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    jooo_taros

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    jooo_taros

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    高専五七。

    ※いつも書いてるシリーズとは別軸です

    学生のとき、しょっちゅう別れてまたくっつくカップルいたなあと思いながら書きました。

    喧嘩するほど仲が良い「悟、いい加減にしな」
    場所は談話室。あからさまに機嫌の悪い俺に声をかけてきたのは親友の傑である。イライラして周りに当たり散らす俺を見て一言物申したくなったらしい。俺の前に仁王立ちする傑を見上げる。
    「あ?なにがだよ」
    「とぼけるな。最近の君の評判最悪だよ。常にいらいらして任務のときも必要以上に物を壊してるって。さっき一緒になった補助監督に泣きつかれたんだけど」
    チッ、あいつ夜蛾センじゃなくて傑にチクったのかよ。最悪。次会ったら絞めてやる。
    「悟!話聞いてるのか」
    物騒なことを考えていると、表情に出ていたのか傑はますます顔を険しくして俺を睨みつけた。
    「うるせえな、ほっとけよ」
    「どうしてそんなにイライラしてるんだ。なにかあったのか?」
    何かは、あった。でも話したくなくて俺は口を噤む。例えばこれが俺の顔色を窺ってばかりの補助監督とか、家の奴らだったら俺の態度を見てこれ以上突っ込んで聞いてくることはなかったと思う。しかし、今俺の目の前にいる相手は、きっと俺が口を開くまでしつこく追求してくるだろう。俺ははぁ、とため息を吐いた。
    「……七海と別れた」
    そう。俺はちょうど一週間前、後輩で恋人である七海と別れた。七海と付き合うようになって約半年。キスもえっちも済ませて順調だと思っていたのは俺だけだったのか。もう理由も思い出せないような理由で喧嘩して、怒った七海がアナタとは別れます!と言い放ち、それに俺もムカついて俺だってオマエなんかと付き合ってられっか!と応戦してそれっきり。直後に俺が地方へ泊まりがけの任務に出てしまったので、別れてから七海に会う機会もなくなんともうすでに一週間が経ってしまった。
    恋人と別れたばかりの傷心の俺に、傑は冷たかった。
    「なんだそんなことか」
    「おい!そんなことってなんだよ!もっと驚けよ!七海と!別れたんだぞ!」
    俺は入学してきた七海に一目惚れして、絡んで意地悪して執拗に話しかけて、俺なりに精一杯アタックしたけど七海には全然相手にされなくて。それでもめげずに話しかけて、なんとかお付き合いできるまでに至った。
    傑は七海に片想いしていた頃の俺も良く知っているはずなのに。全然驚く様子のない親友に面白くない気持ちになる。少しぐらい心配してくれたっていいんじゃないだろうか。しかし、傑は呆れたように続けた。
    「だって君ら何回目だよ別れるの。3回目?」
    「4回目ですよ、夏油さん」
    俺が答える前にひょこ、と傑の後ろから現れたのは灰原である。指を四本立てて答える灰原の方へ振り返り、傑は首を傾げた。
    「あぁ、4回。4回も別れてたっけ?まあ、またすぐ仲直りできるよ。どうせ悟が悪いんだろ、謝んな」
    決めつけるような物言いにむっとするが、確かにきっかけは俺だったような気がする。そうだ、七海が楽しみにしてた限定のパンを俺が一口ちょうだい、と言ってそのまま一口で丸ごと全部食べてしまったんだ。
    「君ら、本当にくだらないことで喧嘩するね…」
    喧嘩の原因を聞いた傑は呆れ返っている。俺と七海にとってはくだらなくないのに、なんて奴だ。
    「七海は食べ物に関しては人一倍うるさいですから」
    そうなのだ。七海建人。好きな食べ物はパン。ひょっとして恋人である俺よりパンの方が好きなんじゃないかと思うぐらい、七海のパンに対する情熱と執念は並々ならぬものだった。自分の遠征任務の際は必ず任務地の近くにベーカリーがないかチェックしてるし、俺や傑の遠征先に気になるパン屋があったら、このパンを買ってきて欲しい、とお願いしてくるぐらいだ。休日は都内のベーカリーをよく巡り、三食すべてパン、なんてこともまあまああった。俺とのデートの際も例に漏れず、ベーカリー巡りをすることが多い。俺は別にパンに特別深い思い入れなんてないけど、パンを食べているときの七海はめちゃくちゃ可愛いから、七海に言われるままベーカリー巡りに付き合っていた。
