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    とりさし🐣

    じゅ 五甚にどっぽん

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    とりさし🐣

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    ※本誌バレ有 +存在しない記憶
    直甚 (直9才と甚16才くらいの気持ちで書きました)

    #直甚
    very

    ガン、と大きな衝撃音がした。
    入るなと言われている隅の小部屋からだ。目を音の鳴った方向に向けると、「見てはなりませんよ」と先を急かされる。

    「彼処、なんで入ったらあかんの」
    幼少期に別れた母親の方の言葉を真似たこの口調を、家の人間はあまり良い顔をしない。突然いなくなった母が、どういう理由で居なくなったのかは知らないが、まるでその面影を追うようで嫌なのだろう。まだまだ子どもなのね、と勘違いも甚だしい感傷を抱く奴もいれば、あの女を思い出して胸糞悪いと陰口を叩く人間もいた。勿論、家の連中が嫌がるから、わざわざ母の言葉を真似てやっているわけだが、どうやらこの家で父だけが俺の意図を正しく理解しているようだった。この家にはきっと、碌な奴が居ない。

    世話係の女が、「ご当主がお呼びですよ」と急かしたが、音の正体の方が気になっていた。もしかしたら、少し自信があったのかもしれない。術式をうまく扱えるようになって以降、父からの期待は兄弟の中で一番受けていたから、自分は優秀なのだということを知っていた。ジャリ、と足が隅の小部屋へ向く。

    「彼処は、入ってはならない部屋です。お伝えしている筈」
    「だから、それが何でなん?って聞いてんねん」
    今、でっかい音鳴ったよなぁ、とその部屋の方へ歩いていく。制止する女の声を振り切って、砂利の上を歩いていく。ジャリ、ジャリ、と一歩ずつ踏みしめていく音がやけに高揚を煽る。当主の一番期待掛けられてる息子に隠すものって何?入ったらあかんて、何?どえらい呪霊でも飼うてんの?
    禪院の敷地内には結界が張られている為、呪霊の侵入は出来ないことになっている。しかし、低級は話が別だ。低級は侵入できる代わりに、2級以上の呪霊の侵入は拒めるよう結界の強度を高めている。居るとしても低級だ。稀な能力だとかそういう類で生かされているのだろうか。
    行くなと言われる理由は何だ、時折鳴るデカい音の正体はなんだ。

    「直哉様!」
    「…うっさいねん」
    閉められた障子の奥は電気がついていない。しかし、微かに人の気配を感じる。呪霊、ではない。
    どく、と心臓が脈を打つ音が大きく身体を駆け巡る。緊張?まさか。この俺が。
    異様な気配だ、障子越しにも伝わる。ただの人だろ。
    手を掛けて、障子を開く。


    「……今度は、ガキの相手か?」
    その奥から、低く温度のない声が聞こえた。ぞわりと背筋が震えた。人間だぞ。ただの人間相手に、この俺が。

    僅かに開けた障子の向こう、陽の光が陰の中に潜む人間を照らした。男だ。薄暗い中に光る翡翠の目、闇に紛れるような黒い髪。異様な雰囲気だった。思わず、妖怪、と非現実的な言葉を思い浮かべてしまうほど。
    「…に、人間…」
    確認するように呟いた一言を、中の男は聞いていたらしく、クク、と喉の奥で笑うような音を出した。
    「人間、に見えたか?」
    ならお前の目は節穴だ、と男は言う。

    「は、どういう、意味」
    どく、どく、と心臓が高鳴る。言葉を交わしてはいけない気がする。なにかを奪われてしまうような恐ろしさがあった。男から目を逸らせず、ずるりと足元を這う音に気付く余裕もなかった。
    「!」
    そちらに目を向けると、芋虫のような形状をした呪霊が男の足元を這いずって、身体に巻き付こうとしていた。低級だ。目が合ったが逃げずに男目掛けて進んでいる。よくよく見れば足元に、他の呪霊が倒れていた。消滅はしていない、祓われていない…?しかしどう見ても戦闘不能だ。まさか、殴って…

