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    somakusanao

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    somakusanao

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    原稿に飽きたので、ココイヌちゃんを書きました。

    #ココイヌ
    cocoInu

    カフェでアルバイトするイヌピー 美人とイケメンしかいない噂のカフェがある。

     ある日、美人のアルバイトがやってきた。目の覚めるような美人だが、気さくで、ものすごくいい子だった。しばらくすると、その子が美人の友人をアルバイトに誘ってくれて、その美人の友人がイケメンの彼氏を呼んでくれて、そのイケメンの友人が以下略。
     というわけで、なんだか知らないうちに美人とイケメンのアルバイトが増えていたというのが真実だ。
     誰だって美人やイケメンに接客されたら、うれしいものだ。カフェは人気繁盛店になった。その一方こまることもあった。美人イケメン目当てに厄介な客も増えたのだ。
     これに店長が「対策しよう」と言っていたのが先日のこと。
     満を持してやってきたのは

    「乾青宗です」

     美人でイケメンだった。なんでだよ。ここは体育会系ガチムチ男が入ってくる流れじゃなかったか。困惑する僕に彼はきっちり90度に腰を折った。

    「先輩、ご指導よろしくお願いします」
    「え、乾くん?」
    「うっす」
    「顔上げてくれるかな?」 
    「うっす」

     美人でイケメンでも、乾くんはガチの体育会系だった。
     ちなみに僕は店長の息子なので、身内採用枠だ。イケメンではない。



     美人でイケメンの乾くんはもちろん期待の新人だった。アルバイトは初めてという彼は、たしかに器用なほうではない。接客やレジはできそうにないと早々に判断され、運搬係に採用された。

    「乾くん、これ運んで」
    「おっす」
    「乾くん、お冷やも持って行って」
    「うっす」
    「乾くん、すごく元気な返事だけど、できれば返事は「ハイ」でおねがいします」
    「ハイっす」

     美人ぞろいと評判のうちのカフェでも上位に入る美形顔にもかかわらず、返答は「おっす」か「うっす」だ。体育会系が身に沁みついているためか、どんな仕事でも率先してやってくれる。重い段ボールの運搬も、お客さまの車いすやベビーカーの持ち運びも、こちらが気が付く前にやってくれる。
     乾くんの評価は「ちょっと怖いけど、いいこだよね」で満場一致だった。そんな矢先のことだ。
     例の厄介なお客さまがやってきた。彼が目当てにしているアルバイトの子はすでにスタッフルームに逃がし、出てこないように言ってある。

    「今日、××ちゃんいないの? シフト入っているよね」
    「はは、今日はお休みなんですよぉ」
    「嘘でしょ」
    「ほんとうなんです。申し訳ありません」

     こういうお客さまの対応は僕がすることになっている。アルバイトスタッフに対応させて、標的がそちらになったら困るからだ。このやり取りをしはじめてから、五分が経過する。お客様も不安そうだ。
     そこにやってきたのが乾くんだった。

    「先輩、ゴミ捨て終わりました」
    「え、あ、はい。ええと、じゃあ次は」
    「なんすか、こいつ」
    「お客さまだよ、乾くん」
    「お客さまなんかじゃねぇだろ、こんなやつ」

     そんな。本当のことを言っちゃダメでしょ。
     案の定ストーカーは、あっ僕も本音で言っちゃった、怒りに立ちあがった。
     
    「なんだてめぇ」
    「うるせぇ」

     次の瞬間、ストーカーは腰を抜かしていた。え。いま何が起こったの?

    「え、な、なに? 乾くん、なんかした?」
    「おっす。鳩尾に一発」
    「え、え」
    「喧嘩慣れしてねぇな、こいつ」

     え。えっと。乾くん。乾くんは、もしかして、体育会系じゃなくて、ヤンキー系だったのカナ?
     呆然とする僕に、イケメンくんアルバイトがやってきて「すいません、勝手に警察呼びました」と囁いた。ちなみに女の子は全員キッチンから出ないように言ってある。
     あー、あー、警察。大ごとになっちゃったよ。運がいいのか悪いのか、自転車に乗ってお巡りさんがすぐにやってきた。そして乾くんを見た。

