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    とりさし🐣

    じゅ 五甚にどっぽん

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    とりさし🐣

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    セレンディピティ 設定 9
    ようやく五→甚 になってきました

    #五甚
    fiveVery

    9.猫

    案外、熱心な性格をしている。

    用事を終えて家に着いた五条は、部屋から甚爾の声がする事に気付いた。電話も無い。靴は甚爾のものしか無い。一人のはずだが、一体何をしているのだろうかとリビングに続くドアを開けた五条は、何やら戦闘モードの甚爾とソファの上に乗る黒いものを見つけた。

    「…え?」
    「おい坊、ドア閉めろ!」
    甚爾に言われるがままに玄関に続くドアを閉めたが、改めてこの奇妙な光景に五条は目を丸くさせた。

    「え?なんで?」
    「こいつおれのアテをパクリやがった!」
    「え?」
    「楽しみにしてた子持ちシシャモ最後のひとつをだぞ?!」

    信じられるか、と憤慨する甚爾は既に顔が赤く、いつもよりも目尻が垂れている。酔っ払っている時のサインだ。ローテーブルの上にはビールの缶が置いてある。その横の皿にあった子持ちシシャモをとられた、ということらしい。

    ——この黒い猫に。

    「え、なんで?」
    「あっ!てめ!セコイんだよ!ソファの下に逃げてんじゃねぇ!」
    ソファを持ち上げんとする勢いの甚爾を後ろから羽交い締めにして止める。ジタバタと動いて怒っているが、五条はいまいち状況についていけていない。

    「まあまあ、落ち着きなよ甚爾」
    「クッソ猫」
    チッ、と吐き捨てる甚爾は本当にひとりの親なのだろうかと疑うほど態度が悪いが、暴れるのを辞めて、その猫が入り込んでいるソファにどかりと座りなおした。

    「いやいや、いや、まずね?あの猫ちゃんなんなの?」
    五条が気になったのは、子持ちシシャモを食べられたことよりも、あの黒猫が一体どこからきて何故ここに居るのかということだ。今朝、五条が用事で早くに家を出ていたので、甚爾とは今日1日会わず喋らずで今に至るが、どこかから拾って来たのだろうか。

    「拾った」
    だろうね。予想通りの甚爾の簡潔な回答に、五条は納得すると同時、何故なのかを問うた。
    「怪我でもしてた?」
    「いや?めちゃくちゃ元気。見りゃわかんだろ」
    「え、じゃあ何で連れて来たの」
    「………なんとなく?」
    「聞いてるのは僕なんだけどなぁ」

    小首を傾げ、甚爾は興味無さそうにTVのチャンネルを変えた。
    「飼うの?」
    「さぁ」
    飼うなら飼うでまあ別に絶対反対、というわけではないのだが、生き物を飼うのには意外と準備と労力がいるのだ。甚爾はその辺を考えてはいなかったのかもしれない。何故この家に連れて来たのかは知らないが、連れて来た以上は責任というものがある。

    「下でずっとガン飛ばしてきたから、腹立って、手懐けて連れて帰ってきた」
    え、手懐けてる?めちゃくちゃ喧嘩して逃げられてるこの状況で?と五条は思ったが、本当に甚爾がただ猫を意味もなく拾って来たのだと知る。この男のすることはよく分からない。
    「えー、ちゃんと甚爾が世話してよ」
    「あー?気に入らなきゃ勝手に出て行くだろ。そんな柔な生き物じゃねーよ」
    「いや連れてきといてよく言うよ」
    「それはアイツがガン飛ばすから」
    詰まらないTV番組をぼんやり眺めながら缶ビールに手を伸ばす、甚爾の手の甲に引っ掻き傷があるのを見つける。
    「……!」
    薄っすら血が滲んでいる。猫に引っかかれたのだろう。


    「坊は、猫は嫌いか?」
    ふと甚爾に問われ、ソファに座ってシャツのボタンを開けながら、息を吐く。
    「いや?どちらかというと従順で素直な犬の方が好きだけど。猫も別に嫌いじゃないよ」
    ふぅん、と甚爾が相槌を打つ。
    その口角が少しだけ持ち上がるのを捉えた。

