馬鹿げた話百年後、この星は滅亡するらしい。
時々開催されている寮飲みとやらにオレは参加したことはない。そんなめんどくせぇもんに参加するくらいなら、家で一人チマチマ飲む方がマシ。つーかそれが嫌で夜間清掃を引き受けたくらいだ。なぜオレは神家の部屋で炭酸水を飲んでいるんだ。
少しキツめの任務を終え、事務所で報告を済ませると、明日は皆休みだと言う。いつもの掃除はどうすのか聞けば、ザワがやってくれるらしい。アイツなら、まぁ……道具もあった場所に戻してくれるだろう。せっかく出来た休日を無駄にしたくない、さっさと帰って休みをどう過ごすか自分に相談しようと立ち上がった時々だった。
「あ、待って麗」
「んだよ」
「あのさ、これから俺の部屋で飲まない?」
「はぁ飲まないしお前の部屋にも行かない」
「そう言わずに。灯世さんと有さんも来るしさ」
「行かない。お前らで勝手に飲んでろ」
「大丈夫!寮飲みじゃなくて特務飲み!」
何が大丈夫なんだアホ。嫌だと言っているのに断っても断っても食い下がってくる神家に、特務だけで寮だしいいかと流されてしまった。
コンビニで各自好きなものを買い、神家の家で交わす会話のなんと色気のないものか。この仕事をしていたら、色気なんて必要……あるのは交際部だけだろう。
ハピドの新作は出来たてが美味しいとか、新しいスパイスを入手したから試食して欲しいとか。本来、こういう会話が普通なのだ。
『百年後にこの星は滅亡するそうですよ?』
神家がつけたテレビから聞こえてきたそれに、皆目を見やる。本屋に行けば多数並んでいるナンチャラ預言書とか、預言者が言ったことを書いたとか。正直どうでもいい。
「みんなハズレてんじゃねぇか」
「確かに!当たっていたらもう滅亡しているし、俺たちはいないよね」
「人は脆弱だからな」
新名のひと言にゾッとした。恩田と新名が昔どんな事をしていたのかなんてどうだっていいし、知りたいとも思わない。知らぬが仏、てもんだ。
ただ、神家が来て俺が特務に異動して就いた任務で見た恩田と新名の動きは、ここ一年で出来るようなものではなかった。恩田は降ってくるし女にも容赦はしない。新名も手加減など辞書にはない。神家も……コイツが一番やべぇやつだろう。オレを諦めないとか意味分かんねぇ。
「滅びる時も場所は別々でも俺たちは当たり前に仕事をしている」
「ですよね。でもその時に1人は嫌だなぁ」
「仕事してたら1人じゃねぇだろ」
「そっか!」
まぁオレは夜間清掃だったら1人だけど。だからと言ってそれが寂しいとかは全く思わない。むしろ清々する。
「すばらしい仕事をする唯一の方法は、自分のやっていることを好きになることだ。とスティーブ・ジョブズが言っていた」
恩田と新名は時々話が飛ぶ。慣れたからまたかと思ったが、自分のやっている事を好きになる?好きになれって言うのか?ならオレは人と関わりたくない。
「好きかどうかは分からないけれど、灯世さんと有さんに拾ってもらわなかったら今の自分はいないし、みんなと一緒に仕事していないし、何より麗に出会わなかった!」
「近い離れろ!でもまぁ、夜間清掃は悪くない」
「だったらそれでいい」
「は?」
「俺たちの仕事は特殊だ。与えられた任務を熟すだけ。キッチンのシフトが入ったらそれをやるだけだ。滅びる時もそうでありたい」
そんなもんなのか?つまりアポリアに骨を埋めるってか。馬鹿げている。会社に骨を埋めるような恩はないが、芦佳には返しきれていないからどうせ滅びるなら返してからにしてくれと思わなくもない。
どこでどうなろうが、オレは1人なのだから。