それでも僕らは愛を解きたい(無配)「さっぶっ。」
ゴゥっとブンっの間みたいな音を立てて吹き抜ける春の嵐が、満開の桜を惜しげもなく散らしていた。
この分だと一週間後は葉桜決定だ。引っ越しを手伝ってくれた寅次を駅まで送った帰り、まだ入学前の大学の構内で一人小さく溜息を吐いた。
春休み中の夕方に学生の姿はほとんどない。昼前あたりから強くなった南風の所為で、既に満開を迎えていた早咲きの桜はもう半分くらい地面に落ちている。
――「地元の人も花見に来るくらい見事な桜並木があったんだけどな。父さんは毎年それとは違うところで桜を見てたんだ。」――いつかの春。もしかしたら家族で花見に出掛けたときだったのかもしれない。たぶんほろ酔いだった父は何故かそう得意気に言っていた。
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