「俺なんかいない方がいいんだよ」
そう言った彼の匂いは、俺の時代の彼が同じ台詞を言った時に出す匂いと違っていた。だからなんとなく、彼が自分を卑下しているわけではないのだろうと察せられた。
俺の心の内を知ってか知らずか、彼は言葉を続ける。
「どうしてだ?」
「だってさ、柱がいるってことは鬼が滅殺されていないってことと同義じゃない。柱がいることは、鬼殺隊にとって弱さと不甲斐なさの象徴でもあるんだよ」
彼に言われて、ああそうかと思い至った。柱は鬼殺隊の役職であるため、柱の存在は鬼殺隊がなくなっていないということを、示しているのだった。
だからといって、不甲斐ないわけでも弱いわけでもないとは思うのだがそこ辺りは彼の気の持ち様の話にもなってくるのだろう。
彼の変わらない優しい匂いと強い匂いの奥にあるわずかな寂しさに、ようやく俺は合点がいったのだった。