硬くて柔らかな君が「ファット!見てください!」
嬉しそうに声を上げ、雑誌を掲げて切島がデスクにやってきたので。パソコンでまとめている経費の一覧との長い戦いを放棄して、なんやなんやとファットガムは顔を上げた。
「ほら!」
ずい、と興奮気味に広げられたページを覗き込めば、そのタイトルにファットガムは、やっと気付いたかと思わずにやんと笑う。この雑誌はつい昨日、事務所に出版社から直接送られてきたものだ。うちに所属してるヒーローが載ってるからと。事前に内容も聞いていたが、驚かしてやろうと切島には秘密にして、そっと事務所の雑誌を入れるラックに忍ばせていた。
「俺、硬派なヒーローランキングで三位でした!」
横のコメントに、漢気があるから、って書いてる!と嬉しそうににこにこ笑う。
「さすがやなあ、さすがうちの烈怒頼雄斗やわ」
派手にババンと真っ赤な飾り文字で書いてあるのを見て、ファットガムも思わず頬を緩めた。こういう、勝手なヒーローランキングはあちこちの雑誌でやっていって、女性誌ではやれモテだのイケメンだのヒーローの資質とは関係ない部分を誉めそやすものが多いが、この雑誌はそういった流行りものの雑誌ではなく、若干レトロなお堅めの経済情報誌だった。切島は、女性にキャーキャー騒がれるよりもこういう評価のほうが嬉しいというのだから、モテを意識していた若い頃の自分を思い出し、ファットガムは少しばかり恥ずかしくなる。
まあでも、と。嬉しそうに天喰や、事務員に見せに行く切島の後ろ姿を見てファットガムは微笑んだ。
硬派で、かっこよくて、個性も硬化の彼が。
とろとろに蕩けて柔らかくなって、硬派も漢気も吹っ飛んじゃうくらい可愛くてエッチになることを、自分だけが知っている優越感。
「――体力おばけなとこだけ、ちょっと、漢気言うか体育会系って感じするけどな」
一人でそう呟いて、にやにやと思い出し笑いしてたら、気持ち悪い笑い方しないで早く経費まとめて出して、と天喰の容赦ない叱咤が飛んできた。