永遠の愛 機械を弄る手を止めて、時計を見ると作業を始めてから三時間ほどが経とうとしている。
フル活動していた体は無性に甘いものを欲していて、そう言えば司くんから金平糖を貰っていたのを思い出した。
「えっと、確か。ここに」
鞄を漁るとコツリと硬いものが指に触れ、それを取り出すと四角い木箱が現れた。飾り用の紐を解いて蓋を開ければ、色とりどりの星が詰まっている。一個をつまんで口に入れると、ほど良い甘さが広がった。
歯を立てればサックリと割れて、あっという間に無くなる。吸収効率などを考えれば、ブドウ糖の塊であるラムネの足元にも及ばないだろう。でも、司くんから貰ったという付加価値が付いた金平糖は格別だ。
「はぁ……」
僕は司くんに対して恋愛的な意味での感情を抱えていて、遠回しにアピールしているが気付いてくれる様子はなく、暖簾に腕押し状態。
「でも、諦められないんだよね」
昔の僕なら、自分が傷つく前に離れただろう。
けれど、今の僕はそうじゃない。
「うーん。やっぱり、ストレートに伝えないとダメかな」
司くんは人の好意に疎くはないはずだが、恋愛の意味を含むと鈍くなる傾向にある。
何度か呼び出しを受けているのを見掛けたが、ハッキリとした言葉を告げるまで気付かない。
そして、向けられた恋愛感情を受け止めて、誠心誠意を尽くして返事をする。司くんがショーに夢中なのは彼女達も理解しているようで、スッキリとした表情で帰って行くのだ。
「現状を受け入れるのも、一つの手ではある」
同性のショー仲間として、隣に並んで居るのも悪くはないが【永遠】ではない。司くんに意中の人が出来たとして、それを喜べるかと言われたら出来ないだろう。
面倒くさい思考をしていると思っているが、理屈ではどうにもならないから厄介だ。
「しまった。うん?」
金平糖を取ろうとして手が引っかかり、木箱を倒してしまった。慌てて起こすと底に折りたたまれた紙が入っている。
ティッシュを取り、零した分と箱に残っていた分を移して紙を取り出す。広げてみると、目に飛び込んできた文字に言葉を失う。
「届いていたんだ」
縦と横の折りあとが消えるように、丁寧に伸ばして紙を机に置く。
【オレも好きだぞ!】
その言葉を指でなぞれば、頬が緩むのが分かる。
まさかと思い、スマホで金平糖と意味の二つのキーワードで検索をすると、表示されたページに書かれた言葉を見て顔が熱くなっていく。
「フフフ」
溢れ出す嬉しいという気持ちと一緒に、零れる笑いを止められなかった。
「あぁ、君は本当に最高だよ!」
この気持ちを司くんに伝えたい。
彼の電話番号を表示させて、通話ボタンをスライドさせて耳に当てる。
四コール目で少し低い声が聞こえた。
「司くん。僕はね、君の事が……」
その時の、司くんの反応を僕は忘れる事はないだろう。
今すぐにでも会いたかったが、それは明日の楽しみにしておく事にする。