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    huanglong887

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    huanglong887

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    ぐだリンワンドロライ「祝福」(ぐだ♀リン)
    一周年おめでとうございます

    お題「祝福」 西暦二千年代前半東京の特異点だった。
     都内とは思えない中世ヨーロッパ風の聖堂がマスターの道満の前にそびえている。優美にして荘厳。白亜の階段を上がればゴシック様式の双塔があり、その間に門のような扉。中央にそびえる白亜の尖塔は凜々しく、高く、青空の一点を穿っている。一歩足を踏み入れれば清浄な空気が満ちていて、心が洗われるようであり、また引き締まりもする。
     今、厳かなはずの聖堂は喝采に揺れていた。
     純白の衣装に身を包んだ若き二人が祭壇の前で口づけを交わしている。
     婚姻の儀が行われていたのだ。
     祭壇を囲むような半円のステンドグラスから差し込む光は神による奇跡のように美しく、磨き抜かれた大理石の床は揺らめく蝋燭の明かりを反射して歩ける水面のようだ。
     参列者からの祝福はわれんばかりの拍手となり、冷やかしと紙一重の祝いの言葉が結ばれた二人を初々しく微笑ませていた。
    「いいなー」
     絵に描いたような幸せな結婚式だ。気配遮断の魔術で姿を消して、襲撃のタイミングを見計らっているマスターは、知らず、憧れをこぼしていた。
    「ほう、人並みの幸せを羨む程度の感情はお持ちでございましたか。ならば、式をぶち壊しにして、お心をお慰めいたしましょう。己の手が届かぬ幸福を享受する他人を踏みにじって憂さを晴らすことは、連綿と続く人の営みの一つ。遠慮など不要。ささ、拙僧に命じなされ。愉快痛快に二人の仲を引き裂いてみせましょうぞ!」
     随伴は道満一人だ。周囲からは見えることはないのだが、念のためにと現代風の洋装をしている。
    「はいはい、じっと待ってるのが飽きてきたんだね。でももうちょっと我慢してて」
    「ン? ンンン? ンー……」
     ぽんぽんと道満の太腿を叩くマスターの手つきは、興奮して走りだしそうなペットを制止する飼い主のそれ。
     非人道的な過激発言をすればマスターが怒るなり、説教するなり、強めの反応をすると思っていたのだが、軽く流されてしまって、のれんに腕押し、糠に釘。つまらぬ、と道満はそっぽを向く。
    「式は壊さないよ。黒幕の牧師が一人になったところで気づかれないように取り押さえるの」
     この特異点での聖杯所持者は温厚そうな牧師だ。恋愛という感情を推奨し、人間の繁殖欲をかき立て、結婚というシステムで人を番わせ、生育の安定化をはかり、人間を増産。その一部を誘拐して特異点安定化のための生体燃料として使用していた。一見、愛に満ちた平和な特異点。裏側は暴走した繁殖欲による不倫や、一時の薄っぺらい幸福感による出産の後の育児放棄や、結婚することが当たり前であるという教えが深く根付いているので単身者への差別といった問題点がてんこ盛りだった。「何から何まで当世そのもので特異点とは思えませぬなァ」と皮肉を言う道満の頬をつねったのは、結婚式が始まる直前の遠隔ミーティングのときだったか。
    「ところで、待っていれば本当に牧師が一人になるので?」
    「た、たぶん。教会での結婚式の流れだと、この後新婚の二人がバージンロードを歩いて出て行って、続いて参列者が退出するから、牧師だけ残ることになるはず……はず!」
     実際には教会で結婚式を挙げたことも参加したこともないマスターはざっくりとした流れを書いた紙に目を落とす。
    「然様で。まァ、そうでなくとも力のあるサーヴァントは召喚されおらぬ様子ですし、いざとなれば拙僧が強引になんとかして見せましょう」
     完全に結婚式という儀式に飽きてしまっている道満は大あくびだ。対してマスターはキラキラとした目で、参列者の祝福を浴びている新婚の二人を見ている。彼女にとって幸せな前途を信じる無垢な白の輝きはまぶしい。
