙な後悔が走った南泉は言葉を探した。
    だが、それより早く国広が暗澹とした目で口を開いた。

    「・・・なんだそれは。南泉は本歌のことを訊けば性格が悪いなどと悪口雑言を吐き、そんな気安い関係のお前に対し、嫉妬と羨望を抱く俺という図こそが様式美であり本来の姿だろう。俺の中の公式と解釈違いなんだが?」

    「は?公式・・・?か、解釈・・・」

    国広から出てきた言葉がいまいち理解出来ず、南泉は顔を顰める。

    「偉大な原作を知らないのか」

    「いや待て、原作って名前の現実見なきゃなんねーのはお前だにゃ・・・二次創作の見過ぎだ。アイツの性格が悪いのは分かってるけど、本気で嫌なら一緒になんて居ねえし、喧嘩する時は互いに顔面狙うし、こちとら諸々込みで慣れてんだよ」

    なんとか南泉も言い返したが、熱くなった国広は止めることが出来ない。
    グッと拳を握り、熱弁は続いた。

    「何より・・・何なんだその南泉に見せる本歌は!ほんかわじゃないか!少し抜けてて、面倒臭がりで、優しくてどこか甘えん坊で・・・本歌は完璧で隙がないんじゃないのか!俺に向ける永久凍土のような冷ややかな目は何なんだ!ソースは何処だ!」

    「うるせーよっ・・・何だ、ほんかわって。顔面殴ってくるっつってんだろ。つか、ソースはオレだにゃ。お前こそ何だよ、拗らせた解釈厨のオタクみてぇなこと言いやがって・・・そんなんだから引かれてんだよ!にゃー!」

    釣られるように少し声を大きくして言い返した南泉が、一気に疲れたように肩を落として、盛大に息を吐いた。

    「はは、すまない。これは嫉妬だ・・・アンタに悪気がないのは分かってるし、進展のない幼馴染ポジというのも俺としては羨ましいが、アンタにしたらもどかしいものなのだろう。つい熱くなってしまった」

    「お前・・・修行帰ってきてから、ほんっとイイ性格になったよな。似てねえって思ってたけど、謝る気ゼロで皮肉混ぜてくるとことかはアイツの写しだって心底思うわ」

    「褒められたと思っておこう」

    そういうとこにゃ、とボヤいた南泉は話の途切れた余白を埋めるように「オレも、話したいことあったんだ」と続けた。
    国広の目的は既に済んでおり、南泉の思いがけない申し出に興味深そうな目をする。

    「いや、うーん・・・お前にする話でもないけど、オレだけじゃ抱えきれねえし、話すならお前だとも思ってて・・・にゃ」

    「・・・・・・本歌のことか?」

    歯切れの悪い南泉に身を乗り出すように国広は食い付き、いそいそと大瓶に入っていた麦茶を注ぎ直した。
    完全に聞く姿勢を取っている。
    さあ話せ!と言わんばかりの熱い視線に、南泉はたじろぎながらも思い出すように天井の隅を見ながら口を開いた。

    「前に演練行った時、政府所属の化け物斬りってのに会ったんだ。バグ個体ってやつで本丸に配属出来ねえ奴らしい」

    「は?お前、本丸の本歌だけでは飽き足らず他所の本歌まで手を出す気か?・・・というか、政府所属の男士など居ないだろ」

    何らかの事情や、特命調査などで一時預かりはあっても、正式配属という扱いは無いとされているのは周知の事実。
    これは、監査官としての任に就いていた長義すら例外ではない。
    審神者あっての刀剣男士なので、政府刀と呼ばれる特命調査から合流する者であっても、それは政府と本霊の仮契約のようなもので、各本丸で改めて励起することにより、分霊との本契約が成されるというのが、審神者や刀剣男士の知るところだった。

    「いや・・・アレは特例、会えば分かるし・・・うちの化け物斬りも知ってる奴だった。オレが会ったのは、限りなく本霊に近い個体でな。つまり山姥切長義じゃなくて・・・本作長義以下五十八文字略、なんだにゃ」

