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    jooo_taros

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    jooo_taros

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    高専五七。夏祭りに行くの巻。

    「なあ。来週さ、お祭り行かね?」
    6月も半分を過ぎた頃だった。梅雨明けにはまだ遠くて、連日の雨に憂鬱になりながら任務をこなしつつ、空いた時間は五条や灰原と過ごす。忙しいながらも充実した毎日を送っていたが、変わり映えのない日常に辟易していた七海にとって五条のお誘いは魅力的だった。
    「お祭り」
    「去年も行ったじゃん。近くの神社でやるやつ」
    「あぁ……」
    去年。まだ七海が呪術高専に入学したばかりで、灰原と二人で今まで知らなかった世界に四苦八苦していた頃。初っ端から距離感が近い一学年上の先輩たちに翻弄されながら、ようやく高専での生活に馴染み始めた6月。高専の近くにある神社のお祭りに誘われて、五人揃って遊びに行った。りんご飴とわたあめを両手に持ってはしゃぐ五条は本当に楽しそうで、今でもはっきりと七海の目に焼き付いている。その時、五条とはまだただの先輩後輩で、まさかその数カ月後に告白されて付き合うようになるなんて夢にも思っていなかったのでなんだか感慨深くなる。
    祭りが行われる日。任務は午前中に一件入っているだけだった。五条は七海のスケジュールを把握しているため、分かった上で誘ったのだろう。しかし、他の三人はどうだろうか。最近は七海も単独任務が多く、灰原の予定すらわからなかった。
    「灰原たちの予定はどうでしょうか」
    去年の今頃の七海たちはまだ呪力の操作を教わったばかりで任務を割り当てられていなかった。五条たちの任務に同行して討伐を見学するのみだったので予定を合わせやすく、五人で遊びに行く予定も立てやすかった。しかし、二年生に上がってから、灰原も七海も二級に昇格して、割り当てられる任務の数も増えたし、難易度もぐっと上がった。その七海たちより多忙を極めているのが一学年上の五条たちである。呪術師不足もあり、特級である五条たちは二人でなければこなせない任務も多く、地方へ出張も多い。また、反転術式の使い手である家入は急患が入れば昼夜問わず呼び出されて治療に当たらなければならず、最近はその回数も増えていると嘆いていた。今も夏油は任務で九州に出向いているし、灰原も朝から任務に出かけてまだ帰ってきていない。七海と五条だって昨日までは連日任務が続いていて、ようやくの休みだった。
    (今年は去年のように五人で行くのは難しいかもしれないな)
    学年が上がってから、以前に比べて五人で過ごす時間が少なくなった。これから本格的な夏になれば繁忙期に入る。今まで以上に五人で過ごすのは難しくなるだろう。仕方がないことではあるが少しだけ寂しさを感じてしまう。
    「いや、今年はさ、二人で行こうぜ」
    「え」
    五人で行くつもりで話をしていたため、五条の提案は青天の霹靂だった。二人。二人か。五条と二人で祭りに行く発想がなかったので固まってしまう。
    目を丸くしたままの七海から視線を逸らした五条は気恥ずかしそうに首へ腕を回した。
    「…デートのつもりで誘ってんだけど」
    五条の顔は少しだけ赤かった。付き合うようになってもうすぐ一年経つが、呪術師という特殊な環境故に二人がデートをした回数はまだ両手の指に収まる回数だ。最近は寮のどちらかの部屋で二人で過ごすことが当たり前になってしまって、デートに行く発想すらなくなってしまっていた。セックスは両手両足の指じゃ足りないぐらいしているのに、デートに行く方が緊張するなんてどうかしてる。
    返事をしない七海に、五条はさらに続けた。
    「浴衣着てさ、どう?」
    浴衣。去年は浴衣なんて着なかった。五条と二人で浴衣を着て祭りに行くなんて、ますますデートらしくて恥ずかしい。浴衣姿の五条を想像するだけでどきどきして、七海は俯いてしまった。
    「私、浴衣持ってません」
    「俺の貸すし」
    「着付けもできないし」
    「俺がするし!なぁ、俺と二人で行くの、いや?」
    七海は元々あまり人混みが得意ではない。去年の祭りの喧騒を思い出せば、人の多さに少し憂鬱になってしまう。それに浴衣を着た五条と二人きりなんてきっと注目されるし緊張する。
    五条と付き合う前だったら、恥ずかしさもあって誘いを突っぱねていただろう。しかし、五条と付き合うようになって、彼が七海のことをいかに好いてくれているか身を持って知ってしまった今となっては、変に照れ隠しをするより素直に気持ちを伝えた方がずっといいことを分かっている。
    「……行きたいです、五条さんとお祭り」
    去年はまだ五条とは付き合っていなくて、祭りの間もほとんど灰原と話していた。五条は五条で夏油や家入と話していて、七海のことなんて眼中に入っていない様子だった。唯一覚えていることと言えば、七海が食べていたたこ焼きを五条が断りもなく一つ食べたことぐらいである。甘いものを食べてたらしょっぱいのも食べたくなった、なんて悪びれる様子もなく宣う五条に、どうして自分はこんな男が好きなんだろうと苛立ちと共にそれでも五条を嫌いになれない自分自身に呆れた。結果として今五条と付き合っているので、結局七海は五条の暴虐無人なところも含めて好きなのだ。
    「やった!すげー楽しみ!」
    その日はぜってー任務休むから!と宣言する五条の希望がどこまで通るかわからない。だって彼は呪術界に三人しかいない特級呪術師なのだ。それでも年相応にはしゃぐ五条につられ、七海もまた浮き足立ってくる。
    「……はい。私も楽しみです」



