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    kasounokuma

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    kasounokuma

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    春コミ新刊 離反なし教師ifでセフレな五夏がもだもだしながら恋人になるお話。
    安定の悟→→→(←←←)傑。
    傑は呪術師で教師で教祖でミミナナのパパと全要素ぶっこみました。
    R18なので高校生以下の方には頒布出来ません。

    #五夏
    GoGe
    #新刊サンプル
    samplesOfNewPublications

    Lost in the kiss


    二人分の体重を受け止めたベッドがギィギィと悲鳴を上げるように軋んで、そろそろ壊れちゃうかな―と五条は悟った。
    「アッ!あぁ……ッ!アッあっ、ぁっ、んんー………っ!」
    目の前のシミも傷も、無駄な贅肉のひとつもない、滑らかな背中に長くて艶やか黒髪がばさり、と揺れる。浮かんだ玉のような汗が滴り落ちていくのを見つめながら、そうと分かっていてもこんないいところでセーブ出来るわけがなくて、次はもっと丈夫なやつを買おう、と快楽と酸欠でぼんやりと霞む頭で決意する。
    ベッドの上で四つん這いにさせた体の、きゅっと引き締まり、まろやかな弧を描く臀部の割れ目には太くて、硬く張り詰めた性器が深々と突き入れられている。穴と棒、生々しい性交の情景はいっそグロテスクなほどで、だけどそれこそが人の欲望そのままを露わにしていて、何よりいやらしく見えた。
    本来は排出の為にある穴の襞ひとつひとつが限界まで押し拡げられ、本人ですら見たことがないであろう腸壁はその性格に反してとても従順で、すっかり中に埋め込まれた性器の形に作り変えられ、今では雄を受け入れる立派な性器になっている。ずぶずぶと我が物顔で抜き差しされる極太の性器によって幾度となく擦り上げられたせいで縁は熟れたように赤らみ、たっぷり塗り付けられたローションがぷつぷつと白く泡立っていやらしい水音を立てていた。
    「ん……ぅっ、ンンッ、そこばっか……も、ぅ……っ、無理ィ、あっ、アッ、悟………っ!」
    腹の下では硬く張り詰めた性器がもうずっと触っていないのに先端から涎をたらたらと零して止まない。長い指と結腸をぶち抜くほど長大な性器によって散々可愛がられた前立腺へのダイレクトな刺激ですでに何度もイカされた後だった。最初こそ一回目、二回目と数えていたが、片手の指を優に超えたところで数えるのを止めた。次が何度目になるのか、夏油本人にはもう分からない。なんせ考える余裕なんてどこにもない。逃げないように掴んだ腰は五条の手の痕がくっきりと浮かんで、その情交の激しさを物語っている。がつがつと遠慮なく腰を打ち付ける度、しなやかな筋肉の付いた夏油の腰が艶めかしく揺れるのを五条は気分よく見下ろしていた。
    夏油の体は時に可哀想になるほど上手に快感を拾う。すっかり鋭敏になった体は中も外もぐちゅぐちゅとろっとろで、こめかみを伝っていった汗がぽたっと落ちて弾けた刺激だけでも感じ入ってしまい、びくんっと大きく体を震わせた。先ほどからひっきりなしに喘ぐ夏油の声は湿り気を帯び始めている。
    「ね、傑、気持ちいー?またイッちゃう?僕も、イキたい。最後は一緒にイこ……っ」
    「あぅっ、んんっ、ひっ、あ、ぁ、ぁ、あぁぁ……ッ!」
    目の前の括れた腰を鷲し掴み、さらに速く、短く、そして強く腰を振って、揺れる上向きのぷりっとした尻の、さらに最奥を目指して叩きつけるように打ち付ける。ぶつかり合う肉と肉がぱんぱんっと甲高い音と立て、ぐちゅぐちゅっと大きな水音が激しくなる。はっはっと獣のような荒い息に背中を追い立てられる。フィニッシュが近い、いつものリズム。高められ、ひと際大きな嬌声を上げた夏油の性器からびゅくっと精液が弾けると同時にナカがきゅうっと締まって、したたかに搾り上げられた五条も小さく呻くと、白濁を無機質なゴムの中に吐き出した。
    「はっ、はっ、ぁ……っ、は………っ」
    全力疾走をした後のように、いつまでも整わない二人分の荒い息がうるさい。力尽きてベッドの上に四肢を投げ出した夏油の上、目の前の背中に五条も力なく覆い被さった。汗に塗れようと構いやしない。それよりも体臭が濃く香る、しっとりと吸い付くような肌はいつまでも触れていたくなるほど心地いい。くんっと五条はひとつ鼻を鳴らす。我に返ってみると部屋の中は淫蕩な匂いが充満していて、色が付くとしたらピンク色に違いない。
    「―悟、重いよ」
    げしっと肘打ちが飛んできて、五条はひんっと情けない泣き声を上げた。甘やかな雰囲気をぶち壊すには十分な一撃だ。
    「えー、つれないの、傑くん」
    「君、どれだけ重たいと思ってるの。潰れちゃうだろ」
    「ワガママボディーな傑よりはウェイト軽いと思うけど?」
    覆い被さっていた夏油の上から叩き落され、ひんやりと冷たいシーツの上に転がった五条の背中に再び蹴りが飛んでくる。全身汗だくの上、素っ裸という無防備な姿であるが本性はとんだじゃじゃ馬である。先ほどまで快楽に溶けて甘やかな嬌声を零していた男とは思えないほど、早い身の変わりようだった。
    「あー、気持ちよかった。やっぱり傑とするセックスが一番いい。最高」
    「こっちはがんがん突かれて腰が痛いよ。本当君ってやつは遠慮ってもんを知らないのかい」
    「あんなにあんあん言ってた癖に?傑だって気持ちよかったでしょ?」
    「女の子にはもっと優しくシてあげないといけないよ」
    「話逸らした。ちゃんと分かってるよ。傑が教えてくれた通りに普段はセーブしてるから安心して」
    「疑わしいなぁ」
    「その分、女じゃない自分には遠慮しなくいいって言ったのは傑だろ」
    「そうだけど……」
    ベッドの上に肘をついて起き上がった夏油がじとっと細い目で疑いの眼差しを向けてくる。非常に心外ではあるが、細くて筋肉がどこか行ってしまったかのように全身どこもかしこもふわふわしていて、強く引き寄せただけで折れてしまいそうな女性相手に遠慮のない無茶なセックスをしたことは一度たりとてなかった。