    国広による不名誉な誤解も何のその、南泉は押し切るように言った。
    そして、それを受けてコップ片手に国広は固まっている。

    「で、オレはそいつに声を掛けられた。政府には預りや保護でもオレの個体は居ねえから、珍しかったらしい」

    背後に宇宙を背負った顔をする国広に、南泉は「そりゃそうだな」と苦笑し、自分もあの時は同じ顔をしていただろうと、並々と注がれていた麦茶をふた口飲んだ。



    「猫殺しくんじゃないか!」

    背景に花が見えるような笑顔で近付いてきたのは、見知った顔。
    密集度の高い演練場から少し離れた場所で、声を掛けられた。
    そんなふざけた呼び方をするのは一振りしかいない。
    「あぁ?」と返事をするものの、近付かれて思わず後退った。

    「お、まえ・・・」

    ぞくりとした。
    演練場のざわめきが遠くなる程、心音が煩い。
    懸想する相手と同じ顔だからではない。
    全身が総毛立つ。

    「ふふ、猫殺しくんに会えるなんて俺は運が良い。今時間ある?少しお茶しない?」

    ニコニコとナンパの定番のような言葉を吐き、上機嫌に微笑むその姿は確かに山姥切長義だが、違和感というよりよく知った雰囲気に顔は険しくなる。
    「駄目かな?」首を傾げる長義は、戦装束によく似た格好ではあるが、襟に白の縁が入ったジャケットではなく、黒一色のものを着ていて、ストールも武具も身に付けていない。
    いつもと僅かに違う様相と不可思議な雰囲気に多少の好奇心が頭を擡げ、「いいぜ」短く返事をした。


    お茶と言うからには、適当に近くの店に入るのかと思いきや、有名なコーヒーショップを模した店で飲み物と食べ物を買い、演練場から離れたビオトープのベンチに腰を下ろす。

    「適当に買ったけど、苦手な食べ物あったかな?」

    まさに至れり尽くせり。
    長義は確かによく気がまわるが、内と外の使い分けも激しい。
    普段身内扱いだからこそ、対外的で微妙な距離の差に戸惑う。
    渡されたアイスコーヒーは、透明な容器が日差しに反射して思わず目を細めた。

    「なぁ、おい」

    「あ、ごめんね。俺、刀剣男士の猫殺しくんに会ったの初めてで、少し浮かれちゃった」

    屈託なく笑い、買っていたサンドイッチを食べながら「食べてね」と勧めてくる。
    仕方なくサンドイッチを口に入れると、それを嬉しそうに見ながら長義は勝手に話し出した。
    自分が政府所属であること。
    本霊に限りなく近い力を持っていて、本丸配属は出来ないこと。
    力が強すぎて、人の手には刀解も出来ず本霊に還ることも出来ないこと。
    更に、「君にはこちらの方が馴染みのある名だろ?」茶目っ気たっぷりに肩を竦め、山姥切長義ではなく本作長義の認識が強いことを話した。

    「っぶ は?本作って・・・山姥切は?」

    「驚く猫殺しくんも良いね。言ったじゃないか、本霊に近いって。君と過ごした尾張や美術館で、俺に山姥切の記述が無いのは知ってるだろ?」

    「それは・・・」

    抱え切れない情報量に盛大に噎せてから、相も変わらず笑みを絶やさない長義に言葉は歯切れが悪くなる。
    長義の歴史を語るものには山姥を切った記述が一切無い。
    山姥切長義の名で顕現した時、確かに疑問はあったのだ。
    疑惑と諸説で曖昧な上に、面倒事の多い名を使うことに。