    祭り当日。幸い雨が降ることもなく、空はきれいな晴天だった。俺が晴れ男だからだ、と笑う五条に確かにその通りかもな、と素直に思ったのは七海も相当浮かれているからだろうか。
    七海の任務も予定通り午前中には終わり、五条も予定外の任務は入らず、二人は無事に祭りへと繰り出すこととなった。
    「楽しんできてね!」
    「うん、ありがとう」
    「はしゃいで盛るなよ」
    「ばっ、んなことしねーよ!」
    五条が用意した浴衣に着替えたあと、灰原と家入にそれぞれ見送られ(夏油は任務で不在だった)五条と七海は揃って祭りに向かった。慣れない下駄に戸惑っていると五条が笑って手を引いてくれた。
    神社の境内に入ると拝殿に向かってずらりと並んだ出店は圧巻だった。人混みの中でも頭ひとつ分大きな五条は見失う心配がなくて助かるな、と思いながら彼に着いて歩く。石畳をからからと下駄の音を響かせながら歩いていると、横を通った同じ年頃の女性が振り向いて五条に熱い視線を送った。相変わらずどこに行っても注目される人だ。視線に気づいているのかいないのか、五条は気にする様子もなく七海に話しかけてくる。
    「なあ、りんご飴食べたい!」
    「はぁ、どうぞ」
    「七海は食わねーの?」
    「私は焼きそばが食べたいです」
    「俺も食う!あ、わたあめ!」
    りんご飴の次はわたあめか。まるで幼い子供のように瞳を輝かせて、あっという間にりんご飴とわたあめを両手に持った五条は嬉しそうに破顔する。五条が甘い目のにうつつを抜かしている間に焼きそばを買った七海は、浴衣を汚さないように気をつけながら口に運んだ。チープなソース味が美味しい。七海が焼きそばを食べている間も、五条はりんご飴とわたあめを交互に口に運びながらきょろきょろと落ち着かない様子だった。
    「なぁ、射的もやりたい」
    「両手塞がってるじゃないですか。あとにしてください」
    「術式使えば…」
    「騒ぎになるので絶対やめてください」
    それからさらにかき氷が食べたいけどやっぱり持ち切れない、と嘆く五条に七海は思わず噴き出してしまった。
    「五条さん、楽しそうですね」
    「あ?楽しいに決まってんじゃん。久しぶりのデートだし。七海は?楽しくない?」
    顔を覗き込まれ、間近に迫った端正な顔にどきりとする。不安気に揺れる蒼眼に、そんなわけないだろうと首を振った。
    「……私も楽しいです」
    柄にもなく手を繋ぎたくなってしまったが、生憎五条の両手は塞がっている。代わりに浴衣の袖をそっと掴んで距離を縮めて歩いた。
    日が落ちて辺りは暗くなってきているが、出店の灯りに照らされて、拝殿まで続く石畳はぼんやりと明るかった。出店のオレンジ色のライトに照らされた五条の横顔はいつもより幼く見える。
    「去年はさ〜傑たちとみんなで行ったじゃん?」
    「そうですね」
    「あん時にさ、来年は絶対七海と二人で来ようって決めてたんだよね」
    だから実現して嬉しい。
    去年。灰原たちと連れ立って祭りに行った時、五条は七海なんて眼中に入っていないと思っていた。今日と同じようにりんご飴やわたあめを両手に持ってはしゃいでいた五条が、そんなことを考えていたなんて。
    五条の顔はほのかに赤い。恥ずかしくなったのか、ふいと顔を逸らされる。その拍子に髪の間から見えた耳たぶも赤くなっていて、なんだか七海まで恥ずかしくなってしまった。
