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    とりさし🐣

    じゅ 五甚にどっぽん

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    とりさし🐣

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    セレンディピティ設定 五甚 10
    マッマとの思い出/初めて自分から五に近付いてしまったと〜じ

    #五甚
    fiveVery

    10.



    泣き止まない声、真っ赤になった顔、可哀想なくらい、握り締められた手。
    狭いアパートで、昼寝から起きた子どもはよく泣いた。子どもは酷く泣き怒っていたのに、ゴメンねまだ眠たいよね、と母親が抱けばすぐに泣き止んだ。子どもはとても些細な事でよく泣いたしよく怒った。その度にあいつは「ゴメンね」と言って抱き上げた。その言葉を待っているかのように、子どもはそれを聞いて、今度は甘えるように抱き着くのだ。
    「なんでお前が謝んだよ」
    「え?」
    「恵に」
    不思議に思っていた事を聞けば、予想外のことを聞かれたとばかりにあいつはうーん…と考え込んでしまった。無意識に謝ってるのか、と思っていたら、ぱっと顔を上げたあいつが、
    「考えたこと無かったから分かんないけど、恵が困って泣いたり怒ったりしてることは、ちゃんと私たちがどうにかしてあげられるよ、だから安心してって教えてあげたいの」
    ごめんねって言うのは、ちゃんと私たちの力が及ぶ事柄にしか使わないでしょ、と言った。訳が分からず、首を傾げた自分に「うーん例えば」とあいつが、眠る恵の柔らかな髪の毛を撫でながら、
    「恵が空を飛びたいって言うとするじゃない?」
    「…………おう」
    「例えばよ?!いや子どもはきっと高確率で言うと思うんだけど…。そのときには、わたしはきっと謝らないと思うの、ビックリしたり一緒に考えたりはすると思うけど」
    だって、それはわたしにはどうにもできないことでしょ?と言った。ああ、なるほど。なんとなく、言いたいことは分かってきた。
    こいつが謝る事柄は、こいつがどうにかできることだけだ。こけて泣いても、嫌いな野菜がでて怒っても、眠たくて泣いても、どうにかしてやれるから、「ごめんね、大丈夫大丈夫」とあやすのだ。そんなにチビの頃から謝られ慣れてたら将来ふてぶてしい野郎になるだろ、と軽口を叩けば、「そうなったらきっと、甚爾くんに似たってことね」と嬉しそうに笑った。



    恵をよろしくね、と言ったあのとき、あいつは謝らなかった。自分にはもうどうにもできないと知っていたのだろう。
    昼寝から起きた子どもが、顔を真っ赤にして泣く。ごめんね眠たいよね、と駆け寄ってきてくれる母親はもう居ない。甲高い泣き声、真っ赤な顔。仕方なしに抱き上げると仰け反ってばたばたと暴れた。わかるよ、こうじゃねぇよな、と子どもに心底同情した。
    自分じゃどうにもできないものを収めて欲しいのだろう、恵は些細な事でとてもよく泣いた。死んだことを理解しているとは思えなかったが、いない事には気付いている。あいつが居なくなってから、恵は更にひとりを怖がるようになった。あの頃にはもう見えていたのかもしれない。見える側の人間の恐ろしさは分かってはやれない。おれは猿だ。
    それでも、誰もそばに居ないよりはマシだったのだろう。恵はおれの指を手を掴んで、朝まで眠った。

    おそろしいと、思った。
    向けられる目が、目が合うとにこりと笑うその丸い顔が。伸ばされる、柔らかい腕が。
    守らなくてはならないのだ。あいつのことさえ守れなかったのに、おれは何も持たずに生まれたのに、何も与えることはできないのに。このガキすら守れず、この手からこぼれ落ちてしまったらと考えると、とても恐ろしかった。
    自分の元には居ても居なくてもどちらでもいい、そんなことは大きな問題じゃない。
    このガキは恵まれて生きればいい。あいつが遺したものだ。

