犬辻飲茶デート ガヤガヤと賑やかな店内で、お品書きを眺めながら犬飼が言った。
「辻ちゃんって結構釣られやすいよね。ダメだよ? 美味しいものがあるからってホイホイついてきたら」
「そういう犬飼先輩はイベントごとに食いつきすぎです。これだって絶対食べ放題より衣装代の方が高いですよ」
お品書きにある『飲茶食べ放題』の通常料金を指して言う。店内ポスターには『チャイナ服着用のお客様限定!飲茶食べ放題無料!※提携店でご購入のチャイナ服に限ります』と書かれている。
「まぁまぁ。チャイナ服来て飲茶なんて写真映えするし、面白そうじゃん。辻ちゃんそれ似合ってるよ」
紺色の記事に銀糸で刺繍された長袍と呼ばれる服は、ひざ下までの上着に長いスリットが入っていてすらりとした長身の辻によく似合っていた。
「ありがとうございます。犬飼先輩も素敵ですよ」
一方の犬飼は前開きの臙脂色の太極拳服で、ジャケット丈の正面は中華風の結び紐がボタン代わりについている。靴もわざわざ黒のスリッポンを選んできたらしい。
「ありがと。ほら、いっぱい写真撮ろう」
肩を寄せ合う自撮りを撮ったところで店員がきたので、注文する。
「おれは、小籠包、エビ焼売、大根モチで」
「ちまき、水餃子、焼き小籠包お願いします」
メモを取った店員が下がると、犬飼はお冷を飲みながら、
「焼き小籠包なんてあった? おれもそっちにすればよかった」
「ありました。たぶん二個入りですし一個あげますよ」
「え、いいの? ラッキー。じゃあ、おれの小籠包と交換しよう」
「もらうなら大根モチがいいです」
顔色ひとつ変えずにリクエストしてくる辻に犬飼は笑ってしまう。
「いいよ。取引成立」
温かいウーロン茶が運ばれてきて、辺りに佳い香りが漂い始めた。
END