    「おまえか、乾」
    「おっす」
    「おっすじゃねぇよ」

     どうやら顔馴染みだった。

    「なにがどうした」
    「そいつ、刃物もってるから、殴ったほうが早いと思って」
    「相変わらずの嗅覚だな」

     え。刃物。青ざめているあいだにお巡りさんがなにかを確保する。なにかっていうか、包丁だった。まじか。

    「今回はお手柄だが、大人しくしてろよ」
    「うっす」

     ストーカーは常習犯だった。前にも女子大生を脅していたのだとかなんだとか。

    「え。乾くん、お巡りさんと知り合いなの」
    「おっす。家出した時に何度か補導されました」
    「あ……そう……」

     家出くらいするよね。男の子だもんね。何度かってことは一度じゃないってことなのかな? 僕は一度も家出をしたことないけどね。

    「すいません、迷惑かけましたか?」
    「えっ、いやいやいや、ありがとう。助かったよ。誰も怪我してないしね」

     乾くんは「よかったっす」と言ってちょっと笑った。わかっていたけど、顔面が最強に素晴らしかった。



     
     お手柄の乾くんは、それからもバイトを頑張ってくれている。今日は朝から雨で、客足が鈍かった。ここぞとばかりに乾くんを呼んだ。

    「きょう、午後からキッチンに立ってみよっか」
    「えっ」
    「ほら、お客さんも少ないし、練習にはちょうどいいと思うんだよね。休憩終わったら、コーヒーの淹れ方を教えるから」

     乾くんは神妙な顔をして「がんばります」と頭を下げ、そそくさと休憩に行った。
     それを聞いていたらしい、常連のお客さまが「乾くんもキッチンかぁ」と感慨深そうだ。美人でイケメンでなおかつ体育会(たぶん)の乾くんは、このカフェでもかなり目立つ存在だ。なんていうか、雰囲気があるっていうのかな。彼のことを気にしているお客さまも多いのだ。

    「乾くんがキッチンに入ったら教えてよ。コーヒーを注文するから」
    「ははは。乾くんびいきですねぇ」
    「いやぁ。あのストーカーを追い返した腕っぷし。すばらしかったからね」
    「ははははは」

     例の一件以降、ストーカーはいなくなった。ほかの厄介な客も足が遠のいている。このまま平穏になればいいんだけどなぁ。
     休憩を済ませた乾くんはすっかりやる気になっていた。どうしたのかと聞いてみたら、ともだちにラインをしたら、応援してくれたのだとか。頬をほんのりと染めているのがかわいかった。
     スタッフとの会話にもあまり入らないし、醒めたところがあると思っていたが、意外とかわいいところがあるんだよなぁ。愛嬌がなく、愛想もふりまかないが、アルバイトスタッフや常連さんの受けはいいのは、そういうところだろう。

    「うん。そうそう。うまいうまい。これなら大丈夫じゃないかな。さいごにカップが汚れていないか注意してね。縁とか意外と汚れやすいから」
    「うっす。気をつけます」

     そして乾くんは褒めると伸びるタイプだった。注意してから褒めるではなくて、褒めてから注意した方が格段に覚えてくれる。
     さて指導も終わった。次に注文が入ったら、乾くんにやってもらおうかな、と思った瞬間に、店のドアベルが鳴り響いた。お客さまだ。

    「いらっしゃいませー……」

     若いがめちゃくちゃ雰囲気のあるお客様だった。イケメンはイケメンだが、只者ではないオーラが溢れている。アルバイト君も硬直し、常連さんの視線が集まる。こういう時のフォローもぼくの役目だった。店長身内採用枠、つらすぎる。

    「お好きな席にどうぞ」
    「じゃあ、カウンターで」
    「はい」

     雨のせいでテーブル席も空いているのに、彼はカウンターを希望した。長居するつもりはないのだろうか。メニューを見ることなく「コーヒーを」と注文される。
     フロアをアルバイト君に任せて、キッチンに戻る。キッチンでは乾くんがスタンバっているはずだった。本来なら乾くんに任せるのが筋なのだけれど、なにやら気難しそうなお客さまだった。

    「えーと……注文が来たんだけど」
    「オレ、つくっていいっすか」
    「あ、うん、もちろん。はじめてだし、ゆっくりでいいから、丁寧にね?」
    「うっす」

     乾くんは僕に言われた通りの手順で始める。バイトに慣れた子だと自分のペースにアレンジしてしまうものだけれど、乾くんは実直に進めている。いっけん不器用だけれど、こういう子のほうが伸びしろはあるんだよな。
     とはいえ、キッチン入りしてはじめて一人でつくるコーヒーだ。指導するより自分でやる方がよっぽど気楽だ。いつだって初めての子にはひやひやしてしまう。

    「できた」
    「うん。いいんじゃないかな。じゃあ、持って行くね」
    「オレ、持ってっていいっすか」
    「え、」

     忙しくない限り、キッチンとフロアは別のスタッフで対応する。だから乾くんが自分で運ぶのは少しおかしい。でも。でももしかしたら。
     あのお客さまは乾くんの友達なのかな?
     そう言われてみれば、お客さまと乾くんは同い年に見えるし、休憩中に友達にラインを送ったと言っていた。

