Good morning,Good night.【ニコセイ】1.
別れはあまりにも突然だった。ニューミリオンの街から太陽が消え、イクリプスの活動が突如活発化した。そして街に住む人々からの信頼すらもその姿を変えた。『ヒーロー』と拒むものたちは増え、遠ざける声が日に日に強くなっていった。サウスセクターに所属し、自らも『ヒーロー』でありながらこのニューミリオンの街と『ヒーロー』を愛するセイジ・スカイフォールはこの違和感まみれの街を憂い、奔走した。
事態は収束し、太陽も市民たちからの信頼もすべてが戻った。しかしセイジにとってそれは日常だといえるものでなかった。大切な存在を失ったのだ。あまつさえ、自身に刻まれた記憶はすべて偽りで、自分が信じてきたものはすべてこの世界にはないものだったのだ。ニューミリオンの街に、『ヒーロー』にあこがれて、自らの意思でこの街を訪れたはずのセイジは、セントラルの往来の中でロビン・グッドウェザーによって助けられ共に過ごす中で自らも『ヒーロー』を志したはずだった。それは作られた記憶であり、現実は暗く深い海の底からロビンの手によって救い上げられたのだ。その罪を贖うためにロビンは命を奪われ、罪のない市民やリヒトの人生を理不尽に奪った。それは消えない事実で、セイジの枷となっていた。
ニューミリオンのセントラルに位置するエリオスタワーの屋上はこの街のすべてを見渡すことができる、日夜戦う『ヒーロー』やそれらを支える者たちの憩いの場所だ。ここに訪れる人々はこの場所で自らが命を懸け守る街を眺め一息をつくために、またある者達は共に全てを賭して戦い、その使命をまっとうした者たちに想いを馳せるためにこの場を訪れる。セイジは前者であり、後者でもあった。しかし、ロビンの名は慰霊碑に刻まれることはなかった。それには事情があり納得せざるを得ない。頭でも心でも理解はしているものの、セイジは受け止めきれずにいた。仲間や後輩たちに協力してもらい作り上げた花壇に向かい、セイジは静かに祈りを捧げる。今日もどうか街が平和でありますように、と。
パトロールなどの業務を終え、簡単に身支度を整える。帰宅の道中で買い出しをし、食事の用意をする算段を頭にうかべる。ロビンが亡き今、自分の代わりに人生を捧げることになった少年を家に迎え入れた。初めこそ周りも心配していたし、少年も心の整理がつかないようで冷たい態度を取られることも多々あったが、少しずつ心が解けていくのを感じた。少年を迎え入れたのは罪滅ぼしのつもりではなく、かつて自分がロビンに貰ったように、少年――リヒトにも同じものを与えたいと思ったからだった。それはロビンへの憧憬でもあり、恩返しだと思っている。なにより、ロビンが命を賭して守ったものを、自分も紡いで行きたいと思ったのだ。