    「知ってるよ、南泉一文字は山姥切長義を化け物斬りって呼んでるんでしょ?君たちは山姥を切った逸話なんて知らないだろうに・・・優しいね」

    「べ、別に・・・アイツの方が化け物斬ってそうだから、そう呼んでるだけ、にゃ」

    「あははっ、その語尾!やっぱり可愛い。そうだ、君のとこの写しくん・・・ええと、ニセモノくんは息災かな?」

    二つ目のサンドイッチを勧めながら、長義がにこやかに口に出した名前は、そしてその口振りは、あまりにも他人行儀なもので、国広は恋敵なのだが、長義の繋がりがひとつ途切れたようで胸が痛む。
    山姥切の名前が無ければ、国広はただの出来が良い写しで、憎悪や敵対心を向ける相手ではなく、分け隔てなく接する相手の一振りとなってしまう。

    「修行行ったから顔も隠してねーし、うちの初期刀だ」

    「そうか、極個体というやつだね。それも初期刀・・・凄いじゃないか、優だね」

    「・・・優、か。アイツが聞いたら泣いて喜ぶだろうにゃ」

    長義は「君は優しいね」と、少し困ったように笑った。
    それから組んだ指を太陽に向けるように大きく背中を伸ばし、感情を誤魔化すように平滑な声を出した。

    「山姥切の名で顕現した俺のことは知ってるよ・・・写しくんとは、あまり良い関係は築けていないようだね。その所為もあってね、政府で一時保護してる写しくん達とも、俺は会ったら駄目なんだ」

    笑顔ではあるが、少し寂しそうで、本丸に居る長義はどうなんだろうと考えた。
    確執はあるが最初のように突っかかったりはせず、距離を取って事務的とはいえ必要なことは話をしている。
    多分、本当に嫌なら顕現すらしなかった筈だとも。
    だからこそ、隣で紅茶を啜りながら終始笑みを絶やさない長義の態度が、最終的な答えなのだろうか、と。

    「猫殺しくん、今色んなこと考えてるでしょ?でもね、関係性というのは君のとこの俺や写しくんが決めることだから、君が悩む必要は無いんだよ。でも、俺が君に甘えた時は少しだけ優しくしてあげてね」

    「ふん、普段から我儘放題だ、にゃ」

    「あははっ、随分君に甘えてるんだね。羨ましいよ」

    長義の本丸での様子を聞きたがり、ひとつずつ答えていった。
    他に仲良くしている刀は居るかと問われ、徳美の面々や同時期に顕現した豊前江、刀工の縁もあり長船や日向正宗、化け物斬りの面から源氏兄弟とも親しくしていると答えると、長義は目を輝かせて聞いている。
    本丸の様子も言える範囲で答え、長義が内番を嫌がる話はかなりウケた。

    「てか、他の化け物斬りとかから、話聞いたこと無いのか?」

    うーん、とまたもや困った顔をし、政府に居る刀というのは預りや保護という言葉で濁してはいるが、基本はこれから本丸配属になる者か、顕現前の初期刀か、何らかの理由で刀解、または別の本丸へ引き取られるのを待つ身の者しか居ない、そう言われて、かなり悪いことを訊いたと後悔した。
    極めて一部ではあるだろうが、決してゼロにはならないブラックと呼ばれる本丸があるくらいは知っている。
    でも一応、と長義は付け加え、胸の内の靄を打ち消すように、にひっと子供のように笑った。

    「他の同位体って呼んでいいのかな?彼らとは顔を合わせたり、話したことがあるよ。君のとこの俺とも会ってるかもね?まぁ、山姥切長義の言葉を借りるなら、格の違いってやつで、皆畏まるけどね」

    「そりゃそうだろうにゃあ」

    常に自信を身に纏っている長義といえど、本霊の存在感はまた別格だろう。
    長義に対し一度として臆したことは無いが、それは本霊同士、分霊同士だから成立したことで、圧倒的な神気を前に他の刀であれば最初に声をかけられた時点で逃げていた。
    数百年を共にした、それも懸想した相手だから、好奇心が上回ったというだけ。