    五条が本気を出したら相手は壊れてしまうかも知れない、と言い出したのは夏油だ。五条のはじめてのセックスの相手であり、幾度となく体を重ねては性技のいろはから女に対するマナーを文字通りその身をもって教えてくれた。平均身長を優に超え、縦に大きく成長した五条であるが、その下半身にぶら下がっている性器もまた規格外の大きさを誇った。それでいて呪術師として鍛えられた体は常人とは比べ物にならないスタミナとタフネスを併せ持ち、性欲に直結して有り余っている。そんな五条が手加減なく腰を振れる相手は同じく鍛え上げられた体を持つ夏油以外にいなかった。
    「どうするの?ここで寝ていく?狭いから嫌だけど」
    「少しは本音隠そう?傑ってば三十路を前にしてずけずけ言うようになったよね」
    「そういう君こそ三十路を前にしてその性欲どうにかならないの。少しはこっちの体力考慮して」
    「体力オバケがよく言うよ!ちょっとは僕とピロートークしようとか思わないの?ムードってもんがないんじゃない?」
    「それこそ私たちにそんなもの必要ないだろ。こっちは今日任務から帰ってきたばかりで疲れているんだ。ほら、シーツ変えるからどいて」
    「ムードが大事だって教えてくれたのは傑じゃん。まだだらだらしてたいのにー」
    「そうして後回しにするからもういっかってなっちゃうんだよ。こんなところじゃ眠れないよ」
    「じゃあ僕の部屋に行って綺麗なベッドで一緒に寝る?」
    「いやだよ。君のベッドに着くなり、もう一回セックスしようって言い出すのが目に見えてる」
    いつもはハーフアップでお団子に括られている夏油の長く、一度も染毛されたことがない艶やかな漆黒の髪は丁寧にケアされていて枝毛のひとつもない。手慰みに指に巻き付けてその長くしなやかな感触を愉しんでいた五条だったが、夏油がつれなく起き上がると同時にするっと離れていってしまう。ちぇっ、と内心唇を尖らせる。果たして夏油は気付いているだろうか。汚れている、と夏油は文句たらたら言っているが、そのほとんどが夏油の性器から幾度となく吐き出された精液である。たとえ出させたのは五条の手腕によるものだとしても。
    高専には生徒たちが暮らす学生寮とは別に所属している呪術師の為の居住スペースがある。学生時代を過ごした古臭くて狭い寮をようやく出られる、と卒業と同時に五条は意気揚々と一人暮らしを始めたものだが、全国各地への出張が多くて家で過ごす時間など大して取れやしない、と分かると結局部屋を引き払って高専内に新たに居を構えることにした。
    学生寮より広く、家賃もかからないし、光熱費はタダだし、あらかじめ頼んでおけば食事だって用意される。高専の中で暮らし、高専で仕事をし、また高専へと戻ってくる、という事実は物悲しいものがない訳ではなかったが、週の半分は全国行脚の任務に赴いているのですぐに気にならなくなった。それどころか、元より高専内に居を構えていた親友の部屋もすぐ近くにあると思えばむしろ快適だった。
    「先にシャワー行っておいでよ。ちんちんベタベタにしたままでいないで」
    週の半分は高専にいて、そのまた半分は親友の部屋で過ごす。ほぼベッドの上の話だったが今はその定位置を追いやられている。ベッドの下、床に全裸のまま胡坐をかき、くあっと大きな欠伸を零した五条の頭をぽんっと夏油の手が撫ぜる。どうせいつものように自分の部屋に戻る気はないんだろう、とすっかり見透かされていて、汚れたシーツをするすると剥ぎ取った夏油は寝る為に新しいシーツを持ってきたところだった。
    「傑、一緒に寝なくてもいいから一緒にシャワー行こ」
    「……言うと思った」
    そういう夏油は五条以上に達した回数は多く、さらにゴムをしていない分その体は精液と汗に塗れて汚れている。洗うべきは五条よりも夏油だ。首筋に噛み付いた痕が残っているのを見てほくそ笑みながら、手際よくシーツを広げて綺麗に整えている夏油を後ろから抱き締め、五条は甘えるようにその滑らかな素肌の背に頬を摺り寄せる。どう見ても邪魔だろうに今度は振り払われない。楽しそうにくすくすと笑っているのが振動で伝わってくる。ベッドの上ではないけれど、五条と夏油にとってこうしたじゃれ合いがピロートークのひとつだった。気をよくした五条がそのまま顔を寄せ、ん、と尖らせた唇は目的のものに触れるより先に大きな手の平でぱしんっと抑えつけられた。
    「こら、キスはしないよ」
    「―今ならいけると思ったのに。ケチ」
    「油断も隙もないな。キスは好きな相手とだけにしな、って言ってるだろ」
    好きな相手、というのは恋人のことを指すのだろう。五条にとってキスなんて大した意味はなく、性処理の為に適当にひっかけた女に愛を囁くなんて面倒なことをするぐらいならキスで黙らせた方が簡単でいいと思っているが、夏油にとってはそうではないらしい。幾度となく抱き合って、五条の手の平が夏油の体の中で触れたことなどない場所などもはやどこにもないが、たったひとつ、そのぽってりと柔らかそうな唇に唇で触れたことはない。夏油はセックスの相手はしてくれるけれど、キスだけは絶対にしてくれなかった。五条の屹立した性器は平気で口にする癖に、どうしてキスするのはいけないのか、五条にはまったく理解が出来なかったが、夏油がそう言うならそれが正しいのだろう。いつものこととはいえ、繋がった体は快楽を貪ってこんなに熱くなるのに、不満気に尖らせた唇はどこにも行き場がなくて少し寂しい。
    「ン……ッ、悟」
    五条の国宝級に美しい顔を遠慮なく手の平でぐいぐいっと押しやるのなんて夏油ぐらいだ。だからむぅ、と唇をさらに尖らせ、唇の代わりにその手の平にキスを落とした。さらに舌を差し出し、犬みたいにぺろっと舐めれば事後で敏感になっている体がぴくんっと震えた。
    「……その代わり、っていうのもなんだけど、シャワー浴びながらもう一回、する?」
    夏油の言葉に空を切り抜いたかのような、透き通る青い瞳を五条はきょとんっと丸くした。抱き込んでいた体がくねったかと思うと、まろやかな尻が五条のすっかり落ち着いていた下半身へと意図的に擦り付けられ、五条はびくっと身を竦めた。
    どうやらその気になったのは五条よりも夏油の方が先だった。ふっと笑った拍子に夏油の唇から漏れた息が五条の頬を撫でて、もう精魂尽き果てたと思っていた体の奥がいとも簡単にごうっと燃え上がったのが五条には分かった。こんな甘やかな誘いを断るほど衰えていない五条は、夏油の気が変わらないうちにその手を引いてバスルームへ駆け込んだ。