    喧嘩の発端となった限定パンは、そもそも俺が買ってきたものだった。都内で人気のパン屋で、朝イチに行かないと買えない限定パン。たまたま早朝にそのベーカリーの近くで任務があって、七海が食べたがってたな〜って思い出して帰りに買ってきた。俺って良い彼氏。五条さんありがとうございますって目をきらきらさせながらはにかむ七海は最高に可愛かった。その時はまさか別れることになるなんて思わなかったわけだが。
    「どうして七海に意地悪するんだ。七海のこと好きじゃないのか?」
    「好きだよ!ちょっとからかってやろうと思っただけだし」
    「悟。好きな子をいじめるなんて今時小学生でもやらないよ」
    俺は小学生以下かよ。ド正論にいらいらが募るが言い返す言葉も見つからない。むぅ、と口を尖らせる俺に、傑は呆れたようにため息を吐いた。
    「その限定のパンとやらを買ってきて許してもらうんだな」
    「実はもう買ってある」
    泊まりの任務が終わってようやく少し余裕ができた今を逃したらもう七海に謝るタイミングがないと思って、今日の任務の前に朝イチで買ってきたのだ。部屋にあるそれは、まだ七海に渡せていない。
    「ならさっさと謝りに行け」
    「……でも、許してくれねーかもしれないし」
    膝を抱えて俯く。俺らしくないって分かってるけど七海のことになるとダメになる。
    「悟が弱気なんて珍しいね」
    「だって、もう別れて一週間も経つんだぞ」
    一週間。七海と別れて一週間も経ってしまった。その間、七海からは一度も連絡はない。付き合っているときはお互い任務で会えない日だって必ず一往復はメールのやりとりをしていたのに。
    落ち込む俺を置いて、傑と灰原は違う意味で盛り上がっていた。
    「別れて一週間って最長記録じゃないですか?」
    「別れて半日で戻ったこともあったのに」
    「最短は3時間ですよ」
    「今時の中学生だってもっと穏やかなお付き合いをしてるよ」
    「七海も子供っぽいところありますからね」
    「うるせー!笑うなバカ!」
    げらげらと口を開けて笑う傑と灰原に一喝する。こっちは本気で悩んで落ち込んでるっつーのにデリカシーのない奴らだ。灰原のやつも善人を装っているが、傑によく懐いているだけのことはある。
    「落ち込んでる暇があるならさっさと仲直りしなよ。うっとおしいな」
    「ひでぇ。それが失恋した親友に言う台詞かよ」
    「七海の様子はどうなんだ、灰原」
    「おい、スルーすんな」
    「うーん…たしかにいつもより元気はないですね。本人は夏バテだって言ってましたけど」
    「もう11月だよ。夏バテは無理ないか?」
    「言われてみればそうですね!」
    げらげらとまた笑い始める二人に唇がわなわな震える。こっちは真剣に悩んでるのに!傑のばか!灰原に関しては俺の方が先輩なのに舐めやがって!薄情者の親友と舐めた態度の後輩を睨みつけてやると、ひとしきり笑って満足した傑がこちらを見る。
    「ほら、七海も悟と別れて元気ないってさ」
    「夏バテなんだろ……」
    膝を抱えて丸くなる。俺と別れて元気がないなんて自惚れる程楽観的にはなれなかった。うじうじといじける俺に、傑は何度目かわからないため息を吐く。
    「もーここで意地張るのやめなよ。七海とこのまま本当に別れることになってもいいの?」
    「嫌に決まってんだろ!」
    一目惚れしてやっとの思いで付き合えるようになったのだ。今この瞬間だって七海が恋しくてたまらない。そのぐらい大好きな相手とこのまま別れるなんて絶対に嫌だった。でも、七海はもう俺に愛想尽かしてるかも。七海の気持ちがわからない。そんな俺に助け舟を出したのは灰原だった。
    「大丈夫ですよ。七海もなんだかんだで五条さんのこと大好きだし!すぐ許してくれます!」
    「……大好きなんて言われたことねーけど」
    告白したのは俺から。七海は頷いてくれたけど、付き合い出してからも好きって言うのは俺ばっかりで七海から言ってもらったことはない。キスもハグも、えっちだってぜんぶぜんぶ俺からで、そもそも七海って俺のこと好きなのか?パン買ってきてくれるから付き合ってるとかじゃなくて?
    「それはほら、七海は照れ屋さんなので」
    七海の同期で親友。明るく元気な灰原に励まされても、俺は全然自信を持てなかった。