    「とまぁ、なんか変な個体も居るらしくてな。でも、あのガキみてえな笑い方は・・・見慣れたスカした顔より、良かった・・・と思う、にゃ」

    ははっ、と乾いた笑いと共に、南泉はある日の出来事を大まかに話したのだが、正面に座る国広は「で?」と仄暗い目を向けている。

    「にゃっ?顔怖っ」

    「お前が俺に話したいことというのは、特異個体の本歌と知り合ったことを自慢したかったのか?何より、何故俺の個体に会ってはいけないんだ!この世の理が間違っているのでは?」

    伝え方が悪かったことを反省し、南泉は何とか今にも荒ぶりそうな国広を宥めると、またポツポツと話し始めた。

    「まず、お前の個体に会えない理由ってのはな・・・これから刀解や他所の本丸行きの奴が、優しくて普通に接するアイツに会ったら未練が残る。刀解予定の奴は事情はどうあれ、それなりのことをやらかしてる奴だ。理性が無い奴だって居る。他所の本丸行きの奴は、行った先で写しに当たりの強い本歌が居たら、どうしたって比べるし関係が余計に悪化する。そういった問題を起こさねぇようにしてんだとよ」

    語尾に猫の呪いが出ないくらいに静かに語る南泉に、国広も冷静さを取り戻して、そして何処か落ち込んだように「そうか」と傍らの麦茶を煽った。
    少し静かになってしまったところで、南泉は政府所属の長義から聞いた話をひとつした。

    「布の山姥切国広と一度会ったことがあるらしい。そいつはブラック本丸の初期刀で、刀解予定の奴だった。そいつのとこは化け物斬りが居なくて、少しの間の話し相手をしたって言ってた。その布の国広は本歌様って相当慕って・・・結果刀解を拒んだ。傍に居たいと望んではいけないことを望んだ・・・それ自体は解決したようだけど、以来基本接触は禁止になったらしい」

    そもそも、政府所属の刀剣男士というのが異例であり、公にされていないことなのだ。
    しかも、特殊な個体であれば良くない考えを起こす者も居る。
    ただでさえ通常の顕現ですらブラック本丸などという頭痛の種がある中、態々火種を撒く必要は無かった。

    「・・・いや、その俺の気持ちは痛いほど分かるし、それが良くないことも分かる。それで・・・アンタがその話を俺にしたのは、特異個体の本歌が居るという報告か?」

    「にゃあ・・・まぁ、あのお気楽本歌様はフラフラとお前にも話しかけそうってのもあるんだけど・・・」

    眉を八の字にして南泉は、うにゃうにゃとまだどこか迷っているように口籠もり、国広はじっと南泉を見つめた。
    何も言わないが目だけは雄弁で、続きを促そうとしている。

    「さっき、少し言ったけど・・・お前、よく二次創作見てるだろ?お前と化け物斬りのやつ」

    「ああ、くにちょぎは最大手だ。くにちょぎは良いぞ」

    「オレに布教すんな。あとオレも負けてねえからな。あと何でにゃんちょぎなんだよ、にゃんって何だよ。南泉なんだからなんちょぎだろうが・・・話逸れたにゃ。んでよ、基本アイツ相手の二次創作って言えば、オレかお前だろ?」

    「それ以外というのは見ないな・・・というか、探さないからな。フィルタリングは地雷持ちの嗜みだろ」

    「現実との解釈違いはフィルタリング無効だからな、それは覚えとけよ、にゃ」

    ビシッと指差した南泉の手を無言で叩き落とし、国広は訝しげな顔をしている。
    政府配属の特異個体と、二次創作、点と点の話に南泉が何を言いたいのか全く分からないのだ。
    ただ、南泉が必要だから話したのだとは分かるが、「何が言いたいんだ」と少し苛立ったように口に出す国広に、矢張り南泉は言葉を選ぶように唸り声を上げる。

