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    a_akai_chan

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    a_akai_chan

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    #夏五
    GeGo

    強い陽射しが、体を包む布の隙間から剥き出しになった皮膚だけでなく、視界まで灼いている。吹き荒れる熱砂と、光に白ばんだ景色。砂漠地帯のその気候の苛烈さに、私は思わず目をすがめその場で足を止める。すると荷物を背に載せたラクダを引いた案内人の男は、
    『お客さん、大丈夫かい?残り片道2時間はかかる。戻るなら今のうちだぜ』
    とその場に立ち眩んでしまった私の体調を心配したのか、そう声をかけてきた。
    『…問題ない、先に進んでくれ』
    『契約書にも書いたが、途中で倒れ死んでも俺は責任取らねえからな。こんな広い砂漠のド真ん中で死体になっちまったら、運んで行くなんてとても出来ねぇ。その場に置き去りになって、すぐ腐って風化して砂漠の一部になるだけだ』
    『…はは。それも悪くないかもな』
    私は乾いた声で笑いを溢した。水分も不足しているせいで、喉もカラカラだ。水もないわけではないが、しかし貴重な水だ、先も長いのにそう簡単に口をつけるわけにはいかなかった。
    (しかし…私も衰えたものだな、これで限界なんて)
    前はこのくらいの移動であれば余裕で耐えられたと思う。しかし、今は半ば死にかけだ。これは歳のせいなんて単純なものじゃないんだろうし、このうだるような暑さと、刺すような日の光のせいでもない。一歩一歩足を踏み出すだけで、訪れる身体中の痛みと胸の苦しさ。これはひどい苦行だ。
    しかし、進もうと決めたのは自分だった。
    『お客さん、ほら、見えたぜ』
    そこから更に2時間ほど歩き続けたところで、ようやく目的地に到着した。私は強い疲労感で半ば意識が朦朧としていたが、案内人の声で我に返った。
    無限に広がっているようにも思える砂漠の中心に、美しいエメラルドブルーの湖があった。長旅に限界まで疲弊した私にとって、それは地獄の中にある唯一のオアシスのように見えた。
    (きれいだ)
    私は砂の上に立ち尽くしながら心の中で呟いた。
    (けど、この色じゃない)
    しかし残念ながら、それはやはり探し求めていたものとは違う。
    その湖に辿り着くまでは長かったが、そこから近くの街まではそう時間はかからなかった。
    世界遺産ともなる有名な観光地とはいえ、ちゃんとしたツアーだとしても、年に訪れる観光客は、多くて五百人程度だという。そんな場所だから、私の他には観光らしい人間は見当たらなかった。
    観光みやげの商店も、老齢の男が暇そうに頬杖をつきながらレジ番をしているだけで、人の入りはまったくない。
    ガラガラの店内を見て回ってみたが、土産物として置かれているのは、持っているだけでご利益どころか呪われそうな、土偶のような人形と、何が入っているのかよくわからない菓子だけだった。
    その他には、レジ横に何枚かのポストカードが置いてあった。その中にはあの美しい湖を上空から写したものがあったので、それを一枚だけ購入する。
    モーテルの狭い部屋の中で、私は買ったばかりのポストカードをしばらく眺めてから、そうだ、せっかくだし「彼」に送ろう、と思った。送ったところで、その相手に、果たしてこれが届くかもわからない。でも、今送らなければ、もうそういった機会は二度とないだろう。
    何を書くかはしばらく迷った。彼に手紙なんて書いたことはない。しかも彼と最後に話をしたのは十年前だ。何を伝えてもいいかもよくわからなかった。私はしばらく悩んだ末に、こんなメッセージを添えた。
    「もう世界のほとんどを旅してきたが、君の瞳より美しいものを、まだ見たことがない。」
    言葉の隣に名前は添えなかった。差出人は要らないと思った。
    先日、少し身体がおかしいということに気付き、軽い気持ちで医者にかかってみたところ、思いがけず「余命半年」の診断を下された。なんでも、大きな悪性の腫瘍ができていたらしく、手術で切り離すのが困難な状態になっていたらしい。
    それを聞いた家族は、「そんなの早すぎる、夏油様はまだ若いのに。信じられない、神様はなんて残酷なの」と嘆いたが、私はそうは思わなかった。何故なら、私はこれまでの人生で、悪いものをあまりにも多く身体に取り入れすぎていたからだ。
    それに、私という人間は、十年前に一度死んでいる。私が名前のない人間として、未だこの世に「在る」のは、ある男が、その心身のすべてを世界に捧げる代わりに叶えた、たったひとつの小さな我が儘にすぎないのだった。
    余命が残りわずかと知った私は、家族に別れを告げた。大義は敗れ、着の身着のまま国外へ放り出された私に、しかし失望することなく、共に世界を巡ってくれた家族には悪いことをしたが、私は最期の時を一人で過ごしたかった。誰にも邪魔されない場所で、ひっそりと死にたかった。
    「夏油様、貴方が私たちの初恋でした」
    さよならの時に、わんわんと大声で泣きながら、双子がたったひとつの秘密を打ち明けてくれた。
