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    somakusanao

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    somakusanao

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    一行目からご想像できる安定の展開です。
    梵ココ×バイヌ

    #ココイヌ
    cocoInu

    旗振り当番「は?旗振り当番????」

     ドラケンが言うにはこうだ。この付近でトレンチコートを着た不審な男の目撃情報が相次いだ。住民で子供たちを見守ろうということになり、D&D MOTORSが所属する商店街組合でも参加することになった。登下校は平日の日中であるため、見守りはどうしても若い母親とシニア層が多い。そのため若い男性二人いるD&Dにぜひとも参加してほしいと組合会長じきじきに話があったそうだ。小学生低学年の下校時間に店の近くの交差点で旗を振って欲しいというわけだ。所要時間は概ね十分ほどであるらしいが。

    「めんどうくせぇ。つーか不審者情報はガセじゃねぇの」
    「それが××さんの息子さんが目撃したんだって」

     常連の高校生なる息子はD&Dに来たことがある。しっかり者の高校生の証言は信憑性が高い。

    「なにかあってからじゃ遅いだろ。十分ならちょうどいい気分転換にもなるだろうしさ」
     
     ドラケンは正義感の強い奴だ。正論でもある。乾はしぶしぶ了承することになったのが二日前のことだ。昨日はドラケンが旗振り当番だった。今日は乾の番である。いやいや交差点に立つことになったのだが。

    「……」

     交差点を通る女子高生が乾を見て、ぽかんとした顔をした。乾が持つ黄色の旗を見て、小学生の父兄なのだろうかとむりやり納得したような奇妙な顔つきになった。父というには若すぎるし、兄というには年が離れすぎている。昨日のドラケンもこんな苦労をしていたのだろうか。そういえば、ぐったりした顔をしていた。
     ぽかんとした顔をした女子高生が通り過ぎ、なにか言いたげな顔をした若い母親がベビーカーを押していき、どこかの爺さんが自転車でふらふらと過ぎ去った頃、小学生の一団がやってきた。先頭に立っているやや体格のいい少年、といってもせいぜい三年生くらいだろう、が、ぎょっとした顔をする。その後ろの女の子ふたりも顔を見合わせ、ランドセルに黄色のカバーをつけた一年生らしき少女が泣きべそをかきはじめた。
     防犯どころか、オレが警戒されてるんですけど?
     ぴたりと足を止めた小学生一団だったが、女の子が黄色の旗に気づいてくれた。

    「みまもり、ありがとうございます」

     なんてしっかりしたお嬢さんなんだろう。乾は感動した。折よく信号も青になったので、本来の役目である旗を振ると、小学生たちは逃げるように帰っていった。
     うそだろ。こんなことしばらくやんなきゃなんねぇのかよ。しかも

    「おい、ドラケン、三十分もかかってんだけど」
    「時間きっちり帰って来るってわけでもねぇし、そこらへんはしょうがねぇだろ。それより旗振りはちゃんとできたのか」
    「……旗は振った」
    「いちばん小さい女の子に泣かれなかったか?」
    「失礼なこと言うな。泣かれてねぇよ」
    「オレは泣かれた」
    「……そうか」

     たしかにドラケンのほうが背が高く、強面である。
     女の子に泣かれはしなかったが、ほとんど泣かれそうだったことは、なんとなく秘密にした。

    「まぁ、そのうちあいつらも慣れるだろ」
    「ほんとかよ」
    「それか不審者が捕まってくれることを願うしかねぇな」 
    「そっちのほうが早いんじゃないのか」



     などと言いあってたのが一週間前のことである。

    「イヌピー! さようなら!」
    「イヌピー! 今日はドラケンの日じゃないの?」
    「ドラケンは仕事。オレは代わり」
    「じゃあ、明日がドラケンなんだ。ドラケンに新しい靴みせる約束したんだ」
    「おー、瞬足じゃん」
    「イヌピー、瞬足知ってんの?」
    「オレも履いてた」

     あっというまに小学生たちは龍宮寺と乾に慣れていった。こんなに人懐っこくていいのだろうかと乾が不安になるほどだ。乾は覚えていなかったのだが、三年生の少年はD&Dに自転車のパンクを直しに行ったことがあり、しっかり乾らの顔と綽名を覚えていたらしい。

    「いぬぴー、ばいばい」

     一番ちいさな女の子も、恥ずかしがりなのは相変わらずだが、乾に挨拶をしてくれるようになったときは感動した。いまでは信号を渡った後も振り返って「ばいばい」をしてくれる。彼女につられるように、小学生の一団が両手をあげて「イヌピー!バイバーイ!」と言ってくれる。乾も当然ながら「ばいばい」を返す。

    「ん?」

     交差点の向こう側で小学生じゃない男もバイバイをしてくれた。九井だった。九井は乾が手を振ったので、知り合いである自分のことだと思ったらしい。「イヌピー、バイバイ」と手を振る小学生の一団を見て、恥ずかしそうな顔をした。それはいい。よくある勘違いだろう。問題は。

    「九井……トレンチコートだな」

     ちょうど仕事から帰ってきたドラケンが呟いた。向こう側から「あっ、ドラケンだ!」と叫ぶ男の子に手を振ってやりながら、ドラケンの顔は複雑だった。

    「もしかしてこのあたりをうろうろしているトレンチコートの男って……」
    「……」
    「まぁ? 地域の安全のために旗振りをするのはいいことだよな?」

     向こう側からやってくる九井に、とりあえずトレンチコートはやめた方がいいと言ってやろう。





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