    「その政府の化け物斬り・・・相手が居るんだよ。お前はオレが手を出すだの言ったけど、アレに手ぇ出したら無条件で折られるにゃ」

    「ほお?で?相手というのは、他所の俺か?お前・・・は、初めて会った個体だと言っていたか」

    国広の低い声が一層低くなった。
    山姥切長義が恋仲になる相手というのは、写しの国広か古馴染みの南泉が多いことは有名で、だからこそ一部の審神者や刀剣男士による二次創作が活発という背景もあるのだが、如何せん国広は創作物は楽しめるが自分が長義と恋仲でない現状、たとえ同位体であれ嫉妬の対象になるという厄介な性格をしている。
    それもあって南泉は躊躇っていたのだが、この話題は国広しか語る相手が居らず、自分の胸の内のみに仕舞うことが出来なかった。
    意を決して口から出そうとするが、思いの外小さな声だった。

    「──・・・だ」

    「すまない、よく聞こえなかった。誰だって?」

    「・・・だから、鶴丸国永だ!にゃ」

    「は?」

    全く予想もしていなかった名前が飛び出し、国広は目を大きく見開き、何度か瞬かせた。
    南泉はというと、つっかえていたものが取れたようにスッキリとした顔をして、腕を組んでうんうん頷きながら「分かるぜぇ」と言っている。

    「説明しろ。何で鶴丸なんだ?どこから湧いた。うちでも確かに鶴丸は驚かし甲斐のある本歌を気に入っているようだが、恋仲だと?ふざけるな、どこの世界線の話をしてるんだ南泉。そこら辺の経緯も聞いているのだろうな?」

    一気に捲し立てた国広は、対面する南泉に今にも掴みかかりそうな勢いで身を乗り出した。

    「ああ、うん・・・オレもお前と同じリアクションだった、にゃ。けど、まぁなんつーか・・・仕方ないっつーか」

    がしがしと雑に頭を掻いた南泉は「人形本丸って話、知ってるか?」と苦い顔をする。
    また話が飛んだと思った国広だったが、ひくりと顔を引き攣らせ、浮かせた腰を元に戻すと、「今では都市伝説みたいなやつだろ?」と座り直した。

    ──人形本丸。
    怪談話のように口伝で広がったものではあるが、審神者という役職が出来て日も浅い時に、実際に起こったことが元になっている。
    今でこそ総称してブラック本丸などと呼ぶが、その内容は多岐に渡り、この人形本丸というものも、そうした部類のひとつだった。
    概要としては、とある女性審神者の本丸で刀剣男士を着せ替え人形のように着飾り、与えられていた職務を疎かにしていたというもの。
    再三の注意を受けながら、それでも着飾ることをやめず、資材を売ってまで金を工面し、片や着飾られた審神者の好みの男士、片や任務で出陣したものの資材不足で碌に手入れをされない男士に分かれ、本来の為すべき機能が果たされていなかった。
    その上、審神者が何より欲しかった三日月宗近が居らず、また明石国行の実装に伴い、当時高難易度の戦場へ、資材不足のまま低練度で繰り返し出陣しているという状態だった。
    審神者の閨の相手もさせられていたという話もある。
    当然士気は下がり、三日月や明石を戦場から連れ帰ることも出来ず、疲弊した刀剣男士は一振り、二振りと折れていき、やがて本丸は瓦解したという話だった。

    「うちの本丸は、その話より後に設立されたが・・・一応聞いてはいる。今や尾ひれが付いて、折れた刀剣の無念が残っただの、かなり怪談じみた話になってるらしいがな」

    「・・・その話、オレも顕現してから鯰尾や後藤から聞いたんだけど、何振りか残った奴は政府で保護されて、刀解されたらしいにゃ・・・普通に胸糞悪い話だぜ」

    怖い話として面白可笑しく語られる話も、元を辿れば実際に起きたことであり、一緒に生活している面々が別の場所では不当な扱いを受けていたというのは、気分が良いものではなかった。
    消沈した重い空気に、国広も南泉も項垂れたが、国広がハッとして顔を上げると、南泉は顎を引くように頷く。

    「その人形本丸の保護された刀剣男士が・・・鶴丸にゃ」

    「だが、全て刀解されたと」

    「ああ。でも鶴丸は堕ちかけてて、本霊に還すことが出来なかったようだ。その本丸で一番気に入られてたのが鶴丸らしくてな、主の相手もしながら戦場にも出てて・・・身も心も駄目になった」