    瑞々しい色をした新緑が生い茂り、見渡す限り埋め尽くす。あっちもこっちも緑、緑、緑の山。ここは本当に日本の首都東京なのかと疑いたくなる山奥。外国人から見た東京と言えば、流行の発信地、可愛いの聖地、勤労と贅の象徴である高層ビルにきらきらしたネオン、眠らない都市を思い浮かべるだろうが、日本の国土の約六十七%が森林であり、世界的に見てもそこそこ上位に食い込んでいた。東京に限ると多摩エリアは約八十%と大分偏りがあるが高い数値を誇っていて、二十三区外は東京と認めない強硬派の意見が聞こえてきそうなところに東京都立呪術高専はあった―
    「あ、夏油様ぁー!」
    グラウンドで呪具の準備をしていると聞き慣れた大きな声が背中にかかって、夏油は立ち上がると同時に振り返った。
    「こらこら、菜々子。学校の中では『先生』と呼んでおくれよ」
    真っ黒な教員服に身を包んだ夏油の姿を見つけて駆け寄ってきてくれたのは「お揃いですね」と言ってくれた時と同じく、黄褐色の髪をいつものように頭の上でまんまるにまとめ上げた菜々子と、夏油と同じ真っ黒な長い髪を左右に揺らしながらその後ろから小走りでついてくる美々子だった。
    「あ~!そうでした!まだ慣れなくて……だって私と美々子にとって夏油様は先生である前に夏油様なんですもん」
    「菜々子、夏油様を困らせちゃダメ」
    「ほら、そういう美々子だって」
    「あっ……。ごめんなさい、夏油様」
    「うーん、まぁ、急には無理だよね。ちょっとずつ頑張っていこうね」
    美々子と菜々子は書類上『枷場』という姓を名乗っているが、幼い頃に夏油が引き取り、後見人として養育義務を担っている。当時齢十七にして双子の父親代わりとなった夏油だったが、あれから十年、すっかり養父の顔が板についた。血は繋がっていないが、それよりも強い呪術師という絆で繋がっている。我が子のように大切に育て上げた美々子と菜々子が、ようやっと呪術高専への入学が許されたのはつい先日のことだった。
    よしよし、とまるで子どもにするように頭を撫でられた美々子と菜々子の頬が赤く、ぽぽぽんっと音がしてその周りに花が咲いて見えた。あ、しまった、と思った時にはもう遅い。昔からの癖が抜けないのは美々子と菜々子だけではなく、夏油も同じだった。
    「うぅ……っ、やっぱり私たち、夏油様に担任の先生になって欲しいです~!」
    「あんなちゃらんぽらんで軽薄な男より夏油様がいいです」
    「二人とも無茶言わないで」
    残念ながら夏油は双子の担任ではなく、そのひとつ上、二年生の担任である。同じ学校の中にいるとはいえ、学年も違うし、これまで一緒に生活していた部屋は美々子と菜々子の入学と同時に解消され、夏油がひとりで使う用になった呪術師専用の寮は離れている上に原則生徒は立ち入り禁止になっている。さらに夏油は授業の合間に呪術師として任務に赴く為、多忙を極める。毎日どころかそうそうたくさん会える訳ではない。地方の任務に行っていた夏油が帰ってきたのは昨日の晩だ。こうして会えたのもなんだかんだ三日ぶりで、菜々子が思わず大声を上げるのも致し方のないことだった。
    「おい、コラ。このグレートティーチャー五条のことをちゃらんぽらんで軽薄って言ったことをまずは叱れよ、保護者」
    「……出たな五条悟」
    「出ますよ。なんせ僕は君たちの担任の先生だからね」
    美々子たちの後ろからのっそりやってきた長身の男が呆れたような声音を隠しもせずに嘯く。自らグレートティーチャーと名乗った五条の白銀の髪に陽光の粒子が降りかかり、きらきらと反射する。美々子と菜々子がやってきたということは、双子たち一年生を担当する五条もやってくるのは当然だ。理想的な細い顎、すっとした鼻筋、完璧なまでに美しい輪郭をしているが、その顔の半分を真っ黒なアイマスクが覆っていて、昨夜夏油が間近に見た美しい空色の瞳をすべて隠してしまう。
    「オマエさえいなくなれば夏油様が私たちの先生になってくれる……?」
    「菜々子天才」
    「オマエらが僕を倒すのなんて百億年早いっつーの」
    「悟、美々子、菜々子、三人ともケンカしないで」
    夏油が美々子と菜々子を引き取る前からの親友である五条なので、こちらも双子とは約十年近い付き合いがある。しかし、夏油によって命を助けられ、夏油が白と言えば黒も白になると言うほど夏油第一主義である美々子と菜々子にとって五条はコブ以外の何物でもない。いや、五条からすればそれはこっちのセリフだから、という詮無い戦いはいつものことだ。もはや年齢や立場など関係なく、遠慮の欠片もない言い争いを夏油のひと言が諫める。未婚ながら双子の子持ちの夏油が、三人兄妹の父親になった心地になるのはこれがはじめてではない。
    「相変わらずモテモテで大変ね。夏油先生」
    「俺も夏油先生好き!」
    「話がややこしくなるからオマエは黙ってろ」
    後ろからやってきたのは双子の同級生である釘崎で、余計なことを言い出した虎杖を伏黒がしたたかにどつく。「悠仁まで僕より傑の方がいいって言うのぉ?」と五条が騒ぎだして、そらみたことか、となった。のそのそとやってきて騒いでいる一年生たちに真希の怒声が飛んだ。
    「おっせぇーぞ、お前ら。一年坊なんだから先輩より早く来て準備しとけや」
    「まぁまぁ、そんなの今どき運動部でも流行らないって。それに呪術師に年齢なんてあってないようなもんじゃん」
    「おかか」
    「そうそう、みんなで一緒に準備しよーよ」
    「ごめんなさい、真希さん!あの馬鹿目隠しが遅刻したせいで遅れちゃいました」
    「そんなこったろーと思ったけど」
    「やっぱり五条悟吊るすべき……」
    「悟……」
    「はいはい!そんなことよりもう訓練のお時間は過ぎてるんですよ!」
    「誰のせいだよ」
    「伏黒、アンタがちゃんとしないからいけないのよ」
    「いや、俺はあの人の保護者じゃない。むしろ逆だろ」
    「五条先生と夏油先生って正反対だよね」
    ぱんぱんっと甲高い音を立てて手を叩いた五条に誰もがしらーっとした冷たい視線を浴びせる。すっかり五条という人となりを理解した生徒たちはそんなことでは誤魔化されない。しかし真っ黒なアイマスクはそんな視線すら不透過なのか、少しも動じた様子はない。いつものことだが「ハイテンションな大人って不気味ね」と釘崎に呆れられる始末である。