    いつまでもウジウジする俺を見かねた傑に談話室から追い出され、俺は仕方なく七海の部屋に向かった。灰原の情報によると、七海の今日の任務はすでに終わり、部屋に戻っているらしい。灰原は知ってるのに恋人の俺は知らねーってどうよ。あ、俺と七海はもう別れてるんだった。突き付けられた現実に深いため息を吐く。つらい、悲しい。七海に会いたいけど、冷たくされたらって思うと会いたくなくて、のろのろと廊下を歩く。しかし、生徒数も多くない呪術高専の寮は大した広さもなく、あっという間に七海の部屋の前まで着いてしまった。
    部屋の中から感じる呪力の気配はたしかに七海のものだった。居留守使われたらどうしよう。不安が渦巻いたまま、控えめに声をかける。
    「七海。俺だけど」
    今までだったら七海の返事も聞かずに無遠慮に中に入ることもあったが、今日はさすがにそんなことはできない。俺の声に反応して部屋の中の呪力が揺らぐ。どきどきしながら返事を待っていると、一拍置いた後に聞き慣れたいとしい声が鼓膜を揺らした。
    「…………俺って誰ですか」
    ひねくれた返事に、いつもの俺だったらいらついたまま問答無用でドアを開けて中に入っていただろう。でも、今それをしたらますます七海の機嫌を損ねてしまうことはさすがに分かる。俺は拳をぐっと握ると努めて冷静に答えた。
    「……五条だけど」
    それきり返事がなくて、俺は手持ち無沙汰にドアの前に立ち続けることしかできなかった。
    七海はもうとっくに俺に愛想を尽かしていて、はじめからドアを開けるつもりなんてなかったらどうしよう。不安でいっぱいになりながらじっと待っていると、ゆっくりとドアが開いた。ドアの隙間からずっと会いたかった七海が顔を覗かせる。衝動のまま抱きつきたくなったけど我慢だ、我慢。
    「………何の用ですか」
    ぶすっとして不機嫌そうな七海。俺とは話したくないって全身で訴えているような様子に怯むが、構わず手に持っていた袋を突き出した。
    「ん」
    「………」
    「俺が食べちゃったパン。また買ってきた」
    一週間前の喧嘩の発端を思い返せば、なんてくだらないことで喧嘩をしてしまったんだろうと思う。ちょっとからかいたくなって、七海に意地悪して、結果的に喧嘩して別れることになって、勝手に傷ついているのは俺の方。大好きな七海と別れるなんて、本当は考えたくもないのに。すぐにムキになって七海を傷つけるようなことを言ってしまうけど、俺はずっと変わらず七海が大好きだって分かってもらいたいのに、俺の口から出てきた言葉はありきたりで陳腐なものだった。
    「七海、ごめん。俺が悪かった。仲直りしたい」
    意地悪してごめん。傷つけてごめん。嫌いなんて嘘だよ。本当は七海のことが大好きなんだ。照れくさくて口に出せない言葉の分も込めて精一杯伝えると、七海はしばらく俺をじっと見つめたあと、おずおずと手を伸ばして俺の服の裾を掴んだ。
    「……もう愛想尽かされたのかと思いました」
    髪の隙間から見え隠れする耳たぶは赤くなっていた。いじらしい七海がかわいくて仕方がない。
    七海の気持ちがわからないなんてうそだった。ひかえめに握られた指先も、赤くなった耳たぶも、ぜんぶぜんぶ俺が好きって主張してるようでたまらなくなる。
    「好きだよ、七海。仲直りしよ」
    「……はい。私も言い過ぎました。ごめんなさい」
    ぎゅう、と七海を腕の中に抱きしめて仲直りのハグをする。しっくりと馴染む感触にほっとする。七海の存在を確かめるようにぎゅうぎゅうと抱きしめていると、腕の中の七海もおずおずと俺の背中に腕をまわしてくれた。一週間ぶりの七海を堪能するように首筋に顔を埋める。変わらない七海のにおいに安心して、俺はようやく息ができたような心地になった。



