参謀について考える ぎち、と縄の軋む音が聞こえる。その縄は司くんの手首に一周二周と、蛇がとぐろを巻くように縛られていて、なんとも禁欲的な気分にさせられた。司くんの手首を拘束しているのは他でもない僕なのだが、もちろん演技でやっていることであって、決して僕の趣味などではない。司くんも身じろぎをして抵抗する様子を見せた。それもシナリオ上の設定でやっていることなのに、どうにも煽られてしまう。理由は、性癖が単に拗れてしまったのか、それとも僕が司くんのことが好きだからか、それはどちらとも言い切ることができなかった。
見上げるように顔を上げた司くんと視線がかち合う。その瞳は、こちらを真っ直ぐと見据えていて、汚れを知らない。
「っ……」
どくり、と大きく心臓の音が鳴る。
『やめろ……! はなせ!!』
“やめろ„だとか、“はなせ„だとか。決められたセリフでも、反抗されるともっといじめたくなるのは、きっと僕だけじゃないと思う。
もしかしたら参謀も、そう思ったのかな。
一瞬でも、そんなことをらしくもなく考えてしまった。
『……フフ。あとは皆が寝静まる夜を待って、宝ともども消えてもらいましょう』
少々セリフが遅れたが、このくらいなら問題ない。くすくすと嘲るような表情を崩さず、そのまま舞台を去った。それから脚本通りに僕が倒され、物語はハッピーエンドを迎えたのだった。
観客からの拍手喝采に礼をしているなか、僕は司くんの言葉を思い出していた。
「参謀は、どうして直接手を下したんだろうな?」
練習の際、司くんは突然そんな言葉を僕に投げかけた。司くんはなんでもないような表情をして脚本のページをめくる。
「これはオレの勝手なイメージなのかもしれんが、参謀役、というのは指示や作戦だけを立てて、その様子を眺めて、次の一手を考える、こんなイメージだったんだ」
「要は、高みの見物、といったところかい?」
「む……、まあ、言い方は悪いが、その通りだな」
「なるほどね」
司くんが読んでいた脚本を閉じる。かなり読み込んでくれたのか、その脚本はよれよれにくたびれていた。
「物語の便宜上、単純に参謀を悪役にわかりやすく見せたかっただけなのかもしれんが……もし、他の意図があったなら、と考えてしまってな」
「……他の意図って?」
「参謀はなにか、将校に特別な思い入れがあったんじゃないかって、時折考えてしまうんだ」
“もしかしたら参謀も、そう思ったのかな„
所詮物語の登場人物に勝手に共感して、思いを馳せたって、なんの意味もないのに。
あのときの言葉が、ずっと頭に残っている。
「………はぁ、僕って案外、司くんに毒されてるな……」
「? 呼んだか?」
「……ううん、なんでもないよ」
馬鹿げたことを考えてしまったのは、紛れもなく司くんのせいだと、赤い顔を隠すように僕は項垂れた。