    美々子と菜々子が夏油の保護下にあるように、実家が破綻している伏黒は非術師の姉と一緒に五条を後見人として引き取られている。こちらはすでに自活出来ていたこともあって三人が一緒に暮らすということはなかったが、伏黒が高専に入るまで五条は度々二人が住んでいたアパートを訪ねた。言うなれば五条も夏油と同じく保護者である。その出来はえらい違うけどな、と伏黒は不満そうに眉を顰めた。
    「夏油先生あの呪具全部片手で抱えてきたんだってよ」
    「うっひょー、さすが夏油先生」
    「アンタは少し夏油先生見習いなさいよ」
    「いやいや、無理でしょ。あんな筋肉ゴリラの真似なんて誰にも出来ないから」
    「違うわよ、教師としての落ち着きと風格、それから勤労についてよ」
    筋肉ゴリラは否定しないが、見習ってほしいのは夏油の教師としての真面目さの部分である。まだ成人もしていない小娘の率直な忠告に、三十路を直前に迎えながら乾燥ひとつ見せない艶々の唇を五条は尖らせた。
    急に人が増えたお陰で、山しかなくて静かだったグラウンドはがやがやと一気に賑やかになった。無事に揃って進級した二年生は三人と一匹、新たに迎えた一年生は五人と、相変わらずの少数精鋭であったが呪術高専にも新しい春がやってきたことを改めて実感する。三年生になると実戦形式の祓除任務がメインになって留守がちになるが、二年生までは合同で訓練することもしばしばだ。
    大抵の術師が準一級で頭打ちになる中、担任を務める五条と夏油は呪術界を牽引するトップエリートの一級を超え、たった四人しかいない特級のうちの二人だ。元同級生というよしみもあるが、呪具の扱いがうまく、体術に秀でた夏油と、呪力コントロールが誰よりも上手い六眼持ちの五条と、それぞれ得意分野が分かれていることもあっていい塩梅にバランスが取れていた。
    「今日は一年生と二年生合同で、それぞれペアを組んで午前は呪具を使った体術訓練、午後はそれぞれ軽めの任務」
    「憂太と真希、棘とパンダ、美々子と菜々子、恵と野薔薇と悠仁に任務を振り分けたから、お昼休憩の時間に補助監督から詳細を受け取ってね」
    「それじゃあ始めるよ」
    ほらほら位置についてー、と我が物顔で仕切り始めた五条にきょとんっと目を丸くした虎杖が手を挙げる。
    「はいはーい!五条先生、夏油先生、俺と伏黒と釘崎は三人のグループだよ。どうすんの?」
    「もちろん、悠仁は私とやろう」
    「え!いいの!やったー!今日こそ夏油先生に勝ーつ!」
    「それは楽しみだな。でもその前に今日こそ黒閃を習得してもらうからね」
    「虎杖、くれぐれも夏油様に傷をつけるなよ」
    「もしなにかあったら吊るすから」
    「えぇー!そんなこと言われても……」
    「大丈夫、大丈夫。問題ないでしょ。だって僕たち『最強』だからね」
    美々子と菜々子に揃って凄まれて困惑する虎杖に五条があははっと声に出して笑う。夏油は「笑ったら失礼だよ」と諫めたが、それはナチュラルに煽っているのと同義であった。澄ました顔をしているが、結局夏油も十年来、五条の親友でいられるぐらいはぶっとんだ性格をしているのだ。五条や夏油にとって「生徒たちはまだ赤子レベルだ」と言っているようなもので、これには滅多なことで怒りを露わにしない虎杖も軽くかっちーんときた。入学から二ヶ月、確かに夏油にストレートひとつ入れられていないどころか、ほとんど片腕で軽く諫められているのが事実だとしても。
    「くっそ~。今日こそ夏油様にワンパン入れたる」
    「悠仁まで夏油様って言うのやめてよ」
    「よーし、やったれ、虎杖!」
    わーわーっと盛り上がりを見せる生徒たちに囲まれ、夏油は元から切れ長で細い目をそれこそ線のようにさらに細めて、心底楽しそうな笑みを零した。簡単にやられてくれるような男ではない。それゆえに外野もやんややんやと好き放題言っている。
    生徒たちに囲まれ、にこにこと穏やかな笑みを浮かべている夏油を遠巻きに眺めながら、五条は思わずにやけそうになる口元を大きな手で覆った。
    (ああしてると優しくて真面目で本当格好いい先生なのに、僕の下に組み敷かれてる時はあんなにエロいなんて、とんだ狐だよね、まったく)
    昨夜、任務先から帰ってきたばかりの夏油の体をベッドの上で好き勝手に抱き潰した男は甘やかな記憶を呼び起こした。久しぶりだったこともあっていつもより夏油もノリノリだった。それこそ普段は絶対にしないのに、バスルームでシようと言い出すぐらいだからよっぽどだったろう。頭から熱いお湯を浴び、湯気と飛沫で噎せ返りそうになりながら、浴室の壁にもたれて立ったまま、夢中でまぐわったのはなかなかよかった。壁に体重を預け、大きく開いた片脚をいやらしく五条の腰に巻き付けて快楽を貪る夏油の痴態を思い出す。
    (昨日は本当やばかったな。いつもは絶対にゴム付けさせるのに、バスルームならすぐに綺麗に出来るからって生でさせてくれるんだもん。サービス良すぎでしょ)
    夏油の体に中出しさせてもらったのはいつぶりだろう。無茶ばかりしていた学生時代に興味本位でやってみて、後処理に苦労して散々っぱら怒られたことはあったが、卒業して教師になってからはしてないはずだ。ずるりと性器を抜いたあと、夏油の痙攣する内腿を白濁が伝っていく様はいつまでも見ていたいぐらい艶めかしくていやらしくて、シャワーで流されていくのがもったいないほどだった。あんまりいやらしくて、ひどく気持ちよくて、逆上せたみたいに頭の中がぼんやりした。結局バスルームを出た後も長い髪が乾き切るより先に真新しいシーツが敷かれたベッドに押し倒してしまったぐらいだ。
    五条は夏油の体にある黒子の位置を完璧に把握しているし、夏油のどこに触れ、どうやって暴けば、あの涼やかな顔を真っ赤にして切れ長の鋭い瞳を快楽でぐじゅぐじゅに溶かすのかも、正論ばかり吐く口からどんな甘やかな喘ぎ声を零すのかも、誰よりも鍛え上げられた完璧な肉体を持ちながら、他の誰にも触れさせたことのない体の一番奥の柔らかいところで五条の性器をいかに上手に受け入れるのかも、すべて知っていた。