    「…オイ!」
    呪霊が男の脚を、腹を登って行く。どういうつもりだ、この男はそれを甘んじて受け入れている。呪霊は敵だ。忌むべき敵だ。この家に育った者はその忌むべき存在を屠る為に、生まれ落ちた瞬間から、己の尊厳と地位と価値を賭けている。
    そんな家で、そんな場所で、この男は。
    「………、」
    愛でるように呪霊を撫でて、気色悪い音を発するそれに向かって「いい子だ、少し黙ってろ」と話しかけている。呪霊は敵だ、忌むべき存在だ。何故、この禪院に生まれて、そんな事ができる。

    頭を割られるような衝撃だった。
    訳がわからない。
    は、は、と浅い呼吸を繰り返している。目を離せずに汗を垂らす俺を見て、「どうしたよガキ、入らねぇのか?」と口元が歪む。陽の光が部屋に差し込んで男の顔が見えた。本来はきれいな造りの顔なのだろう、しかし今は、目元や口元が青紫に腫れている。

    「…オマエ、あの老害のとこの末っ子か?」
    はた、と気付いたように男が此方を見る。老害、ああ、オヤジのこと。小さく頷けば、その腫れていないほうの切れ長の目がゆっくりと細められた。
    「入れよ、遊んでやるぜ」

    呪霊をまるでペットのように扱う男。この異様な男を相手に、どうして良いのか分からず立ち竦んでいると、ジャリ、と背後から足音が迫った。

    「甚爾!身の程を弁えなさい!障子を閉めるのです!」
    絶叫するように走ってきた世話係の女の声で、ハッと我に返る。僅かに開けられていた障子をゆっくりと、まるで見せつけるようにして閉められる、その最後の瞬間まであの翡翠を見つめていた。


    入ってはいけないと言われている隅の小部屋には、男が住んでいる。時折鳴るあの衝撃音は、きっと、男が呪霊を殴り殺す、音だ。
    とうじ、と女は口にした。男の名前だろうか。彼の存在を、兄たちは知っているのだろうか。

    「…とうじ」
    口にすると、酷く気分が高揚した。
    翡翠の目と異様な雰囲気は、影に潜む、肉食獣のような鋭さだった。今まで目にしたどんな呪霊より、ここのどんな術師よりも、首元にひたりと突きつけられる刃物ような恐ろしさがあって、命の危機を感じた。しかし異様な圧迫感はあったが、不思議と呪力の類は感じなかった。何者なのだろう。

    世話係の女が、道を戻りながら、
    「…あれは魔性の類です、くれぐれも今後関わりになりませぬよう」と言う。
    男は、遊んでやるよと言った。入るなと皆が言う部屋に、「入れよ」と囁いた。あのとき、噴き出した汗の冷たさをまだ肌が覚えている。

    アホやな、此奴ら。入るな言うから、入りたなんねん。


    そして、月に一度の会合の日、お茶を汲む見慣れない男の姿に、明るい光の下で見るその鋭い翡翠に、息を飲むことになるのはまた、別の話。
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    とりさし🐣

    MAIKINGセレンディピティ設定 五甚 10
    マッマとの思い出/初めて自分から五に近付いてしまったと〜じ
    10.