    狭い部屋に、何も持たない猿と二人、このまま大きくなって、何になる。このガキは恵まれるのだろうか。
    このガキに才能があるならば、禪院で育てて貰える。もし相伝でなくても、どうにか呪術をものに出来るとこまでは育ててくれるだろう。そのあとはテメェで生きればいい。
    何にせよ自分の所に居るよりマシだ。

    なんで禪院ぶっつぶさないの、と前に五条は言った。五条にとってはただの興味だったのかもしれない。
    おれにとってはゴミ溜めでも、恵まれたガキなら、もしかしたら。そう思ったからだ。猿と馬鹿にして蔑んだ男から、相伝のガキが生まれたとなれば、それを育てる羽目になったら、面白いと思った。ザマァみろと、思った。

    おれにはどうにも、できないのだ。
    何をしてやれば泣き止むのか、何をしてやれば喜ぶのか、何をしてやれば、この子どもが困らずに生きていけるのか。
    知っているのはあいつだけだった。
    おれにはその術はない。何も持たず、何も与えられない透明人間だった。



    何か、ザラザラした感触が頰を撫でた。
    目を開けて、真っ黒な猫が視界いっぱいに飛び込んでくる。朝、じゃない。五条の野郎が居なかった。
    そうだ、彼奴は朝早く何処かへ行ったのだ。競馬へ行こうと思ったが持ち金がなく、五条が帰るのを待っているうちに眠ってしまっていたらしい。
    起こしたことで満足したのか、胸の上で丸くなって眠る猫の頭を撫でてやる。
    「…起こしてくれたのか?助かったぜ」
    お前は賢い奴だな、と背中を撫でる。

    なんで今更こんな昔のことを思い出したのかと思っていたが、そうか、きっと
    「おまえの所為だな?」
    黒猫は指に耳を擦り付けた。
    猫に名前をつけなかった。名前なんてつけないほうがいい。そしたら五条が「僕がつけようか」と言った。
    死に際に好きにしろと言ったが、あの男と、ガキの、恵の話をした事はない。

    ここの生活は快適だった。
    愛想を良くする必要もなければ、気をつかう必要もなく、女みたいなぐちぐちと長い愚痴も聞かない、化粧品の混ざり合ったにおいもしない。何より、身体も心も、何も求められない事は楽だった。与えることのできるものなど一つも無いのに、与えるふりをするのは酷く疲れる事で、虚しいことだった。空っぽな自分のことを思い知らされる。だからいつも女のところで、特別を求められるようになれば潮時だった。五条との関係にはそれが無い。何も求められずに、ただ、同居人として此処にいる。その事を少し、不思議にも思う。五条は何故自分を追い出さないのか。目的の為に利用価値があると判断されているにしても、同じ家に住まわせておく必要はない。増してやかわいい女でもないのだ。むきむきのおっさんだ。最近ではそばにいることが当たり前みたいに横に座って、一緒に買い物に行ったりもする。
    「…………物好きなのか?」
    ふと、この環境は酷く居心地の良いものである事に気が付いた。遊ぶ為のお金もくれるし。
    自分に話しかけられたのかと勘違いした猫に、きょとりと見つめ返される。

    しかし、五条と生活する中で、夜を一緒に眠るようになってから、3人で暮らしていたあの日々のことを思い出すことが増えたのも事実だ。

    「………捨てた筈だよな」
    もう今更、なんとも思ってない。
    そう、呟くのを聞いたのか、猫が再びぺろりと指を舐める。




    結局五条は夕方まで帰ってこなかったので、今日はゲームと散歩だけで1日を終えた。
    ただいま、と帰ってきた男に、腹の上でだらだら寝転んでいた猫がむくりと身を起こす。普段は五条のことなど気にもしないといった風なのに、こうして帰ってくるときにはしっかりと反応して見せる。
    「…うれしいのか?」
    起き上がった猫の顎の下を撫でてやれば、にゃお、と愛らしい鳴声で応えた。しかし猫は部屋に入ってきた五条に擦り寄るでもなく、するりと開いたドアの隙間から出ていってしまったが。足元を通り過ぎる猫に向かって「ただいまー、あれ、猫どっか行くの」と呑気に話し掛けている男は、あの可愛げのある猫の姿を知らないのだ。

