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    abcsucidexyz

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    abcsucidexyz

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    前回のあれこれ ごう、と音を立てて砂埃が巻き上げられる。陽の光を吸い込んで生温くなった鉄の扉が、青年の遅い戻りに苛立ったのか、歯軋りのような不気味な音を立ててゆっくりと扉が開かれた。差し込まれた光の筋の中で、埃が逃げ惑って宛所もなく散っていく。

     此処は“組織”の地下研究所。人里離れた場所に作られており、今では人口が減ったとされる錬金術師が、追い立てられた合成獣(キメラ)が、研究所の中で各々生活をしている。今日も今日とて、息を潜めながら細々と過ごしているわけなのだが──……

     出入口傍の廃材置き場では、何に怯えるでもなく、衣服が汚れるのも気にせず、一人の青年が床に座り込んでなにか作業に集中していた。

     その後ろから、白い

    「おい〝電解〟お前また、夜通しで作業していたのか」

    「おや、お帰り。なんの事だい? ミスター・クワイヤ」

    「ああ、ただいま……」

     声をかけられた青年──〝電解〟は、飄々とした声音で振り向くことなく手元の基盤にパーツを置いて手を動かしている。カチャカチャと耳障りな音を立てて、小さい舞台の上に細かな部品が積み上げられ、銅線が編まれて、が形を成していく。それは、錬金術などという不可思議な術式とは程遠い、複雑かつ近代的な構造をしていて、いつだってクワイヤの目を丸くさせる。

     実際、ああやって彼の手元にある装置も、何の意味を持ってどのようにして成り立ち、どんな動きをしてどういった効果をもたらすのか、機械学は明るくないクワイヤにとって、皆目見当もつかない。
     そこまで観察して考え込み、はっと息を呑んで、当初の言及すべき事項を思い出した。

    「──って、おい! とぼけるなよ。き、君の部屋からの物音がだなあ、毎晩毎晩騒がしくて、ゆ、ゆっくり眠れやしない!」

    「……それは済まなかった、急な締切がない限りは時計を見る癖が無くてだね。何時頃まで聴こえていたかな?」

    「は? 無自覚か? あ、明け方までずっと──」

    「ということは、君も……何かしらの目的があって起きていたわけだ」

    「……言っただろ、物音のせいで、ね、眠れないし、寝ても起こされたんだよ」

    「おいおい、私がこの身体の定時調整に席を立つ時ぐらいは静かになる筈だからなー……微睡んで寝落ちる隙くらい生まれるだろー?」

    「は!? う、うぅ嘘こけ!! そんなこと1度だって──……あっ」

    「ほら、ね?」

    「…………クソがァ……」

    「ははは、そう憤るな。カマをかけて済まなかった、君の“神様”を人質に取るつもりはなかったんだがね。ああそうそう、ウロボロス殿が素材の錬成式を幾つか探していてね。それを考えて機械を織り交ぜた試験運用していたのさ。まあ、結果的に君の睡眠時間を巻き込んで犠牲にしてしまったわけだが、機械化もあって術式の運用は必要最低限の素材で済むから納得のいく錬成陣は渡せそうだ。ああ、ちなみにこれはミスター・ディルシからも合理的だとお墨付きで特に拘ったのはこの水銀の配置と過程なんだけど──」

    「ああああああ、ストップストップ!」

    「?」

    「ほら、こいつもずっと首を傾げて──」

    「んー!」(にこっ)

    「おや、新顔かい?」

    「ん?」(筆談:初めまして、地獄より参りました)

    「はっはっはっ、地獄か……ん?」

    「……は? えっ、待て」

    「んー?」

    「「地獄?」」

    「ん!」(にっこー)


    「なるほどなるほど。私が構築した術式が君を召喚するための陣と酷似していた、と……」

    『Exactly.物分りの良い方は、とても好ましいです。して、召喚者殿、何か願い事は御座いますか?』

    「君は……そのまどろっこしい筆談は、どうにかならないのかね? 発語は出来ないわけではないだろう?」

    『……可能ですが、ミスター・ディルシ。貴方なら解るでしょう?』

    (名乗っていないはずなのに、なぜ名前を、という顔のルキノ)

    (満面の笑みから、嘲笑うように目を細めると薄く唇を開き)

    「──なあ、〝骨笛〟」

    「…………〝抱擁〟」(殺気に思わずナイフを身構えながら唖然とするルキノ)

    「ひええ……」

    「少し喋っただけなのに、今のプレッシャーは……」

    「んっ!」(殺気を消すとすごいでしょー、と言わんばかりのにっこり)

