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    tatuki_seed

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    幻水ウェブオンリーイベント『星の祝祭』用小説。
    ただのピロートークです。

    遠い未来のプロローグ「お前さぁ、生まれ変わるならどうなりたい?」
    そんな意味不明かつアバウトすぎる問いかけを口にしたのは、未だ気怠さの残るベッドの中でのこと。相も変わらずこの男の考えることは分からない。一体どう言う思考回路をしているのか。
    「どうなりたいというのが曖昧すぎる」
    本当を言えば生まれ変わるなどという非論理的な言葉にも突っ込んでやりたいが、そこは流してやる。全てに突っ込みを入れていては話が進まない。
    「何だっていいんだよ。女になりたいとかファレナに生まれたいとか…他の世界に生まれたいとか」
    説明を聞いたところで曖昧なことに変わりはなかった。他の世界と言われたところで、翼と鱗の世界程度しか確認はされていないし、そのようなところへ行きたいとも思わない。当然何に生まれ変わりたいということもない。
    「別に何もないな」
    身体を起こしてベッドの淵へ座り、サイドチェストからシガレットケースを取り出す。その中から細い煙草を一本抜いたところで背中に重みと熱を同時に感じた。背中にのしかかったシードが腕を伸ばし、煙草を一本抜き取っていく。
    この男はいつも文句を言うくせに、此方が吸おうとすると断りの言葉一つすらなく一本奪っていく。
    此方の肩の上に顎を乗せ、その遠慮なく奪った煙草を口に咥えたシードが左手を捻るようにして烈火の紋章を発動させると先端にオレンジの炎が灯った。顔のすぐ側は危ないからやめろと何度言ってもこれも聞きやしない。
    呆れ、煙草を咥えながら首を捻ると、少し顔を離したシードがその煙草の先端を差し出してきた。咥える煙草を指で摘んで支え、自らのその先端を押し付けてゆっくり息を吸い込む。オレンジが大きく明滅するのを見て離し、メンソールを味わいながら紫煙を立ち昇らせる。
    「…で、生まれ変わりが何だと?」
    会話もなく、紫煙を燻らせるだけの時間か暫く続いたところで先ほどの話を引っ張り出す。蒸し返された話題に驚いたように目を丸くしたシードが、しかし軽口の一つ叩くでもなく煙草を口から離した。
    「いや、この前結婚式に行った時、生まれ変わってもまた一緒になりたいと…花嫁が言っててな」
    そういえば先日、かつてのシードの副官が結婚したのだったか。良ければ是非にと請われ、わざわざ休みを取って行っていたことを思い出す。
    「生まれ変わって、なんてのはなかなか男には出てこない発想だよな。…で、もし生まれ変わることがあったならと思ってな」
    確かに生まれ変わりなど男、特に軍人にはなかなか出てこない発想だ。
    死ねばそこまで。その後生まれ変わって、まではなかなか思い至らない。
    「で、お前は生まれ変わっての希望が何かあるのか」
    でなければ寝物語にこんな話は持ち出さないだろう。
    「そうだな。少し悩むところではあるが」
    背後からの声がそこで一度途切れ、背中に感じていた重みと熱が消え失せた。
    「…戦争のない時代、或いは世界に生まれ変わりたい」
    ちょうど一呼吸ほどの後で聞こえてきた言葉に少し驚き、首を捻って背後のシードを振り返る。
    「…なるほど?」
    「俺らしくないって言いたいんだろ」
    意外すぎる言葉に思わず遅れた相槌言葉を口にすると、煙草を咥えたまま立膝を立てて座るシードが視線だけをこちらへ寄越して軽く眉を寄せた。どこか拗ねたかのようなその表情は歳を考えれば随分と幼い。
    思わず一瞬言葉を失ってしまったが、シードが戦争を好んでいるわけではないことくらいは当然理解をしている。
    この男が好きなのは命のやり取りをも含む戦いだ。それは個で為されるものであって、決して戦争などという国家間で行われるものではない。そこに戦いに関係のない女子供や老人を含むなど以ての外。その好戦的な性格ゆえ、そして指揮官こそが先頭に立ちまた全ての責任を負うべきだという彼の信念ゆえに戦場でも前線に立つことは多いが、決して戦争を好んでいるというわけではない。
    兵士ではない者たちをも巻き込む戦争を嫌いつつも、その戦争をなくすために戦争を行うというジレンマがシードの中にあることも十分すぎるほどに知っている。
    ただ何ともシードらしくないと思ったのも事実。
    それが苦難の道であろうと自ら行く先を切り拓くことを良しとするシードが、戦争のない世界になってほしいと願うならばともかく戦争のない世界に生まれたいとなどと言うとは思わなかった。
    何よりもハイランドを愛する男のハイランドを見捨てるかのようなニュアンスを含んだ願望に、しかしこちらが問いを差し向けるよりも先にシードが口を開いた。
    「戦争のない世界ってのは憧れるが、正直俺もガラじゃねぇなって思っちまったからこれは却下だな。まるで俺がこの世界から逃げ出したいみたいだ。俺は別にハイランと違う世界に生まれたいわけでもねぇし」
    つまりは生まれ変わってもハイランドの民になりたいということか。常々恋人はハイランドだと言っている彼らしい。




    「なら結局生まれ変わってどうなりたいんだ」
    振り出しに戻ってしまったやり取りに幾分の呆れとともに再度水を向けてやると、返事もなくシードが細く煙を吐き出す。立ち上った煙が消えるほどの無言の間の後、その赤い目を細めたシードの唇が緩やかな弧を描いた。
    「お前とまたこうして、一緒に煙草を喫めるような関係になれればいい」
    あぁなるほど。回りくどい話を持ち出しはしたものの、結局はそれが言いたかっただけなのだろう。基本的にこいつは素直でない。
    揶揄ってやってもいいのだがと考え、思い直す。
    「確かにそれは悪くない」
    シード自身、揶揄いの言葉が返ってくるとでも思っていたのだろう。素直に同意する言葉に目を丸くし、その顔が徐々に赤く染まっていく。相変わらず詰めが甘い。
    素直な同意が最早揶揄いのようなものだと内心で呟きながら煙草を持たぬ右手を伸ばし、その赤く熱を持った頬に触れる。
    「お前が言い出したことだろうに」
    悪くないと思ったのは本心だ。それが友人であろうと同僚であろうと相棒であろうとはたまた恋人であろうと構いはしない。ただ並んで煙草を喫める関係というのはなかなかに魅力的である。
    「う、うるせぇ」
    赤い顔がふいと背けられてしまう。態度も言葉も全てが子供のようだ。戦場とも閨ともまた違う表情は本当に見ていて飽きない。だからこそ、そんなものが存在するのであれば来世でも共にありたいのだと言えばきっと今度はオモチャじゃないだの言って怒るのだろう。
    その様子を考えるだけで浮かんだ笑みを唇に残したまま、赤い髪の合間でも分かるほどに赤くなった耳殻へとその唇を触れさせた。
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