    生徒からの人望は厚く、灰原を筆頭に後輩からも慕われていて、任務に行けば補助監督や依頼主の女たちからただならぬ好意を寄せられる夏油の、そんなあられもない姿を誰も知らない。五条だけがただひとり、夏油のすべてを知っている。そんな甘美な事実にくらくらと眩暈がしそうだった。
    (あー、やばい。ムラムラしてきた。今夜も傑の部屋に行っていいかな)
    さすがに連日では嫌な顔をされそうだが、甘えた顔でしつこく強請れば、夏油がうんと頷かなかった試しがない。夏油は昔から五条の綺麗な顔が好きで、甘えられるとどうしてもノーと言えないのだ。誰よりも綺麗な顔をしている自覚があった五条はちゃっかりとそれを利用した。きっと今夜だって夏油は許してくれるだろう。その唇以外を―


     2


    五条には恋人がいる。正確には、いた。つい先日まで。
    同じ年頃の、青みがかった長い黒髪で、胸の大きな女性だった。女性の体はそうあるべきとして膨らむところはたわわに膨らみ、きゅうっと絞られたところは細く、抱くのに最適な体をしていた。出逢ったのは三ヶ月。任務の後、高専に戻っても夏油がおらず、家入も忙しそうで、あんまり暇だったから街に繰り出してぷらぷらしていたのだが特にやりたいこともなく、コーヒーショップで買ったクリームと砂糖いっぱいの甘ったるい飲み物を片手にぼうっと座っている時に声を掛けられた。五条はまるで街角で無料配布されているポケットティッシュを受け取るぐらいの気楽さで返事をしたのが始まりだ。
    五条のオフなど突発的なものになることが多く、結果としてワンナイトの相手を探すのに街をぷらぷらして逆ナンされるのを待つのが一番手っ取り早い。街中で白銀の髪、平均より突出した身長、いつものアイマスクではなくレンズの小さめのサングラスをかけた五条はよく目立つ。遠巻きに注目されるのは慣れているから今さら気にしないのだが―あまりに目立ちすぎるのも高嶺の花に見えて声を掛けにくいよ。そういう時はなるべく座って目線を低くし、出来れば暇を持て余しているのが分かるようにお茶でも手元に置いて、相手が話しかけやすいように隙を見せるのが大事だよ。呪術師が隙を見せるなって?無下限オートの癖によく言うよ。ふふっ、隙っぽいものでいいんだよ。非術師にそんな些細な違いは分からないんだから―夏油が以前語っていた逆ナンされる最低限のポイントの通り、素直にそのルールを守っていると女たちはこぞって五条に話しかけた。これほど目立つ見た目の五条の隣に並び立ちたいと思うだけあって、相手はいつも見た目に自信のある綺麗な女性ばかりだ。
    (我ながら短かったなー)
    五条は自分のことながら改めて感心してしまう。原因なんて言わずもがな五条にある。三ヶ月、恋人同士からすれば新婚さんに匹敵するほど甘やかな時期であるが、誰もが有頂天になってうきうき舞い上がって楽しい筈の間に、五条が彼女に会ったのはほんの数回しかない。
    ―あなたのことが分からない。私ずっと連絡を待ってたわ。寂しかった。もう信じられないの。
    部屋ではなく、珍しくファミレスを逢引場所に選んできた時点で予感はしていたが、彼女は悲劇のヒロインよろしく大粒の涙を流していた。その後ろのボックス席で、新しい恋人か、その候補となっている都合のいい浮気相手のひとりか、ちらちらとこっちの様子を窺っている男がいることは五条にはとうに分かっていた。
    バッカみてぇ、と昔のもう少し若い自分であればそう吐き捨てて出て行ったところだが、教鞭を取るようになって自分よりさらに若い子どもたちと接しているうちに少しずつ柔らかな対応が出来るようになった。夕方であってもピークの直前ということもあり、そのファミレスにはそこそこ人がいた。美男美女の修羅場に注目が集まっているのも分かっていたが、これが最後だと思えば気にならない。「残念。もう君に会えないのは寂しいけど、幸せになってね」なんて、いつになく優しい笑みを湛え、殊勝な言葉を吐くことも出来るようになった。そうすると女は決まって後ろ髪引かれるのか、揺れる瞳で縋るような視線を送ってくるのだが、終わりと位置付けたものにもはや興味はない。正直どうでもいい。五条が必要としているのはセックスをする相手であり、その為の“恋人”なので抱けない女に用はなかった。
    ファミレスの外はいつの間にか夕焼けのオレンジ色に染まっていて、この世の物とは思えないほどひどく穏やかな色に思わずサングラスを外した五条は次の瞬間、ビル群を眼下に見下ろしていた。上空は風が少し強くて、五条の柔らかな白銀の髪をやわやわと撫でていく。無下限呪術の解釈を拡大した瞬間移動の範囲はさらに広がり、五条が望めば大抵の場所に行けるようになった。それこそ限りなく宇宙に近いところまで行くことも可能だ。この難しい術式をこれほど自由自在に操れた術師は歴代の五条家の中にはいないだろう。それほどまでに五条は規格外で、呪術界の寵児であることは間違いない。
    振られたばかりの五条はげんなりしていた。だけどそれは女と会えなくなることが惜しいからという訳ではない。振られる理由があまりにいつも一緒なものだから、どうしてもそのループから抜け出せない自分に辟易としてしまうのだ。眩い夕陽に包まれながら原因を整理してみる。
    仕事は当たり障りがないように宗教系の学校の教師をしていると話している。そこに嘘はない、が半分しか本当のことを伝えていないとも言える。美しい白銀の髪が地毛だとしても、五条の見た目がおよそ教師らしくない。そんな教師を迎え入れてくれる学校が「東京都立呪術高等専門学校」なんて聞いたことのないものであれば怪しさはなおさらだ。さらに信じられないぐらい突発的な地方出張、という名の全国各地の任務、が入るものだから不審なことこの上ないだろう。呪いの出現条件やレベルによっては、素直に出て来て祓われてくれるものもあれば、出現パターンに法則があってその手順を一から順に踏まないと姿を見せないこともあり、長期化することも無きにしも非ず。東京にいる間ならばまだしも、地方にいるとなれば確実な次の約束を取り付けるのもままならない。適当な作り話をするほど胡散臭さが増してしまうだろうからあえて多くは語らないようにしていたがそれがまた不審極まりない。だから五条の言うことが信じられないと思うのは仕方ないのだろう。
    とはいえ、呪いの話をしたところで見えないものを信じてもらえる訳がなく、やばい人間に思われるのが妥当なところだ。つまり、呪術師だということは隠したまま、地方の任務にも納得してくれる女でなければいけない。
    (―それって無理ゲーじゃない?)