    「坊、おかえり。遅かったじゃねぇか」
    お前の帰りが遅すぎて競馬に行けなかった、と文句を言ってやろうと思ったのだが、グシャ、と五条が持っていた袋を床へと落としたので、そちらに意識がいく。
    「…あ?」
    なんか落としたぜ、と指摘する間もなく、なにやら顔を赤くさせてふわふわニタニタした五条が、「た、ただいま、甚爾」と言った。
    「?おう、おかえり」
    ぐう、と妙な声を発しながら今度はその長い体を折りたたむようにして蹲った。

    「は?おい、さっきから何して…」
    なんだ、具合でも悪いのか、と近寄ると、外から帰ってきた五条は、冷たい冬のにおいがした。ああ、もうそんな季節か。
    「………、」
    あいつがいなくなったときと同じ季節だ。
    あれから何年経ったのだったか。
    あのガキは、デカく、なったのだろうか。術式はうまく使いこなせたか。まあ禪院は才能のある奴は大好きだから、その辺は心配ないか。
    くしゃ、と記憶の中の小さな頭を撫でるように、無意識のうちに目の前の真っ白のふわふわした頭を撫でていた。顔を両手で覆ったデカイ男が、指の隙間からじとりと此方を見ている。
    「あ、悪ィ。ぼうっとしてた」
    「………ぼうっとして人の頭撫でる癖あるなら今すぐ直してほしいんだけど」
    はは、わりー、と曖昧に笑って立ち上がろうとすれば、冷えた手のひらに手首をとられる。

    オイなんだよ、と目を向ければ、五条がなんだかおかしな顔をしている。
    「…甚爾、なんかあった?」
    「…あ?」
    お前の冷えた手のひらが冷たい、と思っていただけだ。何もねぇよ、と言えば、五条も立ち上がった。掴まれた手首はまだ、放してもらえない。放せよ、と腹でも殴ってやれば良かったのかもしれない。五条が立ち上がったときにかおるにおいに、連れてきた冬のあの懐かしいにおいに、体がうまく反応できずにいた。
    最期にあいつを抱きしめた時と、同じにおいだった。

    此奴と過ごすようになって、思い出すことが増えてしまった。捨てた筈のものが、捨てられず無様にも未だこの身体の中に存在しているのだということを思い知らされる。

    「……いやなら、突き飛ばしてね」
    ぼうっとしていたら、掴まれた手首を引かれ、そのままあの懐かしい、けれど思い出すには酷く痛みの伴うにおいに包まれた。
    なんでこんなクソ野郎に、なんで男なんぞに、こんなふうに、抱き締められなければならないのか。
    「………おぇ」
    「失礼だなぁ、五条悟に抱き締められて嫌な人間は居ないでしょ」
    「…男に抱き締められて嬉しい男はいねーんだよ」
    「そう?僕は割といま、楽しいよ」

    落ち着かずに身動ぐと、ぐ、と背中に回された手に力が込められて、耳あたりにスン、と五条の鼻先が埋められた。
    「っおい、気色わり、」
    「甚爾」
    耳元で呼ばれる名前とするりと背中を撫でる手に、あ、なんか間違った方向にいってね…?と少し慌て始める。
    「…………」
    「………何だこの時間」
    「…………」
    「おい、五条」
    離せよ、というと、少し体を引いた五条が顔を覗き込むように此方を見た。んだよ、気色わりぃな、とそのキラキラ鬱陶しい蒼い目をじとりと睨めば、
    「ごめん、今日はもっと早く帰ってくれば良かったね」
    と言った。


