誕生日の翌日 今日は雲ひとつない青空だった。街路樹はいっせいに新しい葉を出し、街のそこここで花が咲いている。ぽかぽかとした日差しが春らしくて、犬飼の誕生日にふさわしいと辻󠄀は思った。
「え、辻󠄀くんその服で来たの? 」
ところが、氷見は待ち合わせ場所で目を丸くした。
「うん。暖かいから、いいかなって」
薄手のシャツ一枚の辻󠄀に、
「今日は夕方から冷え込むって」
と端末に天気予報を表示して見せた。
「本当だ」
「そのままだと寒いよ」
氷見は春らしい見た目のアウターの中に、キルティングのライナーを付けてきたという。
しかし、今から服を買うわけにもいかない。帰りの寒さは我慢するしかない。
「いたいた」
数メートル先から二人を見つけた犬飼が片手を上げた。
1357