    信用しているし、信頼している。でも尊敬はしてません。と堂々と生徒の前で言い放った七海のように、同じ呪術師であれば五条の強さやその必要性を正しく理解してくれるだろうが、非術師ではそうもいかないのは目にも明らかだ。今世でたったひとりの無下限呪術と六眼の抱き合わせ、最強を恣にし、この眼下にいる人を、街を、世界を、夜な夜な守っているというのにこの仕打ちはいかがなものだろうか、と五条は信じてもいない神様を恨めしく思う。
    いっそワンナイトの相手を探せばいいのだろうが、非日常を生きる五条は日常にひどく憧れていた。普通に学校に行って、普通に街で買い物をして、普通に美味しいものを食べて、普通に恋人がいる―この世にはそういう世界があるのだと、すべて親友が教えてくれた。自分も同じようにそれを体験してみたいとずっと手探りで試しているのだがなかなかどうしてうまくいかない。
    そうして空一面を染め上げる夕陽が沈んでいくのをぼんやりと眺めていると、やがてすべてがどうでもよくなった。守るとか、守らないとか、好きとか、嫌いとか、誰を信じて何を信じないのかも、すべてがちっぽけなことに思えて、ま、いっか、と五条は全部なかったことにした。途端にお腹が空いてきて、空気の読める腹の虫が小気味よく鳴いた。ファミレスでパフェでも食べようかな、と思っていただけに五条の口は無性に甘い物を求め始めた。このままどこかへ寄って何か食べて帰るか、それとも高専に戻りがてら何か買って帰るか、最近のコンビニスイーツも侮れないからなぁ、なんて少し悩んでいるとポケットに突っ込んでいたスマホがぶるっと震えた。
    「はぁい、どうしたの傑。もしかして任務手こずってる?」
    『面白いことを言うね。あんまり現実味がなさすぎて冗談にもならないよ、悟』
    「それは息災で何より」
    『さっき全部終わって今は帰りの車の中だよ。お土産に悟が好きそうなフルーツ大福を買ってみたんだけど、さすがに賞味期限が早いね。今夜は部屋にいるのかなと思ってさ』
    「わ、ほんと?今ちょうど甘い物も食べたいって思ってたところ」
    なんてタイミングがいいのだろう。さすが親友。嬉しくて思わずちょっと声が高くなった五条に、無機質な機械の向こう側でふふっと笑った声が耳を擽った。五条が喜ぶだけで夏油は喜んでくれて、声しか聞こえないのに目をうっそりと細めて笑っている姿がまざまざと思い浮かんだ。
    夏油はこの夕陽に少し似ている。ただそこにいるだけなのに、五条が五条のままでいいと受け入れてくれている。たったそれだけのことでほっこりと胸が温かくなる。それから、最後に会ったのはまだたったの三日前だというのに、空腹と同じようにひどい飢餓感に襲われた。
    「傑、早く帰ってきてよ。僕、今すっごくお腹ぺこぺこなんだ」
    『そうは言っても悟と違って瞬間移動は出来ないんだ。高専に着くのは一時間後かな。少し早いけど夕飯にすればいいじゃないか。あ、でも私の非常食用に取ってあるカップ麺だけは手を出してくれるなよ。あれはとっておきで……』
    「じゃあ、カップ麺は諦めるから傑のこと食べていい?」
    『!』
    どうしても食べられたくないのか、これまで幾度となく勝手に食べられた過去の経験からか、「あのカップ麺だけは……」と食い意地悪くまだ何か言っていた夏油の言葉を遮り、そう嘯く五条の言いたいことの意味を正しく理解したのであろう、高性能な最新型のスマホは夏油がほんの小さく息を飲んだことも綺麗に拾ってくれた。
    ―二人がまだ高専生だった頃、しがない寮生活で溜まった性欲をお互いの体でぶつけ合うようになるまで大した時間はかからなかった。五条と夏油は恋人同士という訳ではない。親友で、ずっと一緒にいて、気が置けなくて、男同士で、妊娠する心配もないとくればこれほど都合がいい相手もいなくて、やがて高専を卒業して五条に女の恋人が出来るようになるまで続いた。別れては違う恋人が出来て、また別れて、を幾度となく繰り返す五条に、夏油はその度に話を聞いて、次の恋人が出来るまでは学生の頃のように性欲処理のセックスにも応じてくれた。「傷心なんだよ」と嘯けば律義な夏油は断らない。
    この十年、お互いに恋人がいないフリーの間、時折気が向いた時にお互いの体を貪るように抱き合う。それこそいつもすぐに別れてしまう恋人よりも多くの回数を重ねてきたが、夏油とのセックスには飽きが来ない。飽きないどころか、回を重ねるごとに悦くなっていく気がする。なんせ同じぐらいの体格と体力でもって有り余る性欲をぶつけ合う二人のセックスはまるでスポーツに似ていて、身長も対格差もそれほどないからいろんな体位が試せたし、何より遠慮がいらない。相性もすこぶるよいことを二人はよくよく理解していた。
    それから返事をじっと耐えて待っていると、ややあって『いいよ』と返事があって。
    『君、今どこにいるの』
    「外。だけど傑が来てくれるならすぐ戻るよ」
    『そう。じゃあ、もうすぐ帰るからいいこで待っていて』
    その声が先ほどより角砂糖三つ分ぐらい甘ったるく感じるのは五条の気のせいではない筈だ。
    用件だけの短い通話がぷつっと切れる。いくら高性能だとしても親友の驚いた顔が見られなかったのが残念だった。こんなことならテレビ電話にすればよかったなぁ、と口惜しく思う。ポーカーフェイスのうまい男だが、きっと油断していただろうからあの小さな目をさらに豆粒みたいにぱちくりと真ん丸にしていただろう。
    夏油の体を抱くのはいつぶりだろう。先ほどファミレスで会っていた女が五条の恋人となる少し前のことだから、三、四ヶ月ほど前の記憶をひっくり返したがちょっと曖昧だった。今日は元から性欲処理するつもりでいたせいか、無性に興奮している自分に気が付いた。
    もう十年も前から時折セックスをする友達。それを世間ではセックスフレンドと呼んだが、それともまた違う気がした。同じ年に生まれ、この学び舎で偶然出逢い、呪術師として命と信念を預け合ってきた自分たちはそんな薄っぺらいものでは決してない。夏油の考えていることが五条に分かるように、五条の考えていることは夏油に筒抜けである。それほどまでに深く、魂という根本で繋がっている。それを表す言葉としてもっとも適しているものは現時点では「唯一無二の親友」以外に他ならなかった。
    ―久しぶりだから抱き潰さないように気を付けないと、なんて殊勝なことを思っていたのは、帰宅した夏油の姿を見るまでだった。


    そんなことがつい先日あったばかりの土曜日。一応は学校なので土日は基本的に授業が休みで、任務もなければ休日となる。溜め込んでいた書類をのんびりと片付けた後、五条は久しぶりのオフだった。高専に居を移してからというもの、申告すれば食事は出るし、住居代、光熱費、その他諸々の支払いはなく、共同スペースは勝手に綺麗になり、便利になったことはぐんっと増えた一方、休みの日であっても高専の中をうろつくことになる。どこからどこまでがオンでどこまでがオフなのか、境界が曖昧で気が休まらない、と言って高専の外で暮らすことを選ぶ人の方が断然多い。
    「ま、呪術師に休みなんて概念はほぼ通用しないけどねー」