    「……、……なんで」

    猫に名前はつけなかった。
    思い出さないように遠ざけた。
    もう何も失くさなくて済むように、捨てたつもりだった。

    なのに、眠れない男と手を繋いで眠るようになってしまって、夜に眠れないガキのことを思い出した。
    猫に名前はつけなかったのに、ガキの名前を思い出すようになった。
    殺しあった筈の、なんの親しみも持たない筈のこの男が、あのときのあいつのにおいを連れてやってくる。
    おまけに「ごめん」なんて、謝るのだ。

    恐ろしくて全部捨ててやった。なのに、遠ざけた筈のものが、まるで、追い掛けてくるみたいだった。


    「………坊」
    「ん?なに?」
    ぐい、とシャツの胸元を引っ張る。すん、と五条の襟元に鼻先をくっつける。
    「えっ、ちょっ、えっ、甚爾…サン?」
    懐かしいにおいだった。感覚なんて優れていなければよかったのに。こんなものをずっと覚えている、こんなものに未だに痛みを覚えてしまうのだ。
    「……だまってろ」

    背中に回された手に力がこもった。
    大丈夫、と耳元で囁かれる声に、力が抜けていく。
    「……なんかあったんでしょ、顔見たら分かるよ、もう」

    ああ、間違えたのかもしれない。

    随分と、ここは居心地が良くなっていた。
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    とりさし🐣

    MAIKINGセレンディピティ設定 五甚 10
    マッマとの思い出/初めて自分から五に近付いてしまったと〜じ
    10.



    泣き止まない声、真っ赤になった顔、可哀想なくらい、握り締められた手。
    狭いアパートで、昼寝から起きた子どもはよく泣いた。子どもは酷く泣き怒っていたのに、ゴメンねまだ眠たいよね、と母親が抱けばすぐに泣き止んだ。子どもはとても些細な事でよく泣いたしよく怒った。その度にあいつは「ゴメンね」と言って抱き上げた。その言葉を待っているかのように、子どもはそれを聞いて、今度は甘えるように抱き着くのだ。
    「なんでお前が謝んだよ」
    「え?」
    「恵に」
    不思議に思っていた事を聞けば、予想外のことを聞かれたとばかりにあいつはうーん…と考え込んでしまった。無意識に謝ってるのか、と思っていたら、ぱっと顔を上げたあいつが、
    「考えたこと無かったから分かんないけど、恵が困って泣いたり怒ったりしてることは、ちゃんと私たちがどうにかしてあげられるよ、だから安心してって教えてあげたいの」
    ごめんねって言うのは、ちゃんと私たちの力が及ぶ事柄にしか使わないでしょ、と言った。訳が分からず、首を傾げた自分に「うーん例えば」とあいつが、眠る恵の柔らかな髪の毛を撫でながら、
    「恵が空を飛びたいって言うとするじゃない?」 4940

    とりさし🐣

    MAIKING高専 五甚(五2年×甚3年の幻覚)
    交流戦と直の横やり / 終始ふざけています
    あ、やべ。面倒なものがくる。
    教室で甚爾が立ち上がってから出口までかかった時間は僅か2秒ほどの出来事だった。
    ガラ、と古びた引き戸を開け放つと前には壁、もとい大きな体がぬっと現れた。
    遅かった。甚爾は舌打ちをして、すぐさま踵を返そうとしたところでその壁、こと五条に肘を掴まれて、そのまま無言でずるずると廊下を引き摺られていく。

    「…………」
    甚爾が突如立ち上がって出口を目指してからのこの1分にも満たない出来事を、甚爾のクラスメイトたちは一部始終みていたが、触らぬ神に祟りなし。どういうわけか知らないが、呪術界最強の力を誇る年下の男に好かれてしまったらしいクラスメイトに、羨んだら良いのか哀れんだらよいのか、今ひとつ分からないまま、静かに心の中で手を合わせた。そもそも五条の気配を察知して逃げる甚爾も甚爾だ。逃げるから追われるのだ。普段からさして素行の宜しくないクラスメイトのこと、なにか五条の腹に据えかねるような事でもやらかしたのだろう、と特に興味もないが、そう結論づけた。


