いっしょに地獄へ落ちようぜ 乾青宗は普通の男である、とワカは判断していた。
不幸な生い立ちであるため、独特の雰囲気があったし、群を抜いた美形でもある。喧嘩も強い。
けれどけして強烈なカリスマの持ち主ではない。普通の男だと思っていた。抗争中の青宗と九井一に会うまでは。
「おれたちマブだろ!」
ここまではいい。不良にだって友達はいる。むしろ不良だからこそ心をゆるした親友はいる。親友同士が敵対したチームにいることはよくあることだし、仲間になるよう説得することもありうることだ。九井が青宗の説得に心を打たれ、東京卍會側になるのも予想の範疇だった。
九井は改心の理由を長々と熱弁していたが、そこはよく聞こえなかったし、彼らの家庭事情は察するところはあっても詳細は知らないので、割愛するとして。
「オレは赤音さんを忘れる」
なんでだよ。忘れなくてもいいだろう。
「こんどこそオレがオマエに尽くしたい」
親友ってなんだっけ。
「いっしょに地獄へ落ちようぜ」
マブっていっしょに地獄へ落ちるものだっけ……。
傍らのベンケイもおなじような、不可解な食べ物を生れてはじめて口にしたような、顔をしていた。九井一、激重すぎる。なるほど関東卍會の参謀にして金庫番。一筋縄ではいかない男だ。
「青宗、オマエ、とんでもねぇ男に惚れられたな……」
のちに青宗自身に聞いたところ「オレもココのために命をはれる」そうだ。なるほどなるほど。破れ鍋に綴蓋。似た者同士。なるほどこれがマブか。さすがマブ。
乾青宗は普通の男であるが、九井一が関わると厄介な男である。とワカは判断を改めた。