無題「シエテって、ウーノのことが好き?」
新しく騎空団に加わったウーノの歓迎パーティーは終わり、現在の場所は人気のないグランサイファーの甲板上。そこにシエテの姿を見つけた私は、声をかけて共に月見をしていた。彼はよく喋る方だが、今日はいつもより落ち着いた様子だった。その横顔に、そんな言葉を投げてしまったのは美しい月のせいかもしれない。
「どうしたの、団長ちゃん」
突飛な質問だと思ったのだろう。シエテが首を傾げる。
「あ、ごめん。思ったことがそのまま口に出ちゃった」
実際、私にとってもそれは突飛な質問であった為、素直に謝る。それから、もう口に出してしまったからいいかと思い続けた。
「シエテの、ウーノを見る時の目がね。なんていうか、熱いなぁって」
「団長ちゃんは俺のことよく見てるなぁ。そんなに俺が好き?」
「シエテのことは好きだよ。仲間だから」
「あはは、俺も同じだよ」
真顔で返せば、シエテは笑って私の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
「その言葉はどこに掛かってるんだか……」
手を振り払ってやろうかと思ったが、先程のこともありなんとか思い留まる。でもあと五秒続けたらやり返そう。そう思っていると、シエテの手はあっさり離れていった。
「ちょっと耳貸して」
その言葉に、髪を耳にかけて「どうぞ」と答えれば、シエテの顔がすぐ隣に接近する。それから、耳元で低い声。
「それは、秘密」
それだけ言って近付けた顔を離したシエテに、私は不服を現すかのように眉根を寄せる。
「……それ、耳打ちする内容?」
「団長ちゃんってば照れちゃってー!」
「ところで今さっきウーノの気配がしたんだけど気のせいかな?」
胡乱な目で見れば、シエテはほんの少し視線を逸らして、「気のせいじゃない?」とか適当なことを言う。
「シエテのあほ。ウーノに嫌われちゃえ」
私は真面目な顔で低い声を出して立ち上がった。それから船室への扉に大股で向かう。
「おやすみ〜」
「おやすみ!」
扉を開いた私に、ひらひら手を振ってきたシエテに対して、律儀に挨拶を返したせいか、楽しそうな笑い声が聞こえた。が、私は相手にせず後ろ手で扉を閉めたのだった。
それから数日後、船内で顔を合わせたシエテが、「ウーノが全く相手にしてくれないどころか、君のことは信用しているけれどもって前置き付きで、『きちんと責任を持った行動をするんだよ』って真顔でこんこんと諭されたんだけど……団長ちゃん、ちょっと釈明手伝ってくれない?」と多少は落ち込んだ様子で協力を仰いできたので、私は満面の笑顔で言ってやった。
「自業自得」と。