    来る、と察知してから此処へ来るまでに2秒も掛からないのは狡い。こっちは術式とか人間離れしたモンは使えねーんだぞ、と引 5206

    とりさし🐣

    MAIKING※本誌バレ有 +存在しない記憶
    直甚 (直9才と甚16才くらいの気持ちで書きました)
    ガン、と大きな衝撃音がした。
    入るなと言われている隅の小部屋からだ。目を音の鳴った方向に向けると、「見てはなりませんよ」と先を急かされる。

    「彼処、なんで入ったらあかんの」
    幼少期に別れた母親の方の言葉を真似たこの口調を、家の人間はあまり良い顔をしない。突然いなくなった母が、どういう理由で居なくなったのかは知らないが、まるでその面影を追うようで嫌なのだろう。まだまだ子どもなのね、と勘違いも甚だしい感傷を抱く奴もいれば、あの女を思い出して胸糞悪いと陰口を叩く人間もいた。勿論、家の連中が嫌がるから、わざわざ母の言葉を真似てやっているわけだが、どうやらこの家で父だけが俺の意図を正しく理解しているようだった。この家にはきっと、碌な奴が居ない。

    世話係の女が、「ご当主がお呼びですよ」と急かしたが、音の正体の方が気になっていた。もしかしたら、少し自信があったのかもしれない。術式をうまく扱えるようになって以降、父からの期待は兄弟の中で一番受けていたから、自分は優秀なのだということを知っていた。ジャリ、と足が隅の小部屋へ向く。

    「彼処は、入ってはならない部屋です。お伝えしている筈」
    「だから、そ 2578

    とりさし🐣

    MAIKINGセレンディピティ 設定 9
    ようやく五→甚 になってきました
    9.猫

    案外、熱心な性格をしている。

    用事を終えて家に着いた五条は、部屋から甚爾の声がする事に気付いた。電話も無い。靴は甚爾のものしか無い。一人のはずだが、一体何をしているのだろうかとリビングに続くドアを開けた五条は、何やら戦闘モードの甚爾とソファの上に乗る黒いものを見つけた。

    「…え?」
    「おい坊、ドア閉めろ!」
    甚爾に言われるがままに玄関に続くドアを閉めたが、改めてこの奇妙な光景に五条は目を丸くさせた。

    「え?なんで?」
    「こいつおれのアテをパクリやがった!」
    「え?」
    「楽しみにしてた子持ちシシャモ最後のひとつをだぞ?!」

    信じられるか、と憤慨する甚爾は既に顔が赤く、いつもよりも目尻が垂れている。酔っ払っている時のサインだ。ローテーブルの上にはビールの缶が置いてある。その横の皿にあった子持ちシシャモをとられた、ということらしい。

    ——この黒い猫に。

    「え、なんで?」
    「あっ!てめ!セコイんだよ!ソファの下に逃げてんじゃねぇ!」
    ソファを持ち上げんとする勢いの甚爾を後ろから羽交い締めにして止める。ジタバタと動いて怒っているが、五条はいまいち状況についていけていない。
    5732

    とりさし🐣

    MAIKINGセレンディピティ設定 五甚 88. 懺悔の夜



    パスタが食べたい気分だなぁ、と思ったが甚爾がカレーの材料を探している気がする。いやハヤシライスかもしれない、もしくはシチューの可能性もあるが昨日シチューだったのでそれは無いと願いたい。
    「…甚爾」
    「あんだよ」
    あ、呼び捨てすんなって言わなかった。考え事をしているのかもしれないが、初めてお許しが出た。
    「ねぇ、買い物行かない?」
    「は?おれとオマエ二人でか?」
    「そう」
    「あー?めんどくせぇ、一人で行けよ」
    こうなることは予測している。しかし今晩の夕食が懸かっているのだ、こちらにも抜かりはない。
    「僕下戸だから、甚爾が自分で選んでくれないとアルコールは買わないよ?」
    「行く」
    甚爾はその誘い文句で即決したらしく、僕のスエットを着たままで、坊はやくしろよ、なんて機嫌良さそうに玄関で待っている。こういう無邪気さが、案外ズシンとクるのだ。最近は心臓が誤作動を起こす度に、天逆鉾で喉ぶっ刺された衝撃を思い出すことに徹している。