    泣き止まない声、真っ赤になった顔、可哀想なくらい、握り締められた手。
    狭いアパートで、昼寝から起きた子どもはよく泣いた。子どもは酷く泣き怒っていたのに、ゴメンねまだ眠たいよね、と母親が抱けばすぐに泣き止んだ。子どもはとても些細な事でよく泣いたしよく怒った。その度にあいつは「ゴメンね」と言って抱き上げた。その言葉を待っているかのように、子どもはそれを聞いて、今度は甘えるように抱き着くのだ。
    「なんでお前が謝んだよ」
    「え?」
    「恵に」
    不思議に思っていた事を聞けば、予想外のことを聞かれたとばかりにあいつはうーん…と考え込んでしまった。無意識に謝ってるのか、と思っていたら、ぱっと顔を上げたあいつが、
    「考えたこと無かったから分かんないけど、恵が困って泣いたり怒ったりしてることは、ちゃんと私たちがどうにかしてあげられるよ、だから安心してって教えてあげたいの」
    ごめんねって言うのは、ちゃんと私たちの力が及ぶ事柄にしか使わないでしょ、と言った。訳が分からず、首を傾げた自分に「うーん例えば」とあいつが、眠る恵の柔らかな髪の毛を撫でながら、
    「恵が空を飛びたいって言うとするじゃない?」 4940

    とりさし🐣

    MAIKING高専 五甚(五2年×甚3年の幻覚)
    交流戦と直の横やり / 終始ふざけています
    あ、やべ。面倒なものがくる。
    教室で甚爾が立ち上がってから出口までかかった時間は僅か2秒ほどの出来事だった。
    ガラ、と古びた引き戸を開け放つと前には壁、もとい大きな体がぬっと現れた。
    遅かった。甚爾は舌打ちをして、すぐさま踵を返そうとしたところでその壁、こと五条に肘を掴まれて、そのまま無言でずるずると廊下を引き摺られていく。

    「…………」
    甚爾が突如立ち上がって出口を目指してからのこの1分にも満たない出来事を、甚爾のクラスメイトたちは一部始終みていたが、触らぬ神に祟りなし。どういうわけか知らないが、呪術界最強の力を誇る年下の男に好かれてしまったらしいクラスメイトに、羨んだら良いのか哀れんだらよいのか、今ひとつ分からないまま、静かに心の中で手を合わせた。そもそも五条の気配を察知して逃げる甚爾も甚爾だ。逃げるから追われるのだ。普段からさして素行の宜しくないクラスメイトのこと、なにか五条の腹に据えかねるような事でもやらかしたのだろう、と特に興味もないが、そう結論づけた。


    来る、と察知してから此処へ来るまでに2秒も掛からないのは狡い。こっちは術式とか人間離れしたモンは使えねーんだぞ、と引 5206

    とりさし🐣

    MAIKING※本誌バレ有 +存在しない記憶
    直甚 (直9才と甚16才くらいの気持ちで書きました)
    ガン、と大きな衝撃音がした。
    入るなと言われている隅の小部屋からだ。目を音の鳴った方向に向けると、「見てはなりませんよ」と先を急かされる。

    「彼処、なんで入ったらあかんの」
    幼少期に別れた母親の方の言葉を真似たこの口調を、家の人間はあまり良い顔をしない。突然いなくなった母が、どういう理由で居なくなったのかは知らないが、まるでその面影を追うようで嫌なのだろう。まだまだ子どもなのね、と勘違いも甚だしい感傷を抱く奴もいれば、あの女を思い出して胸糞悪いと陰口を叩く人間もいた。勿論、家の連中が嫌がるから、わざわざ母の言葉を真似てやっているわけだが、どうやらこの家で父だけが俺の意図を正しく理解しているようだった。この家にはきっと、碌な奴が居ない。

    世話係の女が、「ご当主がお呼びですよ」と急かしたが、音の正体の方が気になっていた。もしかしたら、少し自信があったのかもしれない。術式をうまく扱えるようになって以降、父からの期待は兄弟の中で一番受けていたから、自分は優秀なのだということを知っていた。ジャリ、と足が隅の小部屋へ向く。

    「彼処は、入ってはならない部屋です。お伝えしている筈」
    「だから、そ 2578

    とりさし🐣

    MAIKINGセレンディピティ 設定 9
    ようやく五→甚 になってきました
    9.猫

    案外、熱心な性格をしている。

    用事を終えて家に着いた五条は、部屋から甚爾の声がする事に気付いた。電話も無い。靴は甚爾のものしか無い。一人のはずだが、一体何をしているのだろうかとリビングに続くドアを開けた五条は、何やら戦闘モードの甚爾とソファの上に乗る黒いものを見つけた。

