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    T4Xv3

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    最近ちょっと気になってるノスドラを、試しに書いてみたもの。
    あんまりカップリング感ないので師弟もしくはノス+ドラって感じです

    #試し書き
    testSheet

    結局週二で通う羽目になった 元来、吸血鬼という生き物は夜の世界の住人であり、人間よりもはるかに“あちら側”に近い存在なのだ。その性質上、人間が幽霊と呼ぶこの世の者でなくなった存在も知覚できるのは勿論のこと、より強い力を持つ吸血鬼にはそれらを祓う能力を持つような個体も存在する。
     しかし、興味深いことにここで述べた“能力”というのは、よく言及される変身や幻覚といった吸血鬼の能力として知られるものとはカテゴリーが異なるのだ。つまるところこれは、吸血鬼からも「何の能力もない」と見なされる存在が実は“能力”を持っていました、という状況が起こり得ることを意味している。
     
     閑話休題。竜の一族の末子が新横浜でトンチキに暮らす時分から、遡ること約二百年。時は、一族で最も虚弱で、何の能力も持たない子供が“氷笑卿”と呼ばれる吸血鬼に預けられた頃のこと。
    『アァァ……』
    『イタイ……イタイヨォ……』
    (落ち着け、夢だということは分かっているじゃないか)
     その時代、今より吸血鬼への理解も乏しかった人間は、吸血鬼を悪魔と同一視してその存在を排除することに躍起になっていた。同様に、吸血鬼側も人間を見下し、餌としか思っていない過激な思想の者が多く存在していて。ノースディンもここ数日は、夜ごと幼い弟子に課題を与えて自身は人間との戦いに身をやつす生活が続いていた。
     人間や同胞の血の臭い、硝煙の臭い、悪意の塊のような視線と恨みつらみの声。それらを連日浴びていたせいなのか、あるいはこの地に染み付いた怨嗟の声に反応しているのか。何にせよ、己自身だけではなく守るべき存在を抱えている今、こんな雑音もどきに精神力を削られている場合ではないのだ。そう、頭では分かっているのだが。
    『アイツガニクイ』
    『オマエガニクイ』
    『憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎』
     眠るたびに現れる黒々としたこれらに、今日も今日とてノースディンはなす術もなく夢の終わりを待つしか無いのであった。
    (ああ──こういう時、己の力不足を実感させられるな)
     もし、ここにいるのが自分ではなく親友だったなら。あるいは、彼の父である竜の真祖のあの方であれば。こんな泥の塊のようなものにここまで苦心したりはしなかったであろう。

    『〜♪』
     と、終わりの見えない悪夢に自嘲的な思考を巡らせていたノースディンの耳に、調子の外れた歌が聞こえてきた。
    『オォォ……』
    『ニ……クイ……』
    『〜♪ 〜〜♪』
    『アァァ……』
    よくよく耳を澄ませれば、甘さの残るボーイソプラノは、ノースディンにとっては聞き馴染みのあるもので。
    『ふっ、これは声楽の補習をしなくてはいけないな』
    呻き声と共に消えゆく泥など興味ないとばかりに目を閉じて、いつまでも歌が上達しない不肖の弟子に対してノースディンは口調の割に柔らかな笑みを浮かべる。

    「〜♪ ……ん、やっと顔の皺がなくなった。全く、手のかかるヒゲヒゲですこと。ドラちゃんに感謝して欲しいものですよ」
     そんな師匠の思いなど知る由もなく、艶の減った髪を撫でながら口ずさんでいた歌を止めた弟子は満足そうに頷いて自室へと軽やかな足取りで帰っていったのだった。


    ◆◇◆◇◆◇


    「……夢見が悪い」
     それから二百年近くが経過し、人間と吸血鬼の間の確執は随分と鳴りを潜めた。住み込みで指導をしていた弟子も、今では独り立ちをして退治人の男と面白おかしく暮らしている。そんな平和な世になったというのに、否、平和な世になったからだろうか。ここ数日、ノースディンは眠るたびに再びあの泥の塊に安眠を妨害される日々を余儀なくされていた。
    (眠い……だが、眠ればまたあの声を聞かされて眠れたものではない…………そうか)
     いくら血を主食として、夜の世界を生きるとはいえ、吸血鬼とて生き物だ。睡眠不足が健康に害を与える点は人間と何ら変わりはない。ついでに、睡眠不足が思考を鈍らせる点もまた然り。そんなわけで、ノースディンは正常な判断ができない状態となっていたのだ。

    「──で、私はあんたに拉致られた挙句に抱き枕にされている……と。まったく、氷笑卿じゃなくて氷おじさん(笑)とでも名乗った方がいいんじゃ無いですか?」
    「……抱き心地が悪いに留まらず、よく喋る枕だ」
    「誰が枕じゃボケ! クソッ、無駄に死なない程度の力なのが腹立つ!」
     栃木の城の、大人二人が寝転んでなお余裕のあるベッドにて。ガリガリの人相が悪い大人へと成長してしまった弟子のことを背後から抱きしめて、ノースディンは「やれやれ、本当に口が悪くなったな」とため息を吐いていた。