    カートを押す役を僕がやろうとしたが、甚爾が食材をとるとなると人参・じゃがいも・玉ねぎ・肉、といったお馴染みすぎる食材になると思ったので、甚爾に 3076

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    あ、やべ。面倒なものがくる。
    教室で甚爾が立ち上がってから出口までかかった時間は僅か2秒ほどの出来事だった。
    ガラ、と古びた引き戸を開け放つと前には壁、もとい大きな体がぬっと現れた。
    遅かった。甚爾は舌打ちをして、すぐさま踵を返そうとしたところでその壁、こと五条に肘を掴まれて、そのまま無言でずるずると廊下を引き摺られていく。

    「…………」
    甚爾が突如立ち上がって出口を目指してからのこの1分にも満たない出来事を、甚爾のクラスメイトたちは一部始終みていたが、触らぬ神に祟りなし。どういうわけか知らないが、呪術界最強の力を誇る年下の男に好かれてしまったらしいクラスメイトに、羨んだら良いのか哀れんだらよいのか、今ひとつ分からないまま、静かに心の中で手を合わせた。そもそも五条の気配を察知して逃げる甚爾も甚爾だ。逃げるから追われるのだ。普段からさして素行の宜しくないクラスメイトのこと、なにか五条の腹に据えかねるような事でもやらかしたのだろう、と特に興味もないが、そう結論づけた。


    来る、と察知してから此処へ来るまでに2秒も掛からないのは狡い。こっちは術式とか人間離れしたモンは使えねーんだぞ、と引 5206

    とりさし🐣

    MAIKINGセレンディピティ設定 五甚 10
    マッマとの思い出/初めて自分から五に近付いてしまったと〜じ
    10.



    泣き止まない声、真っ赤になった顔、可哀想なくらい、握り締められた手。
    狭いアパートで、昼寝から起きた子どもはよく泣いた。子どもは酷く泣き怒っていたのに、ゴメンねまだ眠たいよね、と母親が抱けばすぐに泣き止んだ。子どもはとても些細な事でよく泣いたしよく怒った。その度にあいつは「ゴメンね」と言って抱き上げた。その言葉を待っているかのように、子どもはそれを聞いて、今度は甘えるように抱き着くのだ。
    「なんでお前が謝んだよ」
    「え?」
    「恵に」
    不思議に思っていた事を聞けば、予想外のことを聞かれたとばかりにあいつはうーん…と考え込んでしまった。無意識に謝ってるのか、と思っていたら、ぱっと顔を上げたあいつが、
    「考えたこと無かったから分かんないけど、恵が困って泣いたり怒ったりしてることは、ちゃんと私たちがどうにかしてあげられるよ、だから安心してって教えてあげたいの」
    ごめんねって言うのは、ちゃんと私たちの力が及ぶ事柄にしか使わないでしょ、と言った。訳が分からず、首を傾げた自分に「うーん例えば」とあいつが、眠る恵の柔らかな髪の毛を撫でながら、
    「恵が空を飛びたいって言うとするじゃない?」 4940

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    MAIKINGセレンディピティ 設定 9
    ようやく五→甚 になってきました
    9.猫

    案外、熱心な性格をしている。

    用事を終えて家に着いた五条は、部屋から甚爾の声がする事に気付いた。電話も無い。靴は甚爾のものしか無い。一人のはずだが、一体何をしているのだろうかとリビングに続くドアを開けた五条は、何やら戦闘モードの甚爾とソファの上に乗る黒いものを見つけた。