    「やっぱりこういうのっていいよね。ため息がでちゃうくらい素敵だなー」
    「……ならば、人類史を救済した後に、誰ぞ好きな者と結婚なさるがよろしい」
     道満の投げやりな慰めは彼女を苦笑させただけだった。
    「あはは、そういう人いないし。生還できる保証もないし。それに……私は祝福なんてうけちゃいけないから」
     べったりと全身に絡みついた罪悪感。人類史に残らないが人類史上最多最悪の大量殺人者。いくつもの世界を丸ごと葬ってきた自覚が彼女を憧れの幸福から一歩引かせていた。
    「祝福とはただ単に祝うだけでの意味ではございませぬよ。こちらの宗教では神による赦免も『祝福』に含まれます。このようなところで式を挙げるのならば、神による『祝福』で罪を禊ぎ、人による『祝福』で幸福を得られるでしょう……よくは知りませぬが」
    「西洋系統の宗教学苦手なのに勉強したんだ。偉いね。でも、ここの神さまだって私のことは赦してくれないよ。悪魔みたいなものだと判定されちゃいそう。それだけのことしてきてからねー」
    「あなたが人である限り、人の神はあなたを見捨てはしないでしょう。古今東西、やむをえず犯した罪は酌量されるものですから」
    「それって君が生前にやってたことにも適応された?」
     依頼されて呪詛を行った道満に下された罰は、さて、なんであったか。
    「安直な慰めなどあなたには通じませぬか。やはり、眼前の結婚式をぶち壊しにしてスカっとすることにしましょう」
    「こら! 『待て』だよ!」
    「ンー!」
    「望まぬ罪を重ねる道のりは神に与えられた試練でやがては祝福という名の赦しを受けられるって言ってもらったこともあるけど……」
     マスターはぽすんと道満にもたれかかる。
    「私はそんなのいらない。だって、罪が赦されちゃったら君といっしょに地獄へ行けないでしょ」
    「ンンン! それはまるで拙僧が地獄行きであると申しておられるように聞こえますぞ」
    「いやいやいやいや……、君が地獄行きじゃないなら誰が地獄に行くの……。ねえ、リンボ?」
     異性の神の使徒としての記憶と継承する霊基である彼は、ほとんどあの個体と同一だ。
     見上げてくるマスターの視線を受けて、にたりと道満は笑む。
    「マスターが結果的に葬ってきた人の数に比べると拙僧の悪逆など児戯の如くでお恥ずかしい限りですよぅ」
    「量より質が重視される時代ですからあ!」
    「それはかつての拙僧の遊戯をお褒めくださったと解釈いたしましょう」
    「褒めてる、の逆だからね! ま、行く先は同じだからいいけど」
    「んふふふっ、楽しみですなァ! 全てが終わってからでも、道半ばで倒れたとしても、どちらが先でも後でも、絶息ののちに六道の辻で待ち合わせといたしましょうや」
    「りくどうの……何て?」
    「六道の辻。六道……六界ともいいますかな、輪廻転生で巡る世界、その分かれ道です。輪廻転生はなじみ深い死生観で、六道も同程度に身近な他界観ございましょう?」
    「天上道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道……生前の業因で次に行く世界が決まるというやつだよね」
    「ええ。六道の辻でならば、次にどの世界へ行くこととなっても途中で必ず会える、とそういうことにございます」
    「そうなんだ。行ったらわかるかなあ。ほら、私、魔術的な素養が残念なくらいにないからそういうの気づかないかも。『ここが六道の辻ですよ』って目印があればいいんだけど。死者の待ち合わせスポットみたいになってたら無くてもわかるかなー」
    「ンンン、当世の六道珍皇寺には碑があるとは聞いておりますが、さてはて本来の辻はどうでしょうなあ」
    「当世って……普通に存在してるの? それってこの世界にあっていいの?」
     魂だけが行くところで、真っ暗闇の中、うすぼんやりと道があるようなもののを思い浮かべていたのに、現実にそういうところがあると聞いて急に史跡のようにイメージに置き換わる。
