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    Kuoniori0903

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    Kuoniori0903

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    以前書いてた金髪の少年シリーズ🎴視点の閑話

    赫灼の少年のささやかな願い生まれたときから前世の記憶があったかと言われると、断言ができない。当時の記憶がないからだ。いくら前世の知恵を駆使しようとも幼児期健忘は免れることではない。
    物心付いたとき"それ"は至極当然のように俺の一部として馴染んでいた。だからきっと、ずっと当たり前のものとしてあったんだろう。それは妹の禰豆子も同じで、2人きりになったときは昔の話をして楽しんでいた。

    直に幼稚園に入園して、前世で戦いを共にした嘴平伊之助に再会した。あちらも記憶があったようで、目があった瞬間に「かまぼこ権八郎!久しぶりだな!」と叫ばれた。思わずこちらも「誰だそれは!」と叫び返してしまった。滅多に大声のあげることのない俺が知らない子に叫んでいるのを見て母さんが目を丸くしていたように思う。話し声がうるさいというのは前世でもよく言われていたし、それは変わってないが、やはり彼らを相手にしたときのように声を出すことはあのときまでなかったから。
    伊之助は相変わらず暴走を繰り返していたから、歌を歌う時間の最中に飛び出そうとしたり片付けの時間なのに外に飛び出そうとしたり帰る時間じゃないのに山へ走っていこうとする彼を止めるのはいつも俺の役目だった。今思えば歌の時間にものすごい形相で逃げ出そうとすることがやけに多かった。理由は分からない。
    小学校に上がってからも俺達は一緒にいた。幼稚園の頃とは違い他の学年との交流も少なからずあったから、玄弥やカナヲと再開するのにもさほど時間はかからなかった。かつての兄弟や姉妹と暮らしているという話を聞き、2人も平和な世の中で幸せに包まれているのだと知って嬉しかった。
    カナヲはお姉さん2人との仲も良好で、玄弥は端から見れば少々仲が悪く見えるが家では普通に勉強を教えてもらったりしているそうだ。
    たくさんの人と再会した。皆が皆覚えているわけではなかったが、それならそれで良いと思えた。ただひたすら、何にも縛られることなくこの平和な世を謳歌できているのならば。
    さすがに、中学の入学式でかつての柱だった人たちがほとんど全員集結していたのには驚いた。それでも一晩しか共闘できなかった尊く強い人や俺達が不甲斐ないばかりに片腕と片目を失った人、仲良くしてくれた人も仲が悪かった人も、皆優しい匂いで今の世界を謳歌しているのは素直によかったと思えた。
    前世で苦しいという匂いを微かにさせていた人々が、今笑って幸せそうな匂いがする。それに勝る幸福はきっとない。
    禰豆子や時透君が入学してきたり、錆兎や真菰が俺の後輩だったり色々なことがあったけれど俺がかつて縁を結んだ、もう一人の同期はいつまで経っても見つからなかった。時には伊之助と2人で、時にはカナヲたちも一緒に4人で、また別の時には独り部屋で、彼の思い出を思い返しては少し寂しくなった。よく泣くけれど確かに強かった彼に話をするとき、皆からは優しくて懐かしくて、そして少し、悲しい匂いがした。
    「善逸さんには、いつ会えるのかしら」
    それが禰豆子の口癖になっていた。皆、もちろん俺も彼に会えるだろうということを信じて疑わなかったが心の何処かで疲れというか、諦めを覚え始めていた。


    ある雨の日。あの日だって、会えるとは思っていなかった。部活帰りに伊之助と電車を待っていたらホームの前方で人が線路に落ちたと叫ぶ声が聞こえた。パニックになっていたホームで、俺はたまたま近くにあった緊急ボタンを押した。
    可能ならば助けられないかと思い騒ぎの中心部へ向かうと、懐かしい匂いがして、金色が視界に飛び込んできた。
    「善逸!」
    叫んだのは無我夢中で、ベルの音が鳴っているのも気にならなかった。伊之助も俺の声で善逸の存在に気づいたようで、後ろから「紋逸、大丈夫か」と叫びながら駆け寄ってきた。
    善逸が顔を上げ、こちらを見つめる。変わらない目が、少し潤んでいた。
    「なんで立たねぇんだよ、その椅子なんだ!」
    伊之助が少し苛立って騒ぐ。椅子とは何だと辺りを見渡せば、車椅子がひしゃげて転がっていた。
    「あれは車椅子だ伊之助!待ってろ善逸、今そっちに行くから!」
    ホームから線路に飛び降りてみると、思いの外段差があった。座った状態で突然落ちたなら、よほど痛かっただろう。
    背負い上げようとして、それよりも抱き抱えた方がいいかと思い直す。腕の力だけで捕まるのは辛いだろう。車椅子に乗っているなら、足が動く期待はしない方がいい。
    いわゆるお姫様だっこの形で持ち上げると、善逸の体が軽すぎて思わずよろけた。年齢は俺と変わらないだろうからもっと重くてもおかしくはないのに。むしろ、もう少し重い方が健康的だ。
    「炭治郎……?」
    善逸が俺の顔を見ている。よほど顔が歪んでいたのかもしれない。だが、こればかりは仕方がない。
    「……聞きたいことが山のようにあるが、とりあえず、ホームに上がるぞ。しがみついていてくれ」
    俺がそういうと、善逸はおとなしく俺の首に腕を回した。ホームの上から見下ろしている伊之助に声をかける。
    「伊之助、善逸引っ張り上げるの手伝ってくれないか」
    「仕方ねえな、いいぞ!俺は親分だからな!」
    「ありがとう」
    やはり善逸の体はとても軽いようで、伊之助が壊れ物に触っているかのような怯え方をしていた。
    無事に善逸をホームに上げ、車椅子を引き上げると俺もホームに登った。



    その後、善逸が唐突に倒れたり腕を骨折したり、我が家に引っ越してきたり色々あったが、前世に比べたらずっと平和に暮らしている。
    この世界でも明日は絶対生きているなんて保証はないけれど。せめて、前世の分も、この世界でまだ幼かった頃の分も、幸せになって欲しいと俺達は今日も願うのだ。

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