    国広の眉間に皺が寄った。
    難しい顔をしているが、その目は続きを話せと雄弁だった。

    「えーとにゃあぁ・・・まず政府が堕ちかけた鶴丸を保護するだろ?」

    宙を見ながら身振り手振りで言いたいことを纏め、南泉は「重いのか軽いのか分かんねー話なんだよなぁ」と小さくボヤき、またポツポツと話し始める。

    件の人形本丸と後に呼ばれた本丸で保護した刀剣男士は全て刀解となった。
    しかし、鶴丸国永ひと振りは魂が堕ちかけており、本霊に還すことが出来ずに、政府預りという名の保留となる。
    選りすぐりの術者による浄化も相当の時間を要することが見込まれ、かといって放置も出来ずに、時間だけが過ぎていった。
    そんな折、政府による初の試みとして一斉の特命調査が始まったのだ。
    監査官として選ばれたのは、始まりのひと振りでもある山姥切国広の本歌、山姥切長義。
    追って司令の下る審神者にとっても初のことだが、政府も当然初めてのことなので、それなりの準備をしていたとはいえ予期せぬことは起こる。
    それが本霊に限りなく近い自我と神気を持つ特異個体だった。
    調査に出すことも出来ずに、その処遇を決め兼ねていたところに、まるで禁固刑でも受けるように拘束され、閉じ込められた鶴丸国永との邂逅がふた振りの今後を決めた。
    年単位で術者が浄化していた鶴丸の穢れをあっさりと祓い、拘束の必要が無いほどまでに理性を回復させた長義は、「刀剣男士の話し相手が欲しかったんだよね」と呑気に笑った。



    「長義、何をしているんだ」

    長義と話している背後から近付く影。
    本丸で見慣れた顔だった。

    「ああ、国永。もしかして俺のこと捜してた?ごめんね」

    だが、見慣れている筈の鶴丸国永の服装は、長義と同じく飾り気のない黒のスーツで、更に特徴的な真っ白な髪は左側頭部のひと房が黒かった。
    それだけでも違和感があるが、飄々とした口振りどころか、表情も殆ど無く、戦場ですら驚きを求めて口角を上げる姿とは掛け離れすぎている。
    何より、長義の呼び方も聞き慣れないものだった。

    「猫殺しくんを見つけちゃってさ、思わず餌付けしてたんだ」

    「てめ──」

    「コイツがお前の言ってた一文字の・・・ほぉ?ネコゴロシクンとやらか」

    「ふふっ、素敵だろ?こんな俺が急に声を掛けても、付き合ってくれるような良い奴なんだ」

    だが、長義はさも当然のように笑顔で返し、混ぜられた軽口に反論しようと口を開いたが、鶴丸の方が早く、尚且つ目付きや雰囲気、そしていつも聞くより少し低い声に、思わず口を噤む。
    ニコニコと上機嫌の長義に対し、鶴丸の金色の目は値踏みをするように冷ややかに見つめていた。

    「長義が世話になったな」

    「え、いや・・・こっちこそ、飯奢ってもらったし・・・」

    日頃、鶴丸といえば何かイタズラを仕掛け、見つかって叱られるという光景を顕現時から見ており、長義にもよく仕掛けて怒られているのを見ていたからこそ、落差に言葉が詰まる。

    「あ、そういえば食事は済ませたかな?」

    長義の言葉に鶴丸は顔を顰めた。
    その様子にやれやれと言わんばかりに、長義は包んであったサンドイッチを取り出す。
    沢山買っていると思ったが、鶴丸の分も用意していたのであれば納得だ。
    だが、次の瞬間見たものは信じ難い光景だった。

    「ほら、大きく口開けて」

    ベンチの背もたれ側から腰を曲げて、長義が持ち上げたサンドイッチに無言で鶴丸が食らいつく。
    ちょうど長義との間に顔を出すような鶴丸に、間近で見れば見るほど違和感がある。

    ……To be continued
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