    「甘いもん食ってたらしょっぱいもん食いたくなってきた。七海の焼きそばちょーだい」
    あ、と口を開ける五条に、しかし七海は素直にはいどうぞ、なんてできるわけがなかった。
    「自分で買えばいいでしょう」
    「両手塞がってるし。一口だけ食いてーの」
    「…恥ずかしいんですけど」
    周りは人だらけだ。見られたくない、と暗に告げるが、それで五条が納得するわけがなかった。
    「みんな俺らのことなんか気にしてねーよ」
    そんなことはない。今だって、すれ違いざま中学生ぐらいの女の子が五条に熱っぽい視線を送っていた。
    「なあ、いいだろ」
    五条とはじめてデートをしたときを思い出す。あの時は五条に言い包められて七海が五条の手からパンを食べたが、七海からは容赦なく断った。一年前の七海だったら、今だって断っていただろう。しかし、喧嘩をしながらもなんだかんだで五条と付き合い続けて、いつの間にか七海も随分絆されてしまったらしい。
    「……ここじゃ、目立つので」
    しかしさすがにここでは人通りが多すぎる。五条の浴衣の裾を引っ張って、出店から少し外れた木陰へ向かう。出店から離れたせいで辺りは先程よりずっと薄暗いが手元が見えない程じゃなかった。
    「わざわざここまで来なくったっていいのに」
    「アナタ、自分がずっと注目されてたの気づいてます?」
    「んなのいつものことだし」
    目立つ容姿の五条にとって、今日のように人目を集めることは日常茶飯事らしい。しかし、五条が気にしなくても七海は気にするのだ。
    遠くからがやがやと騒がしい雑音が聞こえる。振り向くと、出店が並ぶ通りから漏れる光が眩しくて目を細めた。たった数メートル離れただけなのに別の世界みたいだ。
    七海は暗がりの中周りに誰もいないことを確認すると、何も言わずに五条へ焼きそばを一口差し出した。素直に口に入れてもぐもぐと咀嚼する五条は嬉しそうだ。
    「ん、美味しい」
    もう一口、と再び口を開ける五条に、七海は首を横に振る。
    「もうあげませんよ」
    「ケチ」
    「欲しかったら自分で買ってください」
    「七海が食べさせてくれるなら」
    「あんまり調子に乗ると引っ叩きますよ」
    「暴力はんたーい」
    言いながら五条は大きく口を開けて食べかけだったりんご飴の残りを口に入れた。その拍子に唇の端に飴の欠片がくっついたことに気づいて、七海はそっと五条の顔に手を伸ばす。五条もまた七海に顔を近づけて頬に触れるより先に砂糖の甘い匂いが鼻をくすぐると同時に二人の唇が重なった。
    キスをするつもりなんて毛頭なかった。今更キスで恥ずかしがるような初々しさは生憎持ち合わせていないが場所が場所だ。不意打ちのキスに七海はむっと眉間に深く皺を寄せた。
    「なにするんですか」
    「え、キスしたかったんじゃねーの?」
    「違います!唇の端になにかついてたから
    …」
    「キスして欲しそうな顔してた」
    「外ですよ。そんなわけないでしょう」
    「暗いし誰も見てねーよ」
    言う通りではあるがここは外だ。五条と違ってきちんとした一般常識を持ち合わせている七海には誰が見ているかわからない外でキスをするなんてとんでもなかった。