    「…え?」
    「おい坊、ドア閉めろ!」
    甚爾に言われるがままに玄関に続くドアを閉めたが、改めてこの奇妙な光景に五条は目を丸くさせた。

    「え?なんで?」
    「こいつおれのアテをパクリやがった!」
    「え?」
    「楽しみにしてた子持ちシシャモ最後のひとつをだぞ?!」

    信じられるか、と憤慨する甚爾は既に顔が赤く、いつもよりも目尻が垂れている。酔っ払っている時のサインだ。ローテーブルの上にはビールの缶が置いてある。その横の皿にあった子持ちシシャモをとられた、ということらしい。

    ——この黒い猫に。

    「え、なんで?」
    「あっ!てめ!セコイんだよ!ソファの下に逃げてんじゃねぇ!」
    ソファを持ち上げんとする勢いの甚爾を後ろから羽交い締めにして止める。ジタバタと動いて怒っているが、五条はいまいち状況についていけていない。
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    とりさし🐣

    MAIKING高専 五甚(五2年×甚3年の幻覚)
    交流戦と直の横やり / 終始ふざけています
    あ、やべ。面倒なものがくる。
    教室で甚爾が立ち上がってから出口までかかった時間は僅か2秒ほどの出来事だった。
    ガラ、と古びた引き戸を開け放つと前には壁、もとい大きな体がぬっと現れた。
    遅かった。甚爾は舌打ちをして、すぐさま踵を返そうとしたところでその壁、こと五条に肘を掴まれて、そのまま無言でずるずると廊下を引き摺られていく。

    「…………」
    甚爾が突如立ち上がって出口を目指してからのこの1分にも満たない出来事を、甚爾のクラスメイトたちは一部始終みていたが、触らぬ神に祟りなし。どういうわけか知らないが、呪術界最強の力を誇る年下の男に好かれてしまったらしいクラスメイトに、羨んだら良いのか哀れんだらよいのか、今ひとつ分からないまま、静かに心の中で手を合わせた。そもそも五条の気配を察知して逃げる甚爾も甚爾だ。逃げるから追われるのだ。普段からさして素行の宜しくないクラスメイトのこと、なにか五条の腹に据えかねるような事でもやらかしたのだろう、と特に興味もないが、そう結論づけた。


    来る、と察知してから此処へ来るまでに2秒も掛からないのは狡い。こっちは術式とか人間離れしたモンは使えねーんだぞ、と引 5206

    とりさし🐣

    MAIKINGセレンディピティ設定 五甚 10
    マッマとの思い出/初めて自分から五に近付いてしまったと〜じ
    10.



    泣き止まない声、真っ赤になった顔、可哀想なくらい、握り締められた手。
    狭いアパートで、昼寝から起きた子どもはよく泣いた。子どもは酷く泣き怒っていたのに、ゴメンねまだ眠たいよね、と母親が抱けばすぐに泣き止んだ。子どもはとても些細な事でよく泣いたしよく怒った。その度にあいつは「ゴメンね」と言って抱き上げた。その言葉を待っているかのように、子どもはそれを聞いて、今度は甘えるように抱き着くのだ。
    「なんでお前が謝んだよ」
    「え?」
    「恵に」
    不思議に思っていた事を聞けば、予想外のことを聞かれたとばかりにあいつはうーん…と考え込んでしまった。無意識に謝ってるのか、と思っていたら、ぱっと顔を上げたあいつが、
    「考えたこと無かったから分かんないけど、恵が困って泣いたり怒ったりしてることは、ちゃんと私たちがどうにかしてあげられるよ、だから安心してって教えてあげたいの」
    ごめんねって言うのは、ちゃんと私たちの力が及ぶ事柄にしか使わないでしょ、と言った。訳が分からず、首を傾げた自分に「うーん例えば」とあいつが、眠る恵の柔らかな髪の毛を撫でながら、
    「恵が空を飛びたいって言うとするじゃない?」 4940