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    uta

    らくがき

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    uta

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    ココイヌ 吸血鬼パロ

    #ココイヌ
    cocoInu

    甘美なる食事"それ"はいつも足先から始まる。力が抜け出て全身から熱が引いていく感覚の刹那、身体の自由が効かなくなる。
    「ッ...!」
    ふらつき倒れかかったのをすんでのところで踏みとどまり、壁に背中を押し付ける。後頭部を打ち付けたが、そのお陰で意識まではとばずに済んだ。
    「ココ...?!」
    俺の異変に気づいたイヌピーが「大丈夫か?」と身体を触れる。平気、大丈夫、ほとんどうわ言のように応えるけれど気色悪い浮遊感で脳は揺れていた。
    「また貧血か?」
    「まぁ...うん...そんなとこ。」
    事実、これはただの貧血による立ちくらみでしばらくすれば治るものだ。問題はこの貧血が治らない持病で、俺に架せられた宿命そのものだということで
    「やっぱり病院に行くべきだ。ココ。」
    医者にかかってもどうにかなるものではない。俺のこの貧血は、吸血鬼であるが故のものだ。そのことを俺は誰にも、イヌピーにすら言ってはいなかった。
    「大袈裟過ぎだって。ほっときゃ...ほら手動かせるし、問題ねぇよ。」
    一体誰が信じるというのか。この世界に吸血鬼が存在しているなんてまともな頭があれば信じはしない。
    「昨日も一昨日もふらついてただろ。」
    「ただの疲れだって。」
    イヌピーが疑うのも無理はない。その場しのぎの言い訳が難しくなっていることはわかっていた。それでも俺が人ならざるモノだと打ち明けるわけにはいかない。ましてや、その血が欲しいだなんて言えるはずがないのだ。
    「...冷蔵庫にトマトジュース残ってたよな。あれ飲めばすぐ治るから、そんな顔すんなよ。」
    ふらつきながら壁つたいに冷蔵庫へと足を進める。冷蔵庫の扉が普段の何倍もの重さでもって感じられ、正直開けるのもしんどいくらいだ。それでもなんとか扉を開け取り出したトマトジュース缶を模したそれはただの血液パックだ。この地球の数パーセント存在する吸血鬼のために生産されている非常食。本来吸血鬼は生身の人間から奪った血液で生き長らえる。だが俺のように生身の人間から血液をとらない奴は、このクソまずいトマトジュースもどきで補填するしかないのだ。
    プルトップを押し上げ、匂いまでトマトジュースに模した血液を喉に流すと浮遊感が止みモヤついていた思考がクリアになっていく。
    「...なぁ、ココ。」
    「ぁ?何?」
    缶を飲み干し不快感ごと吐き出すと、ようやくイヌピーの顔がはっきりと見えた。疑い、訝しみ、推し量る様子がありありと見て取れる。次の言い訳はどうしようかと先々考える癖が俺は染み付いてしまっていた。
    「こないだ潰した組織に変な奴がいたんだ。」
    「?」
    てっきり貧血のことを言われるのかと思いきや、違った。
    「変ってどんな?...つか、この世界にまともな奴なんていなくねぇか?」
    「ぶん殴られて脳震盪起こしたはずの奴が急に起き上がって仲間の血を吸い始めた。」
    「は?!」
    思わず大きな声が出た。なんだそれ、吸血鬼じゃねぇかよと喉まで出かかる。
    「吸われた奴は萎れてくみてぇにどんどん干からびてって死んだ。で...吸ってた奴は回復したのかボロボロなのに暴れ回ってた。銃で頭ぶち抜かなきゃ俺もヤバかったかもしれねぇ。」
    「あのさ、なんでそーいうやべぇことすぐ言わねぇの?」
    組織の参謀役である俺は基本的に抗争の最前線にはいない。だからその時その瞬間起きていることを見ることはなく、俺が出向くのは全てが片付いた後なのだ。そのせいかイヌピーは抗争の最中に起きたことを後出しで報告してくることがある。俺への配慮なのか、なんなのか。
    「関係ねぇことだと思った。」
    「じゃあなんで今言うんだよ。」
    「...。」