    「…え?」
    「おい坊、ドア閉めろ!」
    甚爾に言われるがままに玄関に続くドアを閉めたが、改めてこの奇妙な光景に五条は目を丸くさせた。

    「え?なんで?」
    「こいつおれのアテをパクリやがった!」
    「え?」
    「楽しみにしてた子持ちシシャモ最後のひとつをだぞ?!」

    信じられるか、と憤慨する甚爾は既に顔が赤く、いつもよりも目尻が垂れている。酔っ払っている時のサインだ。ローテーブルの上にはビールの缶が置いてある。その横の皿にあった子持ちシシャモをとられた、ということらしい。

    ——この黒い猫に。

    「え、なんで?」
    「あっ!てめ!セコイんだよ!ソファの下に逃げてんじゃねぇ!」
    ソファを持ち上げんとする勢いの甚爾を後ろから羽交い締めにして止める。ジタバタと動いて怒っているが、五条はいまいち状況についていけていない。
    5732

    とりさし🐣

    MAIKINGセレンディピティ設定 五甚 88. 懺悔の夜



    パスタが食べたい気分だなぁ、と思ったが甚爾がカレーの材料を探している気がする。いやハヤシライスかもしれない、もしくはシチューの可能性もあるが昨日シチューだったのでそれは無いと願いたい。
    「…甚爾」
    「あんだよ」
    あ、呼び捨てすんなって言わなかった。考え事をしているのかもしれないが、初めてお許しが出た。
    「ねぇ、買い物行かない?」
    「は?おれとオマエ二人でか?」
    「そう」
    「あー?めんどくせぇ、一人で行けよ」
    こうなることは予測している。しかし今晩の夕食が懸かっているのだ、こちらにも抜かりはない。
    「僕下戸だから、甚爾が自分で選んでくれないとアルコールは買わないよ?」
    「行く」
    甚爾はその誘い文句で即決したらしく、僕のスエットを着たままで、坊はやくしろよ、なんて機嫌良さそうに玄関で待っている。こういう無邪気さが、案外ズシンとクるのだ。最近は心臓が誤作動を起こす度に、天逆鉾で喉ぶっ刺された衝撃を思い出すことに徹している。



    カートを押す役を僕がやろうとしたが、甚爾が食材をとるとなると人参・じゃがいも・玉ねぎ・肉、といったお馴染みすぎる食材になると思ったので、甚爾に 3076

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    とりさし🐣

    MAIKING※本誌バレ有 +存在しない記憶
    直甚 (直9才と甚16才くらいの気持ちで書きました)
    ガン、と大きな衝撃音がした。
    入るなと言われている隅の小部屋からだ。目を音の鳴った方向に向けると、「見てはなりませんよ」と先を急かされる。

    「彼処、なんで入ったらあかんの」
    幼少期に別れた母親の方の言葉を真似たこの口調を、家の人間はあまり良い顔をしない。突然いなくなった母が、どういう理由で居なくなったのかは知らないが、まるでその面影を追うようで嫌なのだろう。まだまだ子どもなのね、と勘違いも甚だしい感傷を抱く奴もいれば、あの女を思い出して胸糞悪いと陰口を叩く人間もいた。勿論、家の連中が嫌がるから、わざわざ母の言葉を真似てやっているわけだが、どうやらこの家で父だけが俺の意図を正しく理解しているようだった。この家にはきっと、碌な奴が居ない。

    世話係の女が、「ご当主がお呼びですよ」と急かしたが、音の正体の方が気になっていた。もしかしたら、少し自信があったのかもしれない。術式をうまく扱えるようになって以降、父からの期待は兄弟の中で一番受けていたから、自分は優秀なのだということを知っていた。ジャリ、と足が隅の小部屋へ向く。

    「彼処は、入ってはならない部屋です。お伝えしている筈」
    「だから、そ 2578