     時は遡ること数時間前。同居人はロナ戦ことロナルドウォー戦記の打ち合わせ、世界一可愛い丸こと自身の使い魔は町内会の温泉旅行で明日まで不在ということで、ドラルクは一人で暇を持て余していた。──否、享楽主義に服を着せたようなこの男の辞書に暇という言葉はミリ程度しか載っていない。すぐに気持ちを切り替えて、夕飯の仕込みから掃除洗濯までの家事を手早く済ませ、積みゲーの消化に勤しんでいた。
    「邪魔するぞ」
    「うわー! どうやって入ってきた! このケツホバ歯ブラシヒゲ!!」
     思ったほどのクソゲーじゃなかったな。このシリーズ、配信しようかと思ったけど止めておくか。そんなことをつらつらと考えながらも、ステージを進めるドラルクの手つきには一切の迷いがない。そろそろ最終局面か、などと考えたその瞬間、頬を冷たい風が撫でて驚いたはずみに死んだ。
    「相変わらずそのすぐに死ぬ体質は改善しないな。いや、むしろ悪化していないか?」
    「質問に答えろってんですよ、不法侵入ヒゲ!
    また私の街に手を出そうっていうなら(ロナルドくんが)容赦しないぞ!」
     再生すれば、そこには「やれやれ」と腹立たしい顔をする男が立っていて。青筋を立てて文句を言う弟子の様子など歯牙にも掛けず、再生の終わった痩身を己の方へと引き寄せた。
    「今日はお前に用があって来たんだ。大人しく着いてくればこの街には何もしない」
    「はぁ〜? 生憎こっちはあんたに用なんて……おい! ヒゲ! ノース! 話を聞け!」
    「黙っていないと舌を噛むぞ」
     すぐ死ぬクソ雑魚が、一見ただの女たらしに見えて古き血の吸血鬼である男に敵うはずもなく。「GAME OVER」と表示されたテレビ画面を消すことも、同居人や使い魔への言伝も残すことの出来ないままに新横浜の上空を飛翔する羽目になったのだった。

    「はぁ……一旦離してください」
    「……んん」
     そして今。どれだけもがいてもびくともしない男に、ただただ体力だけが削られるのを感じてドラルクは抵抗を諦めた。とはいえ、このまま背後から抱えられていたのでは退屈で死んでしまいそうである。せめて白髪の数でも数えてやろうと体の向きを変えるよう頼めば、少し渋い声と共に腹に回されていた手が離れていく。
    「まったく、いい年のおっさんが何をして──いや、なるほど。はぁー……」
    「……なんだ、おもむろにため息を吐いて」
    「いーえ、何でも。五歳児よろしくぐずってるおっさんはとっとと寝てしまえ」
     やるなら早くしろという無言の圧力に手早く体の向きを変えれば、再びがっしりとした腕が背中へと回される。さてさて、どんな酷い顔をしているのか拝んでやろう。そのくらいの気持ちで視線を向けて、その身に纏う黒いモヤにドラルクは鼻を鳴らした。
    (あんた、またこんなのに懐かれてるのか)
     黙っていれば整った顔立ちの、涼やかな目元にはくっきりと隈が刻まれている。身だしなみに人一倍気を遣う男としては珍しく、肌や髪の艶も悪いように見える。この男のこんな姿、それこそ住み込みの弟子として生活を共にしていた時に何度か見たきりお目にかかったことがなかった。
    「子守唄でも歌いましょうか?」
    「いらん……お前の歌は逆に夢見が悪くなる……」
    「はぁ〜? ドラドラちゃんの完璧な歌の良さが分からないなんて、見る目がないにも程がある!」
    「まったく……お前は結局……歌が……うまく……」
    「あー、はいはい。説教なら結構、さっさと寝てしまえ」
     サラサラと群青の髪を弄びながら、もう片方の手では規則的な速度で強張った背中を叩く。子供を寝かしつけるような手つきにしかし、ノースディンが嫌悪の表情を見せることはなく。むしろどこか安心したようにドラルクの首筋に額を擦り付け、そのまま緩やかな寝息を立て始めた。
    「なんだってこんなに悪いものを寄せ付けやすいかな、この人は。……そういうわけだ、すぐにこの場から消えてくれるかな」
     僅かに首筋をくすぐる髪の感触がどうにもむず痒く、気を抜くと死んでしまいそうだ。背中を叩く手でモヤを摘み上げ、赤い目に鋭い光を宿して”お話”する姿は、ドラルクが歴とした竜の血族の一因であることを示すようで。キィ、と悲鳴を上げてモヤが消え去ってしまえば、幾分か城の空気も綺麗になったような気がする。
    「この完璧な存在である私に感謝することだな。……なんて、あんたは全部夢だと思ってるんでしょうけど」
     スマホも置いて来てしまったため、今の自分にできる暇つぶしなど、腕の中の男の髪を撫でるか自身も眠ってしまうかのどちらかで。どうせ家事もなにもできないなら自分も寝てしまおうと、ドラルクもまた目を閉じて呼び名の割に温かい体温に身を任せるのであった。



    「これから毎日栃木まで枕になりに来る気はないか?」
    「はぁ〜〜? お断りですぅ〜、私はあんたと違って忙しいんでね!」
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