    黙ったイヌピーがなぜ今このタイミングで話したのか俺にはわかる。イヌピーはお前もそうなんだろ?と言いたいのだ。
    「そいつ、ドラッグでもやってんじゃねぇの?うちにもいたろ。外国製のドラッグ横流しして勝手に儲けてたアホがよ。」
    反社会組織の資金源は今やその大半がドラッグによる利益だ。そしてそれをくすねて懐を潤そうとするバカが掃いて捨てるほどいる。すぐにバレるやり方でしか儲けられないお粗末さで組織に地獄の果まで追われる奴を何人も見てきた。
    「イヌピーは考えすぎ。俺のコレはただの貧血で、そんな都市伝説みてぇなのとは別。」
    先回って畳み込み、この話はもうお終いと顔を逸らす。空になった缶をゴミ箱目掛けて投げ込み「そろそろ時間だ」とアジトを出ようと促す。今日はこれから幹部会なのだ。
    「聞いてる?」
    返事のない様子に改めてイヌピーを見遣ると、奴は持っていたナイフで自分の腕を切っていた。
    「ちょっ、イヌピー?!」
    呆気にとられる俺を他所に真顔でボタボタと血を流すその様に背筋が凍る。何をしてるんだと恐る恐る近づこうとするが、新鮮な血液の匂いに堪えていた欲求が波のように押し寄せそこから一歩も動けなくなってしまった。
    ーーーヤバい
    人並み以上に優れた吸血鬼の嗅覚は血の匂いに敏感に反応し、普段押さえ込んでいる理性は本能に狩られていく。
    「...我慢で腹は膨れねぇだろ、ココ。」
    切れ長の目を光らせ、イヌピーは血を流したままこちらへとやって来る。
    「来るなッ!」
    「ココ、お前気づいてるか?」
    目の前で立ち止まった。腕から流れる赤い筋をぺろりと舐めて、見せつけてくる。挑発と言っていい。甘い匂いが脳の髄まで染み渡り、歯噛みする。
    「さっきからずっと口から唾液が垂れてる。…それ、動物みてぇだ。」
    は?と、弾かれた俺は慌てて自分の口元を拭った。ぬめった唾液が確かに垂れている。
    血まみれの腕を差し出して寄越すイヌピーを振り払い、後ずさる。じりじりと睨み合って、今更取り繕う嘘を必死に探す。俺は完璧に嘘を突き通してきた筈だった。
    「なぁ、なんで隠すんだ?お前が吸血鬼だって俺はとっくに気づいてるんだぜ?ずっとお前しか見てねぇ俺が、ココの嘘に騙されるバカだって思ってんのか?」
    砂上の城が崩れるように呆気なくイヌピーは俺の嘘を見破った。始めから知っていたと言わんばかりに「俺もボンクラだと思ってんのか?」と、責めるのだ。そんなこと微塵も思ってなんていやしないのに。
    「…都市伝説、信じてんの?イヌピーってそういうオカルト好きだった?」
    「都市伝説もオカルトも興味ねぇ。ココが好きなだけだ。」
    血だらけの腕を差し出して言うことじゃねぇ、と場違いな脱力が鼻からため息になって出た。
    「一回でも生身の人間から血液もらったら、もうそれしか受け付けなくなんだよ。足りなくなったら人間を襲う。…それこそイヌピーが見た奴みたいなことになる。」
    「だったら俺のを飲めばいい。それで俺がいなかったら生きてけねぇ身体になればいい。」
    「…重てぇこと言うなよ。」
    「?当たり前だろ。ココがいねぇ世界に意味なんかねぇ。」
    イヌピーが一度言い出したら死んでも引かない性格だと知っていたはずだった。でもまさかそれを今言われるとは思わず、俺は特大のため息を吐いて頭を搔く。
    「ひとつだけ約束して、イヌピー。」
    「…なんだ?」
    どくどくと血の流れる腕を持ち上げ、指先でなぞる。この血は何億とも値のするワインにも勝るものだ。
    「俺のせいで死にそうになったら、死ぬ前に俺を殺して。」
    「…。」
    「お前の死ぬ理由に俺はなりたくねぇの。それが約束出来ねぇなら俺はクソまずいトマトジュースもどきでいい。」
    「…わかった。」
    不承不承といった具合にイヌピーは頷く。納得はしてないが頷くしかないーーーそんなところだろう。イヌピーも大概だが、俺も意固地なのだ。そう思うと笑けてくる。
    腕を引き、イヌピーの肩口に顔を埋める。出血しやすく大量に飲める場所を避け、俺は敢えて首筋に歯を立てた。皮膚が裂け、噴き出した血の味に震える。それは生まれて初めての経験だった。
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