    「あ、おともだちなのかな?」
    「うっす。ほんとうに来てくれるか、わかんなかったけど」

     乾くんがほんのりと頬を染める。

    「お友達券つかっていいっすか。あいつ、あまいもの好きなんで」
    「いいよいいよ。どのケーキがいいかお聞きしてね」

     アルバイトの子に配っている「お友達券」を乾くんが使うのは初めてだ。
     乾くんはうれしそうな顔をして、コーヒーを運んでいった。

    「あっ、乾くん乾くん、フロアに出るときはエプロンを……」

     遅かった。乾くんはエプロンでフロアに出て、お客様のところに行ってしまった。常連さまが「あーあ」と言っているが、常連さまなので許してくれるだろう。顔が笑ってるし。
     乾くんがお客さまになにかを話しかけている。やっぱりお友達なのだろう。お客さまはすぐにコーヒーをひとくち飲んでおいしいと言ってくださったようだ。よかった。だいじょうぶだとは思ったけれど、よかった。
     会話は聞こえなかったけど、乾くんの顔はぱっと綻んでいる。よほどうれしいのだろう。そんな顔は初めて見た。
     あーあ、いい顔しちゃって。

    「……」

     ていうか近くない? 乾くんとお客様の距離ちかくない? えっ、キスしてないよね?? ないよね???
     笑っていた常連さんも硬直してガン見しているし、アルバイトくんもアルバイトちゃんも息を飲んでいる。
     えっ、やっぱりキスしてた?

    「ギリセーフです! 鼻はくっついてましたけど!」

     それはセーフではないのでは……。もしかしてあのお客様は帰国子女かなんかカナ? それでハグする癖があるとかカナ? きっとそう。ぜったいにそう。 
     カフェの注目を一身に浴びた乾くんは鼻息荒く帰ってきた。

    「お友達券、イチゴタルトでした!」
    「ア、ハイ。ヨカッタネ」
    「はい!」

     乾くんの顔面はいつだって最強だけど、満面の笑顔は光り輝いていて、思わず拝んでしまった。

    「ご利益ありそう」
    「? なんのことっすか?」




     さて乾くんのお友達の滞在は長くはなかった。コーヒー二杯とお友達券のタルトを食べ終えると、そうそうに席を立つ。乾くんにはレジ打ちを教えていないから、お見送りしていいよと言うと、あっというまにフロアに出て行ってしまった。エ、エプロン~~~~~~。フロアに行くときははずしてって、さっき言ったよね~~~~~~。まぁ、いいんですけど。
     外は相変わらず雨が降っていて、傘をさしていない乾くんの髪に降りかかる雨をお客様が手で払っている。絵になる光景だが、イチャイチャしているだけですよね? 独り者のひがみではないですけど。
     名残惜しいだろうが、乾くんはアルバイト中だ。戻ってきた乾くんはすっかりフルパワーだ。わかりやすい態度に常連さまは笑い、アルバイトくんたちも微笑ましそうに見ている。

     だが僕は見てしまった。

     乾くんと別れた瞬間。お客さまのもとに、滑るように黒い車がついたことを。差し出される傘。ドアを開けるスーツの屈強な男。あっという間に車は去っていった。

    「……よし、わすれよう」

     接客業なんて見なかった振りも忘れるのも仕事のうちだ。
     雨も小降りになってきたし、これから客足が増えるといいな。


      
     僕の努力空しく、「九井様」はカフェの常連さまとなるのだけれど。

    「カフェに防犯カメラを設置して、ガラスを強化ガラスにしたいんだけど」
    「そういうのは店長に言ってください~~~~」

     店長身内採用枠、つらすぎる。


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    DONEパラレルです。タケミっちがイヌピのお嫁さんになるパラレルですが、ココイヌです。パラレルなので、書きたい放題です。たぶんバジさんをはじめて書きました。たのしいです。
    思った以上にタケミっちの話になってしまった。
    かみさまのくに 川端康成の有名な小説の書き出しに「国境の長いトンネルを抜けると雪国だった」とある。オレが鳥居をくぐり抜けたら、そこは神様の国だった。
     オレもね、おかしいなと思ったんだよ。こんなところに鳥居なんてあったっけ?って。
     そのときオレはバイトに遅刻しそうになって、携帯片手に走っていた。30分にタイムカードを押さなきゃいけないのに、携帯が示す時刻は27分。ちなみに職場まではバスに乗って20分。バス停にすら辿り着いていない。どうやったって無理だ。どこでもドアでもない限り無理だ。そんなオレの目の前に飛び込んできたのが鳥居だった。こんなところに鳥居なんてあったっけ?

    「あ、しまった」

     鳥居に気を取られたせいか、オレの手から携帯がすっぽ抜けて、鳥居の奥に飛んでいった。今日日、携帯がないとなにもできない。遅刻の連絡さえできない。オレは慌てて携帯を取りに行った。携帯しか見ていなかったから、鳥居をくぐり抜けたことに無自覚だった。
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