    「でさ〜仲直りえっちのときの七海がめちゃくちゃ可愛くて」
    翌日の談話室。七海と仲直りできた俺は浮かれっぱなしだった。あのあと七海の部屋でシた仲直りえっちはめちゃくちゃ盛り上がったし、七海もいつもより積極的でかわいかった。一応相談に乗ってもらった傑と灰原に無事仲直りできたことと、昨晩の七海のかわいさについて熱弁していると、はじめは黙って聞いていた傑が口を挟んできた。
    「まてまて!悟、それ私たちに話していいの?七海に殺されない?」
    「アイツ任務でいねーし。自慢させろよ」
    「それ、自慢になってないからね」
    朝から任務が入っていたらしく、あらかじめセットしていたらしい目覚ましのアラームで目を覚ました七海は慌ただしく出かけてしまった。その時に交わしたいってらっしゃいのキスの余韻を思い出して、俺はムフフと笑う。いかに昨晩の七海がかわいかったか、俺はまだまだ話し足りないわけだが、傑はもううんざりしているようで携帯をいじり始める。
    「五条さん!七海と仲直りできて良かったですね!」
    俺たちの話に割って入ってきたのは灰原だ。屈託のない笑顔でにっこりと笑う灰原に毒気が抜かれる。灰原の後押しもあって七海に謝ることができた部分もあるため、俺は素直に頷いた。
    「おー」
    「もう喧嘩するなよ」
    「それはわかんね」
    「おい!」
    だって多分絶対また喧嘩する。俺も七海も気が長いじゃないし、すぐカッとなるし。七海のことを大切にしたい気持ちはもちろんあるけど、今までの性分を変えるなんて多分すぐにはできないし。
    開き直る俺に傑はもう呆れ返って頭を抱えてる。なんだよ。もうちょっと話聞いて欲しかったのに。
    つまんねーの、と思っていると携帯がチカチカ光ってメールの受信を知らせていて、俺の気分は一気に上昇する。七海からだ。
    「任務終わったって!俺迎えに行ってくる!」
    「あ、おい悟!」
    予定より早く任務が終わったらしい。今朝まで一緒にいたのに、もう七海が恋しくてたまらなくなっていた俺は、一分でも早く会いたくて高専の門まで一目散に駆けて行った。

    また喧嘩したって何度だって仲直りできる。だって俺は七海のことが大好きだし、七海もきっと同じ気持ちだし。昨夜のかわいい七海を思い出して、我慢できなくなった俺は結局術式を使って七海の元まで文字通り飛んで行った。






    「またすぐ喧嘩しそう」
    「喧嘩してもまたすぐ仲直りできますよ、あの二人なら」
    喧嘩する程仲が良いって言いますし!
    五条がいなくなった談話室で、からっと笑う灰原につられて夏油も笑った。
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