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    kyosato_23

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    kyosato_23

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    前にちょっとだけ書いた、教官の元部下がカトルス教徒になって教官への薄暗い気持ちを教祖に駆け込み訴えするネタ。フォカ←モブ→フォルみたいな

    ああ本当に腹立たしい。あの男を見ているとその言葉だけが俺の腹の中を満たすのです。
    ええ、そうです。以前より何度か、教祖様にお話ししていた、あの男です。
    あの男はもうすっかり基地の重鎮気取りで、俺のことなど目にも入れません。いつも険しい顔で怒声を張り上げて、俺たちに口やかましく指図をするのです。その目に俺は映ってなどいません。うだつの上がらない俺ごとき、あの男が指揮する兵士の一人にしか過ぎないのでしょう。俺は全体の中のほんの一人でしかない。


    あの男はこの辺境の防衛基地に突如として現れたのです。当初は誰も気に留めませんでした。新入りがやってくるのはたいてい一ヶ月に一度のペースで、恐ろしい魔物との戦いで戦死した兵士の数を補填する以外の目的はありませんでした。いつも送り込まれるのは十人から二十人程度。戦死者はこの基地が出来て以来じわじわと数を増やしていて、今では送り込まれる数よりも戦死者の方が多く、当然常駐する人数も少しずつ減っていました。いずれは自分もそうなる。そしてどんどん戦死者と新入りの数の差は開き、やがて来たそばから死んでいって、誰もいなくなるのだろうと思っていました。
    あの男も最初はそんな哀れな新入りの中の一人に過ぎないと疑いませんでした。
    ところがあの男は基地に来た途端、隊長から手厚く歓迎され、下にも置かない扱いをされました。新入りに過ぎないと思っていたあの男が俺たちの訓練の教官となり、戦闘の指揮をとると言うのです。
    冗談じゃないと思いました。年齢は高く見積もってもせいぜいが二十の半ばほど。俺より十歳近く年下の若造なのです。背丈は俺よりもありましたが、細面の若造でした。戦闘の指揮はおろか、まともに敵と戦えるとは思えない。その若造に俺たちの命を委ねると隊長は言うのです。俺たちの命は隊長の酔狂であの男に売られたのだと恨みました。



    ああ、何度話しても腹立たしい。あの男がここへやってきたあの日。
    あの男は証拠を見せると言って、俺たちが数人がかりで苦心して追い払う魔物をあっさりと一人で討ち取りました。その顔がどんなだったか、教祖様にはお話ししたでしょう。平然としたものでした。高揚もない、俺たちを見下すような高慢さもない、ただ当然のことをしたまでだと言わんばかりの鉄面皮のままで、俺たちの前にその戦果を放り出しました。
    そうです、見下しすらしなかったのです。喜びすらしなかったのです。俺たちが必死になっても到底挙げられない戦果を前に、何も、何も!


    当初は俺も含めて誰もが諸手をあげて喜びました。当然です、これ以上ない戦力が投入されたのですから。これで死ななくてもすむかもしれない。その晩の歓迎の宴では皆口々に呟いていました。あの男は最初の一杯に口をつけた後は酒の一つも飲まないどころか、早々に席を立ちました。明日は早いのだと告げて。なんと生意気で愛想のない態度でしょうか。
    ああ、ああ、本当に可愛げのない若造です。愛想笑いの一つもしやしない。教祖様のお優しい笑みと比べればまるで鉄塊と真珠だ!
    ああ、いいえ、教祖様とあの男を比べるなど、なんと恐れ多い。いいえ、いいえ、違うのです。こうして教祖様の前にこうべを垂れて話を聞いてもらっていると、時折、教祖様の声があの男とどこか似ているような気がして。まさかそんなはずはないのに、私はなんと、愚かなことを。
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