    「今日ずっとキスしたかったし」
    「は?」
    「浴衣姿の七海やべーし。なんかえろいし。可愛いし」
    「ちょっと、何言って……んっ」
    もうそれ以上聞いてられなくて苦言を呈するが、七海に構わず五条は再びキスをした。七海はますます眉間の皺を深くする。
    「五条さん!」
    「だって一回じゃ足りねーんだもん」
    「でも、誰かに見られたら…」
    「誰も見てねーって。ほら、向こうにいるカップルだってしてる」
    五条が指差した先には暗闇に紛れて七海たちと同い年ぐらいのカップルがキスをしていた。他人がキスをしているところなんてドラマや映画以外ではじめて見た。かぁ、と顔が赤くなる。
    「…………私たちが見てるじゃないですか」
    「だーっ!だから、誰も気にしてねーよ!ほら、もっかいしよ」
    「……あとでたこ焼き買ってください」
    「はいはい。いくらでも買ってやるから」
    笑う五条に顎をすくわれて唇が重なる。キスは一度だけで終わらず、それから暗闇に紛れて何度もキスをした。浮かれてる。こんなところ誰かに見られたら、と思うと気が気じゃない。それでもやめられなくて、キスのしすぎで息が上がってくる頃にはもっと五条と触れ合いたくてたまらなくなってしまった。
    キスの合間、五条の浴衣の袂をぎゅっと掴んで七海は小さく呟いた。
    「……五条さん、もう帰りたいです」
    「たこ焼きは?いいの?」
    ニヤニヤと笑う五条が憎たらしくて、同時に好きで好きでたまらなかった。
    「………いじわる言わないで」
    「あのさ。帰ったら、続きしていい?」
    七海だってそのつもりだった。だがそれを素直に口にすることはもちろんできなくて、小さく頷くだけで返事をする。それでも五条にはしっかり伝わったのか、次の瞬間には見慣れた高専の五条の部屋まで飛んでいた。
    「わざわざ術まで使うなんて……」
    「だってもう我慢できねーもん」
    ベッドに押し倒されて、再びキス。もう人目を気にしなくて良いので、七海も首に腕をまわして積極的にキスに応えた。五条にせっかく着付けてもらった浴衣はあっという間に脱がされて床に落とされる。
    「ぁ……」
    直接肌を滑る手のひらが心地良い。はだけた浴衣を肩に引っ掛けたままの五条は、いつもよりずっと色っぽくてどきどきした。
    汗ばんだ身体をぴったりとくっつけて五条を求める七海に五条も興奮したらしい。五条の心臓が早く脈打っていることに気づいて、七海は目の前の男がいとしくてたまらなくなってしまった。

    その日は七海の体力が尽きるまで何度も何度も求められて、なかなか離してもらえなかった。



    「来年もまた行こうな」
    深い深い交わりが終わったあと。うとうとと寝落ちしかける七海を腕に抱えて浮かれたテンションのまま呟く五条に、七海は小さく頷くだけで答える。
    来年も再来年も高専を卒業しても五条の隣にいたい。
    微睡みの中、そんな夢のようなことを考えて、七海は五条へと擦り寄った。



    おわり


    えろは力尽きました…。
    今までここにあげた五七を本にしたいなあとぼんやり思っているので、そのときはえろ部分も加筆したいです。
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