    「ありがとう」と私ははにかみながら答えた。それは信仰心の齎す錯覚だと知ってはいたが、そう言われるのはいくつになっても嬉しいものだ。
    しかし彼女たちはもう、理不尽な暴力に怯えうずくまる子どもたちではない。美しくて聡明な女性に成長した双子は、私の手を離し、己の選んだ人間と幸せを築いていくことができる。
    それはきっと、随分と先の話になるかもしれないがーーー。
    なぜなら、初恋というものは、得てして忘れ難いものだ。それは身に染みて知っている。
    そして余命残り一ヶ月。最後の旅を終えた私は、オーストラリアの海の近くに家を買い、人生の終着点とすることに決めた。
    その頃には、ほとんど寝たきりの生活に近かった。痛みや辛さの時期はもはや通り越していたが、代わりにひたすらに眠い日が続いていて、惰眠を貪ったまま1日を過ごすことが多々あった。眠っているあいだ、よく夢を見た。それは夢というよりは頭の中にある過去の記憶の再現で、走馬灯に近かった。
    同時に食事もあまり摂らなくなった。腹が空くことはあっても、味覚が壊れているのか、何を食べるにしても泥のような味がした。遠い昔によく口にしたものの味に似ていて、とても食べる気にはならなかった。栄養も摂らず、ただ眠るだけの生活。
    あるとき、ふと腕をじっと見てみると、昔とは比べ物にならないくらい細くガリガリになっていた。私は、自分がゆるやかに死に向かっているのを感じた。
    今日は久しぶりに体調がよく、海辺を散歩しようという気分だった。
    数ヶ月前には、それでも砂漠を乗り越えた。今は、たった数メートル歩くだけで息が切れた。
    ろくに歩きもしない生活では、当たり前の結果だった。
    長い時間をかけ、私は海に辿り着いた。
    まだ早朝だから、あたりに人の気配はない。私は波打ち際に立ち、手を広げ全身で潮風を感じる。
    朝の潮風は澄んでいて気持ちがいい。そしてなにより景色がいい。深呼吸を繰り返しながら、辺り一面の青い海を私は見渡した。
    私が死に場所に此処を選んだたったひとつの理由。
    この海の色が、いちばん彼の瞳の色に近かったからだった。
    (死の間際になっても、女々しいな、私は)
    私は自嘲の笑みを溢し、目を閉じる。
    五条悟という男がいた。
    その男は誰よりも美しく澄んだ青の瞳を持っていた。私はその色を誰よりも近くで眺めるのが好きだった。それは私にだけ許された特権だった。
    しかしそれを手放したのも私だった。それは彼の未来のための結果でもあったが。
    しかし、時折考える。あの青がまだ私のそばにあったらと。
    その眼で、私だけを見つめていてくれたなら、私の人生の終わりに、最後に映るのがあの美しい色彩であるのなら。それはどれほど幸せなことなのだろうと。
    「傑」
    ふと、誰かに名前を呼ばれた気がして目を開ける。まず最初に目に入った青の海面に、自分以外の人の姿があった。ゆるやかに揺蕩いながらも、そこに形成された姿かたちは、私が誰より望む人のもので。
    「…私も末期だな。悟の幻覚まで見るなんて」
    最初は寝惚けているのかと思った。起きながら夢でも見ているのだ。なぜなら眠っている時に見る夢は、いつも彼のことだったから。けれど、
    「人を勝手に幻覚にするなよ」
    と、勝手に喋り出したその水面の影に、どこかおかしいと気付き、私は振り返る。
    「悟」
    それは幻覚ではなかった。悟だ。五条悟が、いま、私の目の前にいる。もう永久に会うことはできないだろうと、そう思っていた相手が。
    確かに、そこに立っていたのだ。
    「呪術界のゴチャゴチャしたしがらみのせいで、会いに来るのがだいぶ遅くなっちゃった、ゴメン、傑」
    「なんで」
    私は呆然としながら呟いた。いまだに彼がそこにいるのが信じられない。
    「なんで、来たんだ」
    すると悟は少し呆れたように笑って、
    「それは、傑が俺に会いたいって言ってくれたからだろ」
    とおだやかな声で答えた。
    五条悟は記憶の中の姿となにひとつ変わりなかった。容姿も声もその笑い方も。十年前とまるで変わらない。それに対して私はひどく老けたし、ろくに食事も取らないから体は痩せ細り骨と皮だけ、肌も髪もボロボロだし、顔は青白く頬も痩せこけている、とても見れたもんじゃない、正直みっともなさすぎて今すぐ彼の視界から逃げたい、けれどもそんな風になってしまった私でも、たったひとつ、ただひとつ、変わりないものがあって、それが五条悟への愛だった。だから私はみすぼらしい姿のままだったとしても、彼を抱きしめるのを我慢できなかった。
    「ああ、会いたかったさ、ずっと…」
    吐き出した声は震えていた。あまりにも震えていたものだから、ちゃんと彼に届いているか不安になった。でも彼は、あまりにも薄く小さくなった私の背にそっと手を回して、こう答えてくれたのだった。
    「俺もだよ」
    呪術界を追放され、十年あまり。
    世界を巡りながら、ずっと君の面影だけを探していた。
    生きるなら君のそばがよかった。死ぬ時も君のそばがよかった。
    それだけが、私の人生のすべてだった。
    そしていま、世界で最も美しい青が、ここにある。
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    a_akai_chan

