【キィ蛍】湯香の問いかけ 冷えたショコアトゥル水の甘みが乾いた喉に染み渡る。風呂上がりともなれば尚更だ。
洞天の邸宅からやや離れた場所に設けられた温泉で身を清めたキィニチは、隣接した休憩場所で涼を取っていた。流泉の衆ほどではないものの、一般的な家屋に備え付けられているものより数倍広い湯船がいくつも点在し、にごり湯やバブル湯など、なかなかに趣向を凝らしてあるのが特徴だ。あちこち回ってみたくなるが、水温が高めの為、湯あたりには十分気をつけなければならない。
「……ふう」
最後の数滴を流し込み、空になったグラスを洗って所定の位置に片付ける。そろそろか、と新しいグラスを手に取ったところで、女湯の暖簾の奥からぺたぺたと足音が近づいてくるのに気づいた。
1926