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    shido_6652_SD

    @shido_6652_SD

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    shido_6652_SD

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    金カム知ってるフォロワッサンが増えてきたのでみつたいがラッコ鍋囲えない話書きました
    薄目で見てね

    ラッコのせいにはできないからな『ラッコの肉買ってきて』

    この文章を見直すのは、これで五度目だ。だからこれが、十五連勤で疲れきったが故の幻覚でないことはわかる。ついでに、このメッセージが送られてきた直後に、本当にラッコの肉を所望しているのかも確認した。答えはイエスだった。
    わけがわからない。三ツ谷が狂っているのか、俺が世間知らずなのか、そもそも世間はラッコを食うのか。十中八九、三ツ谷がおかしいとは思う。だが万に一つ、世間はラッコを食うという可能性も、まだ僅かに残っている。

    (ラッコ……ラッコって、ラッコだろ……)

    他のことを考える気力が沸かないせいで、酷く稚拙な思考回路になっている。
    事務所を出て、帰路につき、三ツ谷の待つ自宅の前について尚、頭の中はラッコでいっぱいだった。

    『ラッコはなかった』

    メッセージを送る。すぐに既読がついた。
    バタバタと騒がしい足音が聞こえ、目の前の玄関扉が開く。

    「おかえり、大寿くん」
    「ただいま、三ツ谷」

    中から出てきた三ツ谷は、目元に酷い隅を拵えていた。顔色も悪い。

    「うわ、大寿くん隅ヤバイな。顔色も超悪いわ」
    「お前もだろうが」

    家に入り、鍵を掛ける。今日はもう外には出ない。そう固く決意した。
    学生時代に借りた1DKのアパートの廊下は、驚くほど短い。五歩も歩かないうちに、次の部屋についてしまう。

    「今日さ、鍋にしようと思ったんだよね」
    「鍋? ……そのためのラッコか?」
    「そぉ。鍋にぶち込もうと思ってな」

    リビングに入り、ずぶずぶと人をダメにするクッションに沈んだ俺は、三ツ谷がなにを言っているのかが本気でわからなくなった。
    ラッコを、鍋に、ぶち込む? どこから出てきたのか知らないが、そんなバイオレンスな発想は是非とも捨ててほしい。

    「……お前、ラッコ食ったことあるのか」
    「無いよ。今日の鍋にも入れてねェし」
    「あれば入れたのかよ」
    「入れた入れた」

    まあどうでもいいけど、と話を切り上げて、三ツ谷はキッチンから大きめの土鍋を持ってきた。それをテーブルにセットされたガスコンロの上に置き、慣れた手付きで火を付ける。

    「大寿くん、こっち来て。鍋食お」
    「……本当にラッコ入れてないんだな?」
    「入れてねーよ。鶏塩鍋だから安心しなって」

    怠い身体を起こす。土鍋の中には、確かに見知った鶏つみれが入っていた。得体の知れないラッコはいない。

    「もう煮えてるからさ、取り分けは自分でやってな」

    ぐつぐつと煮える鍋は、三ツ谷が作ったというのと、胃が潰れそうなほど腹が減っているせいで、おそろしく魅力的に見えた。
    冷蔵庫までビールを取りに行った三ツ谷の分も取り分けておき、自分の分を器に取る。
    出汁と鶏の匂いが空腹に響いて、思わず喉をならした。

    「あ、大寿くん、俺の分も取ってくれたの? ありがとォ」
    「ん。いいから早く座れ」
    「はいはい。んじゃ、いただきまぁす」
    「いただきます」

    肉を口に含む。うまい。ちょっと熱い。
    噛んだ瞬間、身体がようやく空腹を自覚し、腹の虫を騒がせた。

    「んッふふ、大寿くん、めちゃくちゃ腹鳴ってんじゃん」
    「これ食ったら腹減った」
    「うんうん、いっぱいあるからいっぱい食えよ」

    言われずとも、残す気は毛頭無い。俺が好きな味で、三ツ谷の料理で、なにより腹が減っているのだ。
    ばく、ばく、ばく、と脇目も振らずに鍋をかき込む。
    いつの間にか、あんなに頭を支配していたラッコは、存在感を薄れさせていた。





    「お前、明日は」
    「休みだよ。大寿くんもだろ?」
    「……ん」

    飯を食って、風呂に入って、片付けをして。
    二人して寝室に引っ込んだのは、夜が深みを増してからだった。

    「大寿くん、二週間お疲れ。頑張ったな」
    「お前もな」

    この二週間、納期やら繁忙期やらに追い回され、お互い職場にほぼ泊まり込んでいた。メッセージのやり取りこそしていたが、頭の中じゃない、実体のある三ツ谷を感じるのは、一週間振りだ。

    「……あ、三ツ谷」
    「うん?」
    「結局ラッコってなんだったんだ」

    再び出現したラッコに、また思考を奪われる前に、ラッコの生産者である三ツ谷に聞いてしまえと思った。

    「あー……クッソくだらねェよ、聞く?」
    「聞く」

    実はね、と三ツ谷が照れたように苦笑いをする。

    「大寿くんとえっちしたかっただけなんだよね」
    「……は? どういうことだ?」
    「いつだったかなー……八戒に借りた漫画にさ、ラッコ鍋食うシーンがあって」

    どんなシーンだそれは。

    「ラッコ鍋囲んだ男共が、みんな発情しちまうんだよ」

    どんな状況なんだ。

    「んで、最後相撲して終わり」

    わけがわからない。

    「だから、ラッコ鍋作れば大寿くんとえっちする口実になっかなって思って」
    「…………そうか」

    ラッコの謎は解けた。新しい謎が生まれた気もするが、もうめんどうくさい。

    「なあ、するんだろ、三ツ谷」

    手を引く。ベッドに誘う。
    三ツ谷の喉が鳴るのを聞いた。

    「いいの、大寿くん。二週間ぶりだから、途中で止まれねェけど」
    「いい。そのために明日休みにしたんだろ」
    「ふはっ……ほんとサイコー、大寿くん大好き」
    「知ってる」

    というか、と呟いて息を吐き、ベッドに膝を乗せた三ツ谷の頬に触れる。

    「今さらそんな口実が必要なのか?」

    上目遣いに見上げると、三ツ谷は笑いながら首を振る。

    「要らねェな」

    当然だ。
    期待通りの回答に満足した。

    「じゃあ大寿くん、相撲しようぜ」

    最初からその手しかないだろう。
    と、言いかけてやめた。あまりにも野暮だ。
    それより、俺を食おうとする三ツ谷の目。あの、獣じみた仄昏い目をからかう方がよほど楽しい。
    ゆるりとベッドに沈みながら、そう、思った。
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