    「無論、本来この世界にあるわけのないものではないのですが、あれは平安の都があったころからありましたねえ。かの有名な小野篁殿が地獄へ行く時に通った井戸があるといわれているところです。ま、当時は神秘も怪異も人も魔も入り乱れておりましたゆえ、この世とあの世が混ざり合うこともありえたのでしょう。今はどうかだか。……あなた、後で画像を検索して迷わないように予習しておこう、などと思うておられましたでしょう?」
    「う……なぜ、わかった」
     図星をつかれてぎくりとするマスターを見下ろし、道満はしたり顔だ。
    「そういうところ真面目ですよねえ。ですが、ご安心を。拙僧、あなたのサーヴァントとしてあなたを先に死なせるようなことはいたしませぬ。先にいって方向音痴のマスターでも迷わぬようにわかりやすいところでお待ち申し上げまする」
     何気ないセリフに込められた意志に気づかぬほど彼女は鈍感ではなく、
    「おっけー、死んだら六道の辻で待ち合わせね」
     まるで次の休日に遊びに行く約束をするように言葉は軽いが覚悟は重い。
    「約定を違えたならば末代まで祟りまするぞ」
    「呪詛のプロである君に祟られるのはヤだなあ。大丈夫、安心して待っててよ。絶対いっしょに地獄に行こうね」
     魂の安寧を捨てた少女の傍を、感極まった泣き笑い顔の新婚の女性が通り抜ける。その女性を見送ったマスターの表情は穏やかで優しいものだった。同じ幸せがないと諦めきっているからではなく、彼女にとっての幸せは違う形で存在すると本人がしっかりとわかっているからだ。憧れても、羨むことはない。
    「もうそろそろかな」
     きりりと表情を引き締める。
    「ですな。頭がお花畑になっている二人が現実へと向かう扉を開けました。茶番に付き合わされた客人も移動を始めた様子。頃合いですか?」
    「うん」
    「……」
     皮肉めいた道満の物言いを指摘しないのは集中力のたまものであり、いつものことなのでつっこまなくてもいいだろうということでもあった。
     祭壇では役目を終えた牧師が立っている。誰もが輝かしい門出を迎えたばかりの二人に注目していて、彼を注視するものはマスターと道満だけだ。
     人並みに逆らって二人が中央の通路を進む。隠匿の魔術で誰からも見えてはいない。
     左右から挟み込むように祭壇の前に立つ牧師を挟み、道満の術で声も上げさせずに牧師を拘束、体内に収納機能のある式神に丸呑みさせて回収。聖杯を牧師から分離する作業はすでに道満が遠隔で開始している。長くはかからない。ほどなくして何の力もなくなった牧師だけを式神は吐き出すだろう。
     姿を消したまま、正面の出入り口から外へと向かう。
     ちょうど、新婚の二人が花びらのシャワーを浴びているところだった。空に花火も上がる。賑やかで、華やか。結婚式の会場は新婚の二人への祝福に満ちていた。マスターはその光景に「綺麗だー」と素直な感想を述べたが、どこか他人事な様子でもあった。
     小走りに建物の陰へと入り、聖杯を抜き終えた後の牧師を横たえる。
    「よし! おしまい! やったー! 無事におわったー!」
     比較的簡単なミッションではあったが、どうしても気は張り詰めるし、緊張からの解放はすがすがしいものだ。マスターは全身で伸びをする。
    「お疲れ様です、マスター」
    「道満もおつかれー!」
    「この程度、疲れたうちにも入りませぬが、疲れたと言えばねぎらっていただけるので?」
    「それはもちろん。ご褒美たっぷりあげちゃう♡」
    「ンンンンン!」
     道満が口元をほころばせる。
    「一緒にお風呂入って、美味しいもの食べて、明日は一日お休みにしてもらって、ベッドの上でゆっくりと、ね?」
    「ンー! 拙僧、もう歩けぬくらいに疲れましたぞ! ご褒美早くぅ」
    「カルデアに帰ってからの話だからね。それまではちゃんと歩いてよ」
    「ンー……」
    「急にスンってなるなあ! レイシフトすればすぐだよ」
    「ン♡」
     すりりと頭をすり寄せてくる道満に、ご褒美の前払い、と軽くキスを施す。
     数時間後、地獄行きを確約した二人は、極楽浄土よりも濃密で幸福な快楽の中で「天国が見える~♡」「ここが極楽か♡」と日本人らしいふわっとした他界観で現世を楽しみまくったのだった。
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