    「ははは、とんでもないものを喚び出したってわけかい……俺は……」

    「とんでもない所か、古くから有名な吸血鬼の真祖さ。まさか、吸血鬼から離れて悪魔業に乗り換えていたとは思わなかったがね」

    『今は地獄の奏者として〝鍵盤〟を名乗っております。〝抱擁〟としての力は、なるべくなら行使したくはありません。しかし、見慣れた顔が居るならば話は別……』

    (ドタバタと騒がしい足音)

    「なんだね! 今の殺気は! 私の蛇達が怯えているじゃないか!! 猫なんか怯えてベッドに潜ってしまったぞ!!」

    「んー!」(満面の笑みで手をひらひらぶんぶん)

    「………………は??? 何故真祖がここに居る!?」

    「流石の貴殿も驚くか……私もだよ、まあ掛けたまえ」

    「急な再会だ、リアクションを取るなという方が到底無理だ」

    (不満げに用意された丸椅子にどっかりと跨りながら)

    「はぁぁあッ!? 何で和やかに話してるんだよ、ウロボロスも知り合いだったのか!? クソッ、明らかにカタギの人間じゃないだろ!? というか僕の知らない所で謎の人間関係が!?」

    「どうか落ち着いてくれ、ミスター……そもそも相手は人間じゃないし、俺も頭が痛くなってきたところだ、冷静になろうじゃあないか」

    「ふふふ、煉獄の。貴方も姿を変えていたとはね」

    「……ご機嫌麗しゅう、真祖殿。なあに、戯れのひとつさ」

    「錬金術の勉強はそんなに楽しいかい?」(水晶をひとつ摘むと、興味深そうに眺めて)

    「ああ、不条理はあるが地獄に比べたら幾分かマシさ」

    「そう……此処には甘美な悲鳴も、退廃的な美しさも、豪華な〝食事〟もない。あるのは埃っぽさと、幾多数多の失敗と、成れの果てのガラクタと、ほんのひと握りの成功……」

    (饒舌に話していたかと思うと、水晶を細かな粒子に変えて、アンドルーとルカに目を遣り、ふっと姿を消し、静観を決め込んでいた2人の背後に回って)

    「さては、こんな薄暗いところに引き留められているのは、この〝贄〟達のせいかな?」

    「ひっ……」(背後から、首筋に鋭い爪を立てられて怯え)

    「……待て、君は私に喚び出されたのだろう。契約はまだ有効かい?」

    「なるほど。その人間が余程重要と見える」

    「ああ。こんなナヨっちい見た目だが我々のトップでね。ビビりだが口が回るもんだから、居てくれなきゃ統率が取れなくて困るのさ」

    「ぉ、おっ、お前はァ! 僕を守りたいのか貶したいのか、どっちかにしろぉ!!」(ギャン泣き)

    「あーーあーー、まあ、やかましいリーダーだが、そんなんだから贄にされては困るのさ。ということだ、悪魔殿。私と契約を交わそう。代償は君専用の部屋と新鮮な血液を手配する。どうだい?」

    「……元とはいえ、我が同胞も居る。悪魔だが、仲間を見捨てる程薄情ではない。しかも貴方がたは……どちらかというと裏の人間だ。仲間が此処に居て安全という保証は?」

    「────そんなもの、あるものか」

    「…………チッ、厄介なのが来たか」(囚人)

    「妙な気配があるから来てみれば……僕に黙って、何を企んでいるんだい?」

    「黄金比……お、お前……何しに来たっ!?」

    「何って、研究の進捗を見に来たのさ。そうでもなければ、こんな薄汚い所に足を運ぶ訳ないだろう」

    「お褒めに預かり結構!! 報告書ならいつもの所だ、勝手に持っていけ!」

    「僕も一刻も早く帰りたいが、看過できない相手がそこに居るものでね。僕は悪魔召喚の研究なんて、一っ言も聞いてないんだけど、どういうこと?」

    「……些末なことだ。手土産くらいは持たせよう。帰ったらどうだね?」

    「君の鉱石の研究書類、待ってるんだけど。結晶体」

    「……随分と過去の話だが?」

    「究極の“美”を探し求める者に言うセリフがそれ?」
    「あんな美しいもの、おいそれと見逃してたまるものか」

    「はいはい、私がオムライスを作ってやろう。黄金比殿、こちらでゆっくり話そうか」

    「んな!? ま、えっ、ちょっと、押さないでよ! 待っ……ねえ! アイツのことについてまだ何も聞いてないんだけど!?」

    「……今のは?」

    「〝黄金比〟……ここのみたいなもんさ。行き場の無い私達を匿う代わりに研究内容を逐一報告しろとのお達しだ。雨風しのげて替えの服も寝床も食べ物もある、言い分は分かるが美的感覚がどうも鋭敏なのか研究にネチネチと文句をつけてくるんだ……悪い奴ではないのだけれど、ね」

    「」
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