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    kyosato_23

    @kyosato_23

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    kyosato_23

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    アニメのフーゴママがめちゃくちゃ好みだったので描いた話です。
    過去捏造あり、薄暗め、なんでも許せる人向け。

    書きかけのフーナラ



    (僕らはたくさんの悩みと呪いと祝福を絡み合わせながら愛し合っている)



    キスをしたいと、思ったのだけれど。
    ナランチャの綺麗な黒髪越しにワインボトルとグラスに注がれた毒々しくさえ見える液体が視界に入って、フーゴ は脳の海馬に氷を突き立てられたような気持ちでナランチャの肩を押した。

    「フーゴ?」
    「ごめん、飲んでる時は、」
    「あぁ……」

    フーゴは酒を飲んでいる時は絶対にナランチャに触れない。これほど愛おしいと思った瞬間にですら、触れられない。
    以前にも数度断った事があるのでナランチャもそれは知っていて、不服ながらも体を引いた。
    酒を飲んでいる時は抱き締める事すら拒絶するフーゴに対して強引に迫った試しがあったが、あまりにもフーゴが取り乱して必死に止めるよう懇願するものだからさしものナランチャも諦め、それ以来おとなしく引いてくれる。
    フーゴの錯乱が常のような怒りと凶暴性からくるものならナランチャも食ってかかっただろうが、あまりにも幼子のように寄る辺ない有様だったのを見てしまうと踏み込めない。それは攻撃性の裏に潜む、フーゴのとても繊細な部分から漏れ出すものだと思ったからだ。
    トラウマ、というのだろうか。
    一言で表すならきっとそうなのだろう。


    (ナランチャ、君は……覚えていないのか?いや、それとも気付いていなかったのかな)


    (もしくは、彼の父はお酒を飲まなかったのか?)







    (僕たちは、僕が君を拾うよりずっと昔に、会った事があったんだよ)


    フーゴが8歳の頃、ピアノの発表会の後に会場を出て通りを歩いていた時の事だった。
    父は仕事で翌々日まで不在で、付き添いの母と共に何か食事をとって帰ろうという話になった。母が珍しく機嫌がよくて優しかったものだから、フーゴは胸を撫で下ろしていた。フーゴの演奏、そしてそれに対する喝采が母の合格ラインを無事に超えていたのだろう。
    素晴らしかったわ、と見知らぬ貴婦人が花束をフーゴへ贈ってきたのも母のは気を良くした。母の好きな薔薇の花束だった。
    フーゴ自身を褒めている訳ではない、ただ彼女が満足したから機嫌がいいだけなのだと理解していたが、ミスを繰り返し反芻しては責められるよりずっとマシだった。
    ふと、母の硬質なヒールの音が止まった。
    「まあ、ギルガさん、」
    俯き気味に歩いていたフーゴが顔を上げると、ギルガと呼ばれた男が母を振り返り、愛想良さそうにこれは奥様、と会釈した。
    その顔に薄っすらと覚えがあった。家の庭を歩いているのを何度か見かけた事がある。庭木の手入れに来ている庭師だった。父も母も殊更に庭の出来について褒めた事はなかったが、ずっと家に出入りを許されているのなら腕はそれなりのようだ。
    「奇遇ですわね、今日はどうしてこちらへ?」
    庭師の愛想に対して母も愛想よく返したのにフーゴは驚いた。使用人に対する氷の怜悧さで返すとばかり思っていた。機嫌がいいを通り越して、浮かれているに近いように見えた。
    庭師のギルガの横にはフーゴと同じ年頃の少年が佇んでいた。黒い前髪の隙間から見える瞳は不安そうに揺れ、所在なさげに時折ギルガを見上げる。ギルガの息子だろうか。
    フーゴは持ち前の洞察力で、彼が自分と似た境遇である事を察した。親である筈のギルガと少年の間に明確な距離が見て取れる。

    母の問いに対してギルガはええ、まあ、と言葉を濁した。その態度をフーゴは少し嫌だと感じたが、母は気にした様子もなくそうですか、と笑う。完璧主義の母らしからぬ寛容さだ。
    「ギルガさん、もしよろしければ花壇に植える花について相談をしたいのですが、この後のご都合はいかがかしら?」
    今度はフーゴが不安げに母を見上げる番だった。
    これからとは。
    今日はこの後自分と食事に行くのではなかったのか。
    まさかこの男も同伴させるのだろうか。
    久し振りの母との食事だと、母に劣らず浮き足立っていたフーゴの心が途端に重くなる。
    だが母の言葉は想像よりもっと鋭利だった。
    「……聞いてたわね、母さんこれから少しギルガさんとお話をしてくるから、先に帰っていなさい。お金は持ってる?そう、タクシー乗り場までは一人で行けるわね、」
    母は自分ではなく、偶然会っただけの庭師を選んだのだ。
    「……」
    嫌だと口にする自由はフーゴにはなかった。失望を見咎められないように俯き気味のまま小さくわかりました、と呟くしか選択肢はない。