    今のところ、身近な顔触れの中で高専内に住んでいてオンもオフも関係なく気が狂っていられる奇特な人間は五条の他では夏油、家入、夜蛾ぐらいのものだ。任務の量が人一倍多く、ひとたび負傷者が出ればその命を左右するともなれば、彼らにとって呪術師であることは息をするのと同じぐらい当たり前に常に行うべき事項のひとつであった。
    「あれ、今日法会だったっけ」
    「悟」
    今日は珍しく朝から任務も入らず、自販機まで行って戻って来てみるとちょうど夏油と部屋の前で鉢合った。五条の教師業が休みであれば、もちろん夏油も休みである。だが、その夏油は今は教師服ではなく、漆黒の法衣を着ているのを見咎めた五条はサングラスの下で目を真ん丸にした。
    「言ったよ。それに帰りは週明けになるよ。午前の体術訓練までには戻れると思うけど何かあったらよろしくね」
    「えー、そんなに長く?」
    「……それも言ってあったと思うけど」
    オフの日ならまだしも、さすがに授業に関わるとなると夏油も黙っていられない。あのねぇ、と夏油の口調が少し呆れたものになったところで、これは早々に話題を切り替えるに限ると五条は慌てた。
    「今回もどっか行くの?」
    「山梨の山奥が少しきな臭いんだ。ちょっと行って見てくるよ」
    夏油の細い目が嫌悪感に歪むのを見て、五条はまたか、と嘆息した。きな臭いと称されるのは呪祖師や呪霊、だけではなく非術師であることもある。そして、夏油がこんな顔をしている時は大抵がその後者の話である。
    「しっかし傑もよくやるよねぇ。呪術師やりながら教師やって、新興宗教団体の教祖様までやるんだもん」

    夏油は呪術師として任務に赴く一方、教師として後進を育て、その合間を縫って新興宗教団体の迷える信者たちの集会に参加して話を聞いてくれる、有難い教祖様を長いこと務めていた。
    ―夏油の呪霊操術には底がない。主従関係さえ結んでしまえば、その身にはいくらでも呪霊を取り込むことができ、より強い呪霊を取り込むことが夏油の強さとイコールになる。たったひとりで無限の兵隊を持つことが出来る、それが夏油の特級たる所以である。人の負の感情から生まれいずる呪いは学校や病院のような大勢の思い出に残る場所に吹き溜まりやすいが、何かと恨みつらみを買いやすい企業の社長や財界の要人など、呪霊に取り憑かれて悩まされている者もいる。そんな者の話に耳を傾けてやり、どうすれば楽になるのか教えを説き、その呪霊を取り除くと同時に取り込ませてもらう。効率のよい収集方法だ。
    人に取り憑くレベルの雑魚呪霊なんて放っておけばいいのに、とかつて言ったことがあったが夏油ときたら、「たまに妙な大物に出くわすこともあって面白いんだよ。どんな悪いことをしてきたらそうなるんだろう、そんな奴からいくらせしめてから呪霊を引き受けてやるか、って考えるとわくわくするんだ」とにんまりと笑いながらひどく悪い顔をしていたことを五条は思い出す。資格も何もないただのポーズだというのに、聖職者の格好をしているだけでより一層ありがたさが増して金額も跳ね上がるらしい。
    新興宗教団体というが別に勧誘する訳でも強制する訳でもない。散々呪霊に悩まされてきた彼らにとって、それを取り除いてくれた夏油はまるで神にも近しく、言うことはすべて正であり、善となる。みな一様に心酔してしまう。人畜無害そうなすっきりとした顔立ちと柔らかな物腰、優しい声音で紡がれる説法を拝見拝聴出来ることを自ら望み、ただただ許されたいと願って信者となる。夏油傑という男は天性の人誑しなのだ。
    呪霊を取り込む以外にも目的がある。そういう名目の新興宗教団体だからこそ、窓すらも感知していない呪祖師や不穏分子、生まれたばかりの呪霊、それから「何」もいない場所を指差してみたり、「何」もいないのに怖いと言ったり、通常とは違う「何」かが視えている気持ちの悪い子ども―ひょんなことから非術師の家系に生まれ落ちてしまった、呪力を持った子どもたちの情報が入ってくる。
    術式は生まれながら体に刻まれている。体の中に流れる血を媒介として脈々と受け継ぐ。加茂家の術式なんかはその典型的な例であり、御三家相伝の術式がその身内からしか発現しないのはその為だろうと考えられている。だから術師の多くは呪術師の家系に発現するが、何世にも渡って非術師と血が混ざり合った結果、非術師の親から先祖返りして術師の力を持った子どもが生まれることがある。術式はまだ普通と特別の違いも分からない五歳前後に発現するが、その力が発露することで大抵が気味悪がられ、時には迫害されることもある。美々子と菜々子がまさにそれだ。
    遡ること十年前。五条と夏油がまだ高専で学生として在学中だった時、夏油がひとりで祓除に行った任務先の村では怪奇現象とそれによる傷害事件が多発していた。犯人はなんてことはない二級呪霊だ。だというのに、村人たちは呪力という不思議な力を持った美々子と菜々子の仕業だと思い込み、幼い体に散々暴力を振るった上に座敷牢に閉じ込めているのを夏油が見つけた。
    呪霊は綺麗さっぱり祓ったと説明したところで、美々子と菜々子という化け物がやったに違いないからこいつらも始末してくれ、とそら恐ろしいことを平然と宣った村長に、ただでさえ短い夏油の堪忍袋の緒がぷっつんと音を立てて切れたのは言うまでもない。その場にいた村長をタコ殴りにし、百の呪霊を解き放って村人を脅かした上で、美々子と菜々子の閉じ込められていた牢をぶち破った夏油が二人を連れて高専に戻ったその晩はちょっとした騒ぎになった。
    当時まだ六歳だった美々子と菜々子はいつからそうして閉じ込められていたのか、はたまた食べ物すら満足に与えられていなかったのか、傷だらけで細い棒きれのような小さな体は脱水症状を起こしかけていて餓死寸前だった。どれほど痛かっただろう。どれほど苦しかっただろう。深夜に叩き起こされたにも関わらず、文句ひとつ言わずに治療してくれた家入によって九死を逃れた小さな体を抱き締めて、「今日から私が君たちの家族だよ」と夏油は囁いた。
    一夜にして未成年の未婚ながら双子の父親になった夏油の行動は早かった。どこからそんな伝手を辿ったのか、孔時雨というブローカーの手を借り、在学中に新興宗教団体を立ち上げて教祖業を始めた。全国規模のネットワークを駆使し、美々子と菜々子のような子どもがどこかに取り残されていないか、夏油は全国各地、それこそ地図にも載っていないぐらい山奥の隅々まで情報をさらい、いち早く掴んでは時に行脚してでも存在を確認しにいき、必要があれば引き取ってくるようになった。夏油が学生ながら教祖となったきっかけである。
    呪霊を使って一般人を脅したことも問題になったが、当初夜蛾にすら相談しなかったこの大それた教祖という職業はもちろん上層部を巻き込んだ大問題になった。高専にも有益であることを延々と説き、粘り強く交渉を続け、最後は「認めてくれないのなら高専と敵対しても構わない」と離反をチラつかせた夏油に、渋々ではあるがその宗教団体を高専の管理下に置くことと夏油が教師として高専に所属することで正式な承認を得ることが出来た。
    夏油が引き取ってきた子どもたちは宗教団体の下部組織で大事に育てられ、高専に入学できる年になったら呪術高専に入学するかどうかの意思確認を取り、適性があれば呪術師に、ないと判断されれば補助監督として迎えられた。もちろん高専の外に出るのも自由ではあったが、大抵が夏油の力になりたいからと呪術師を目指した。得てして呪祖師などの不穏分子の早期発見と呪術師の卵たちの早期保護を同時に確立し、高専にも有益であるという夏油の言う通りになった。
