末永く爆発しろ「む、早く着き過ぎてしまったな」
時計を確認すると、集合時間までは四十分も余裕があった。
この時間を使って、カッコいいポーズのレパートリーを増やそうではないか。
そうと決まれば、さっそく……。
「あれ? 天馬?」
「おぉ! 久しぶりだな。卒業式以来か?」
声のしたほうを見ると、中学の時の同級生が驚いた顔で立っていた。
まぁ、無理もない。
ここは郊外に近く、若者が寄り付くような場所ではないからな。
「何してるの?」
「人と約束をしていてな、待っているところだ」
「そっかー。あ、妹ちゃんの様子はどう?」
この同級生にも弟と妹が居て振り回されて大変だと聞いたので、元気なのは良い事だの流れから咲希について軽くだけ話した事があった。
そういえば、退院を伝えた時に自分の事のように喜んでくれたな。
「元気だぞ! バンドや部活、アルバイトなど楽しんでいる」
「バンド!? ライブとかやってる?」
彼女は興味を引かれたようで、情報をくれとばかりに食い付いてきた。
ありがたい事ではあるが、勝手に話すわけにはいかんからな。
「オリジナル曲を作ろうと奮闘していたぞ」
「それは……、楽しみだね!」
それで何かを察してくれたらしく、彼女は笑っていた。
「天馬はどう?」
「オレか?」
「妹ちゃんの為にショーをやってたでしょ?」
咲希の事を話す時に伝えていたが、まさか覚えているとは思っていなかった。
様々な出来事があったが、えむ、寧々、類を思い出し頬は緩む。
「仲間が出来たんだ。ハチャメチャな奴らだけど、これからも一緒にショーを演っていきたい」
「ショーだけなの?」
その指摘に、ギクリと体が強張る。
だが、これ以上を望むのは欲張りな気がする上に今の関係を壊すのも怖い。
「好きな人、出来たでしょ?」
「それ、は……」
彼女の言葉に、オレはハッキリと返せなかった。
アイツと一緒に居ると楽しい。
次はどんな物が出来て、どんな事が起こるだろうと期待が増える。
「どういう人?」
「どう……とは」
自分の行う実験にオレを巻き込むくせに、逃げ足は早い。
オレだけが怒られるなんて、多々ある。
でも、自分の演出で怪我をする可能性があるならやりたい事を我慢して遠慮するし。
他人と一定の距離を保つくせに、内側に入れた人に対しては甘い。
駄々っ子のような時もあれば、仲間の為に前に立つ。
真剣な表情とふにゃりとした笑顔を見せられて、落ちないわけがないだろう!
「ショーの為だなんだと理由をつけて、オレを実験台にするような奴だが」
「だが?」
「咲希とはまた別な意味で、好きだ、な」
「そっかぁ」
ニヤニヤと笑う彼女の顔に、物凄く恥ずかしい事を言ったと理解し熱が集まる顔を俯かせる。
「内緒だぞ!」
「うーん、それはどうかなぁ。ねぇ、神代類くん」
「は!?」
彼女から類の名前が出てきた事に驚き、顔をあげて視線の先を見る。
少し離れた場所に頬を赤く染めた類が立っていて、オレはこの場から逃げ出したくなった。
「フェニランでキャストをやってるのは他の子から聞いてたから、公式サイトを見て名前を知ったんだ。後は神高に通う友人から、天馬と一緒に騒ぎを起こす男子がいるって情報を貰っててさ」
「それで……?」
「話を聞いたら、妹ちゃんの話をするより楽しそうで嬉しそうなんだもの。女の勘でピンと来ちゃったよ」
どうやら、自覚している以上に顔に出ていたようで集まった熱は引いていく様子は全くない。
「ねぇ、天馬。その気持ちは伝えるべきだよ……」
「だが」
「大丈夫」
彼女の指がオレの頬に触れようとした瞬間、強い力で腕が引かれて体も動き、彼女と距離が出来る。
「そこまでだよ」
少し高い位置で聞き慣れた声がした。
「ざーんねん。じゃあ、天馬。またね」
「あ、あぁ」
クスッと笑った彼女は手を振りながら、オレ達から去っていった。
いや、まて。
この状況はマズくないか?
だが、逃げるわけにはいかない。
どうすれば……。
「司くん」
「なんだ!」
類から体を離そうとするが、いつの間にかガッチリと腰を掴まえられていて動けない。
抱き締められているというより、引っ付かれている状態だ。
「類?」
この行動の理由が解らず、オレは言葉を待つしかなかった。
人が滅多に通らない場所で良かった。
さすがに、これを見られるのは恥ずかしいからな。
「さっきの話、本当かい?」
「本当だ」
「咲希くんより、特別なんだ?」
「特別というか。咲希に対しては家族愛だが……その、だな」
改めて言葉にしようとすると、顔はまた熱くなってくるし声は小さくなるし、心臓はうるさ……?
「あ」
その時、感じる心臓の早さが自分のものだけではない事に気が付いた。
「る、るい」
「うん」
「顔が見たい」
「ダメ」
「なんでだ!!」
「なんでもだよ!」
言い合いをしている内に腕の力が弱まったのを見逃さず、オレは類を引き剥がしてその顔を見ようとするが。
「見ないで」
類の手で塞がれて、視界が真っ暗になる。
ひんやりとしたそれは、少しだけ震えていた。
「類」
「司くん……」
類の手に触るとビクッと跳ねるが、拒否はされないのでゆっくり剥がす。
眩しさに瞬きをしてから、類を見上げるとその顔は真っ赤だった。
表情を見れば一目瞭然で、オレは笑ってしまう。
「好きだぞ」
「僕から伝えるつもりだったんだよ」
ぎゅうと抱き締められて、類が頭を肩口に擦り付ける度に髪が首筋を掠めてくすぐったい。
「類はどうなんだ?」
「それ、聞くんだ?」
「ダメか?」
分かりきってるくせにと呟く声は聞こえない振りをして、類からの言葉が欲しくて先を促す。
「僕も好き」
類は肩口から頭を離すと、オレを真っ直ぐに見てきた。
その瞳も好きだなと思っていると、類の顔が近くなる。
「る……」
オレの口は類のそれに塞がれて、音にならなかった。