    「ああ、ナランチャ、お前も先に帰りなさい」
    ギルガが素っ気なく少年へ言葉を投げる。ずっとそこにいたのにまるで今気付いたかのような口振りだった。
    俯いたフーゴと対照的に少年は弾かれたように顔を上げ、父を睨んだ。
    「帰ってろ、だって……!?」
    悲しみと怒りに沸くその瞳はフーゴと同じ色をしていた。
    ギルガは食ってかかろうとする少年を意にも介さず、母へ向かって再び愛想笑いを貼り付けた。その目は一度も少年を見なかった。
    「そうね、一緒に帰りなさい。送ってあげるといいわ、」
    そう言う母ももうフーゴを見てはいなかった。
    少年は泣きそうに顔を歪めたかと思うと、突然走り出してギルガ、母、フーゴの横をすり抜けて行った。
    「おい……!?」
    その勢いに驚いたが、少年の走り去った方向がタクシー乗り場でも駅でもない事に気付いてフーゴは慌てた。自暴自棄になっているように感じたからだ。
    もう自分たちを見ていない親たちを横目に見ながら少年の後を追った。

    ナランチャと呼ばれていた少年は足が早かったが、幸い小柄な分歩幅は小さかったしすぐに息切れして失速した。無事に追いついたフーゴは胸を撫で下ろした。このままナランチャを見失ったら彼を探し回らないといけないところだった。
    ナランチャの背中はゼイゼイと上下して震えていて痛ましく見えた。フーゴの方もやや上がった息を整えながらその背中に声をかける。追っ手の足音には気付いていたようで、驚く事もなく返事をした。
    その返事が先程の父親と同様に無愛想だったので内心少し苛立ちを覚えたが、自分より小さな子供相手に大人気ないと心の奥へ押し込める。

    「その、僕はもう帰るところなんだけど、良かったらタクシーで送るよ」

    女の子を誘うみたいだな、と少し苦笑混じりになる。それに対して今度はナランチャがグッと顔を歪ませた。
    その表現の意味は測りかねた。
    人見知りでフーゴの事が信用ならないのか、父親に置いていかれて寂しいのか。
    そう言えば先に帰れと促した父に反抗的な目線を向けていた。
    フーゴは母に対してもう諦めてしまっていて、母の望む通りのいい子を演じて俯いてしまうのだけれど、彼はまだ父親に対して諦められないでいるのかもしれない。そう思うと無性に胸を締め付けられた。

    「……っ帰らない、から」
    「え?」
    「病院!今から行くところだったんだ!だから、帰らないからな!」
    「病院って、どこ?君、もしかして具合が悪いの?」
    「俺じゃない!」
    叫ぶとナランチャはついに目から涙を零した。ひゅうと息を大きく吸い込んだかと思うと小刻みに嗚咽を漏らす。
    フーゴは自分の失言を恨んだ。病院へ行く理由が彼の不調であるにしろそうでないにしろ、デリケートな話題に不躾な質問をしてしまった。

    だって、仕方ないじゃないか。

    (早く彼を送って、僕だって家に帰りたかったんだ、早くベッドに潜り込んでしまいたいんだ、)

    フーゴがいつも年齢相応の子供に戻れるのはベッドの中でだけだったが、目の前で泣くナランチャに引き摺られて感情が堰き止められなくなりそうだった。

    僕だって寂しい。
    それなのに自分だけ我儘を言うなんて勝手な奴だ。
    ああ、いや、でも彼だって置いて行かれた側だ。
    悪いのは彼じゃなくて僕の母と彼の父なんだ。
    じゃあ僕はどうすればいいんだ、どうしたら良かったんだ。
    母を憎めばいいのか。

    頭の中で様々な色の毛糸がこんがらがったようになって、フーゴは泣きたいのか怒りたいのかわからなくなって、そして結局は俯くしか出来なかった。彼みたいに母を睨んだり、所構わず泣く事が出来れば良かったのかと自問自答するが、きっとそうしたところで母には何一つ響かないのはよく知っている。
    母を憎めない代わりに腕の中の薔薇の花束が憎らしくなった。
    そして素直なナランチャも少しだけ憎らしかった。
    だから思わずその花束をナランチャに叩きつけた。



    *********



    (自分の親が不倫相手と寝た時に酒を飲んで帰ってくるので酒を飲んでの行為に嫌悪感があるという話)

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