    MEMO男モブファン視点祓本夏五
    エロはまだない
    『ーーーじゃあ、今週はこの辺で。また来週お会いしましょう』
    『じゃあなーお前ら。放送見てくれてサンキューな』
    画面に映る二人の男が、締めの言葉を口にしながら手を振っている。
    「ふぅ…今日のじゅじゅちゅーぶ放送で投げたスパチャはざっと50万くらいか…記念放送だし、今日はいつもより多めに投げてみたけど、さとぴ、喜んでくれたかな…?」
    俺はパソコンの画面を確認し、ふー、と息を吐き出しながらデスクチェアの背もたれに深く背中を預けた。今をときめく超売れっ子芸人コンビ、祓ったれ本舗、通称祓本。
    そのコンビの結成一周年記念のネット生配信が本日行われたのだった。俺は結成時から祓本を追っていたファンのひとりと言うこともあり、いつもよりサービスの多い記念放送は、俺にとっても有意義なものだった。
    「それにしても、今日のさとぴも可愛かったなァ…」
    俺は今日の放送でのさとぴの天使のように可愛い顔を思い出し、胸いっぱいに沸き上がる幸福感を噛み締めた。
    祓ったれ本舗。名もないルーキーから瞬く間にのし上がり、現在は人気絶頂の漫才コンビ。俺はそのコンビの片割れ、五条悟(なお、ガチファンの間での呼称は『さとぴ』である)と 6629

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