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    ru(タル鍾)

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    ru(タル鍾)

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    タルにころされるモブが最後に見た光景というSS。
    友人のイラストに感化されて書いた短いものです

    #原神
    genshin
    #タルタリヤ
    tartaglia

    生き物は音を発するものである。
    生い茂る木々も、大地から顔を覗かせる花々も。風に吹かれれば音を上げ、その存在の証明をこの世に刻む。
    その音を全て吸い込むように、灰色の空から舞い降りる雪はこの場の全てを取り込んでいた。
    辺りに広がるのは破壊の限りを尽くされ、見る影も残らない野営跡地。防寒に優れた厚手のテントは見る影もなく崩れ、辺りには食事の用意をしていたであろう鍋がその中身を盛大に零し、いまさっきまでここに誰かが居たであろう痕跡が感じられる。
    白く降り積る雪がその痕跡を徐々に覆い隠していくなかで、まだ温かさが残る生々しく赤黒いそれらは隠されること無くその無惨な光景を形として残していた。
    真っ白な雪原に飛び散る赤。鮮やかな鮮血は大地を汚し、その無垢な白を染め上げる。這いずる身体から伸ばされた手はその場から逃れようとした人間の生への執着を思い起こさせるが、その手が動く事は二度と無い。じわりとその身体から滲み出る赤い液体が浸すように水溜まりをつくっていった。

    その地に一人だけ立つ人影。グレーのコートに身を包み、透き通る透明な刃を両手に持った青年の姿がそこにあった。
    白銀の中に広がる赤。雪の降り注ぐ灰色の空を見げ、吐き出した息が白い煙となってきらきらと輝き、そして消えていく。美しい銀世界と現実離れした赤黒いその世界の中で青年は静かに佇んでいた。

    「あくま、め……」

    音もなく降る雪は全ての音を取り込んでいく。その中に一つだけ零された虫の如くか細い声が青年の耳に転がり込んだ。
    向けた視線の先には鮮血の池に沈むひとつの肉体。身につけていた衣の色は赤黒く染った血液でもう原型を留めておらず、引き裂かれた服の合間から見える鮮やかな朱の断面は常人なら目を逸らしたくなるものだろう。

    「ああ、まだ息が残ってるのが居たんだ」

    ぎゅう。ぎゅう。雪を踏み締める独特の音。ゆっくりとしていて確実に、それは少しずつその音が血溜まりに近づいていくと、青年はそのまま横たわるそれの前へと足を止めた。引き絞った声はもう発する事すら叶わないのか、あの言葉以降に瀕死の肉体から言葉後紡がれることはない。

    「俺は敗者にはやさしいんだ」

    身を屈め、自分がそうさせたであろうものにひと言そう告げると赤黒く染った頭にそっと手を寄せる。
    この世と別れを告げようとしている男の目にはもう殆どの景色を映していないのだろうが、徐々に暗くなっていか世界の中ではっきりと青年の表情を捉えた。
    白い肌を返り血で赤く染め、美しく微笑むその顔を。穏やかに緩められた瞳の奥には深海の如く暗く蒼。光の届かぬその先にある色が、まっすぐとこちらを見つめていた。

    「いま、楽にしてあげるね」

    何処までも優しい声色で紡がれた言葉。
    振り上げられた刃を最後に、その男の意識はぷつりと途切れた。
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    ru(タル鍾)

    MOURNINGタルにころされるモブが最後に見た光景というSS。
    友人のイラストに感化されて書いた短いものです
    生き物は音を発するものである。
    生い茂る木々も、大地から顔を覗かせる花々も。風に吹かれれば音を上げ、その存在の証明をこの世に刻む。
    その音を全て吸い込むように、灰色の空から舞い降りる雪はこの場の全てを取り込んでいた。
    辺りに広がるのは破壊の限りを尽くされ、見る影も残らない野営跡地。防寒に優れた厚手のテントは見る影もなく崩れ、辺りには食事の用意をしていたであろう鍋がその中身を盛大に零し、いまさっきまでここに誰かが居たであろう痕跡が感じられる。
    白く降り積る雪がその痕跡を徐々に覆い隠していくなかで、まだ温かさが残る生々しく赤黒いそれらは隠されること無くその無惨な光景を形として残していた。
    真っ白な雪原に飛び散る赤。鮮やかな鮮血は大地を汚し、その無垢な白を染め上げる。這いずる身体から伸ばされた手はその場から逃れようとした人間の生への執着を思い起こさせるが、その手が動く事は二度と無い。じわりとその身体から滲み出る赤い液体が浸すように水溜まりをつくっていった。

    その地に一人だけ立つ人影。グレーのコートに身を包み、透き通る透明な刃を両手に持った青年の姿がそこにあった。
    白銀の中に広がる赤。雪の降 1174

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