    「なんでそんなに他人の為に傑が頑張んなきゃいけないの」
    夏油はこうと決めたらがんとして譲らない頑固な男だということは分かっていたが、呪術師、教師、教祖、それから子育てというハードワークを課せられていることも、自由過ぎる九十九の件もあって特級術師という大事な駒を体よく高専に縛り付けることに成功してほくそ笑んでいる上層部も、何もかもが気に入らない五条は本当に理由が分からなくて率直に聞いてみたことがある。
    「私もそうだったから」
    ちょっと目を丸くした夏油はややあってから寂しそうに眉尻を下げて、「うーん、悟には分からないかもね」と答えた。
    夏油は子どもたちに過去の幼い自分を重ねていた。非術師の生まれではあったが、物心ついた時から呪霊が視えた夏油が何もない場所を指差すたびに両親は眉を顰めた。あれが自分以外の誰にもそれが視えていないと理解するまで時間をかからなかったが、それを口にしたら周りがどう思うのかを理解するには時間を要した。
    母親は夏油を我が子として大事にしていたが、それと同じぐらい心の中では気味悪がっていた。「絶対に呪霊のことは口にしてはいけないよ」と口すっぱく言い聞かされたし、本当に決まりを守っているのか時折監視されているのではないかと思うほど過保護になった。暴力を振うなんてことはなく、精一杯母親としての務めは果たしてくれたが御の字なのだろうが、夏油にとって家の中に本当の居場所にはならなかった。
    そんな思いをしている子どもがきっとたくさんいる。強者として特級術師である誇りを持ちながら、非術師の生まれで苦しんだことがある夏油だけがどちらの立場のこともよくよく理解していた。呪術師として生まれ、呪術師としての生き方しか知らない五条は、たとえひっくり返っても夏油のようにはなれない―

    「私は悟と違って働き者なんだ」
    「よく言うよ。金持ちからがっぽり金巻き上げてる悪徳教祖の癖に」
    「おや、命よりも大事なものが他にあるかい?」
    年々その信者を増やし続けている新興宗教団体だが、夏油が必要としているのは感謝や祈りではない。そんなものをいくら捧げようと祓除以外に救いを授けてくれるわけもなく、敬虔な信者がすべきことは正しく生きることと金を納めることだ。巻き上げた金は団体の活動資金であったり、夏油の家族になった未来の術師の卵たちの生活費として有益に転用されている。
    「それに俺だって頑張ってるもーん。傑が働きすぎなんだもーん」
    「こら、一人称『俺』はやめなさい、と言ったでしょ」
    「あ、やべ」
    「もう二十八歳になったんだから、そろそろ私に言われなくても気を付けなよ」
    「傑の方が年下の癖に……」
    「そう思うならなおさらだよ」
    「傑と話してるとつい出ちゃうんだから仕方ないでしょ」
    慌てて口を押えたところで口から出てきた時点でもう遅い。卒業して教師になった頃、大人のマナーとして「私」もしくは「僕」にしなさいと言われて改めたものの、夏油といる時だけは気持ちが学生の頃に戻ってしまい、油断するとうっかり出てきてしまう。自然体になりすぎてしまい、不思議と大人の仮面を付けていられなくなってしまうのはいつものことだ。それを夏油も分かっているのであまり強くは言わないがどう見ても呆れているというポーズは律義に欠かさない。せっかく遊ぼうと思っていたのに夏油はどこかへ行ってしまうし、やっぱり小言を食らうし、踏んだり蹴ったりだ。
    「傑ちゃん」
    「じゃあ迎えが来てるからもう行くね」
    見送りがてら高専の入口まで一緒に歩いていくとそこには見慣れない黒塗りのセダンが待っていた。運転席から降りて待っていたのは、夏油の立ち上げた新興宗教団体の幹部のひとりであるラルゥで珍しくきちんとスーツを着込んでいる。筋骨隆々とした体付きに鼻の高いきりっとした顔立ちで、そうしていると夏油の右腕として団体を支える屋台骨であると納得できるが、普段は上半身裸にニップレスステッカーを付けて新宿二丁目のバーでよろしくやっている素っ頓狂な男である。
    「そのポケットにある缶コーヒー、貰って行ってもいいかい?」
    「なんだ、バレてたの」
    「遊んであげられなくて悪いね」
    「べっつにー。子どもじゃないしぃー」
    五条のズボンのポケットに無造作に突っ込んだままだった自分のカルピスと、それから夏油の為の缶コーヒー。本当は自販機で買ったこれを土産として持っていって、夏油の部屋で寛ぐつもりだったことをまるっと見透かされていて五条は少しだけバツが悪い。まるで子どもに言い聞かすみたいに言われて即反論したが、唇を尖らせた五条の態度はまるで拗ねた子どもみたいだった。
    「あ、傑、待って」
    「ん?なんだい」
    そもそも夏油の為に買った缶コーヒーを渡したその手を掴んでくいっと引き寄せると、夏油が不思議そうに小首を傾げた。そうするとハーフアップにまとめたお団子の下で長い髪がさらさらと肩をなだれていって、法衣の合わせからはっきりとした男らしい喉仏と首筋が露わになる。
    「首、キスマーク付いてるからあんまり顔傾けない方がいいかも。見えちゃう」
    「えっ」
    顔を間近に寄せて、そっと耳に囁き入れると夏油は驚いたようにバッと五条を見上げた。嘘でしょう、という困惑の表情を浮かべている夏油には申し訳ないが、昨夜五条が背中から抱き締めながら散々甘噛みしたり唇で吸い付いたりした首の後ろ、耳の少し下のあたりにくっきりと赤い鬱血痕が浮かぶ。しかもひとつどころではない。残念ながら誰がどう見ても性行為によって付けられたそれだと分かるもので、長い髪のお陰で隠れているが顔を傾けたり、髪をかき上げるようなことがあればすぐさま分かってしまうだろう。付けた張本人として「メンゴ」と片手を挙げて謝ったものの当然ジト目で睨まれた。
    「……悟、君ねぇ」
    「だからごめんってば。法会のこと忘れてたし」
    「そんなの謝っているうちに入らないよ。まったく。普段からあれほど痕は付けるなって言ってるのに……」
    「どうすんの?」
    「今さらどうしようもない。そもそも行為の最中に気付かなかった私にも落ち度はある」
    「だよね」
    「のかも知れないと思ったけど全面的に悟が悪い」
    指先でくいくいっと赤い鬱血痕を悪戯に撫で上げると、はぁ、と重たい溜息をひとつ吐いた夏油にぱちんっと叩かれた。五条と夏油が何をしているのかよく分からなかったが、「相変わらず仲がいいわねぇ」と待ちぼうけしているラルゥが少し困ったように言う。ちらっと腕の時計を確認しているところを見ると時間がないのだろう。
    「ご馳走様」
    五条の腕から軽やかに擦り抜け、ラルゥが開けた後部座席に乗り込んだ夏油は缶コーヒーを片手に掲げた。颯爽と去っていく車の後ろ姿が小さくなって、やがて見えなくなるまで見送りながら、黒いサングラスの下で瞳を細めて五条はちぇっと思った。


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