    「その割には、こえー顔してるぜ」
    「…!」
    くは、と笑って、甚爾は此方を見た。トントン、と自分の額を指差す甚爾に、自身の表情が知らないうちに偉く強張っていた事を知る。詰まらなそうだった顔が、途端に面白い玩具を見つけたかのように輝きだす。
    「アレルギーかなんかか?オマエの嫌がらせになるなら飼うのもアリだな」
    なー、と上体を下げて、ソファの下を覗き込む。チッチッ、と猫を呼ぶその指先。オラ仲直りしようぜ、と甚爾は猫に歩み寄る。
    嫌がらせか。アレルギーな訳ではないし別に特別嫌いというわけでもないが、甚爾と二人だった空間にいきなり入り込まれて乱される、この言いようのない不快感と、そして。
    「うわ、また引っ掻いたコイツ」
    その手の甲に刻まれた爪の跡が気に入らない、とは死んでもバレてはならない事だった。

    「人間の食べ物はあげない方がいーよ」
    「あげる気ねーよ。シシャモはとられたんだよ」
    「そういうの管理すんのも飼う人の責任だからね」
    「あーあー、メンドくせー。だりぃことばっか言ってんなよ」

    そんな、今後に不安感しか抱かない飼い主の誕生だった。


    ただいま、と心の中で唱えながら夜中に自宅に戻る。ドアを開けて、ソファに横になるデカイ塊を確認する。ん、と気配に身動ぐ甚爾のそばに寄ると、ぬるりと幽霊のように伸びてくる白い手に、思わず笑みが零れる。目も瞑ったままで、僕だと確認もしないままに手を差し出す。気配に聡い男が、此処まで信頼を寄せてくれていることが嬉しい。
    しかし、最近は悩み事がひとつ。

    こうして夜中に帰ってきて、穏やかな顔をして眠る甚爾の顔を隣でじっくりゆっくりと眺めるのが近頃の五条の楽しみだったのだが、最近は布団を被った甚爾の丸い塊の上に鎮座する、光る二つの目玉の存在が、やたらと神経を逆撫でする。
    「まーたそこ乗ってんの…」
    眠れないからと繋いでくれる手をすり、と親指で撫でながら、この状況には慣れたのか、起きないのをいいことに甚爾の顔をまじまじと観察する。その、一連の流れを、じっとりと甚爾の上から見られているのだ。
    んだよ、こっち見んな。中指を立ててやるが、猫には通じないので意味はない。
    猫という生き物は犬のように相手を順位付けする訳ではなく、自分に害があるかないか、餌をくれるのは誰か、というのが大事なのだと聞く。そういった理由では五条よりも甚爾に懐いて当然なのだが、甚爾と手を繋いだまま床で眠ろうとすれば、のそりと動く気配がある。
    そうして朝起きたなら、大概五条の腹のあたりで丸くなって眠っているのだ。


    ぱちりと目を開けて、繋いだ手を確認するとまだ繋がっている。甚爾の手には力が無く、まだ眠っているらしいので起こさないように、床で固まった身体をゆっくりと起こした。
    「………あ」
    まただ。今日も、甚爾の布団の上に乗っていたはずの猫が自分のそばにいる。身動いだ五条の所為で猫も目を開けた。ジ、と見つめ合う。ガン飛ばしてきた、という甚爾の言葉を思い出して、ふと可笑しくなった。ガン飛ばすっていうか、警戒してたんでしょ。まあその所為で捕まえられるんだから警戒も何も意味がないが。
    「…なんだよ、僕に取り入ろうっていうの?」
    猫は耳だけをぴるぴると動かして、五条から目を離さない。
    「かわいい顔して、何考えてんだか」
    指先を鼻頭にゆっくり近付ける。猫は一度身を引いたが、五条が指を其処で止めると、侵略されないことが分かったのか、やがてスンスンと指に鼻を近づけて来る。それが終わると、猫は身を起こして、数歩歩いたところで伸びをした。
    そのままひとっ飛びで床から、ソファで眠る甚爾の上にジャンプする。布団を被ったその上を器用にのそのそと歩いて甚爾の埋もれた顔のあたりまで歩いていく。
    「あ、コラ。起こすなって」
    猫の意図が分かって、甚爾の耳やおでこあたりを鼻先で擽る猫を制止する。
    ん、とむずがる甚爾を起こさないように、猫を甚爾の上から退けようとすれば、閉じられていた瞼がゆっくりと持ち上がる。震えた睫毛の先が、段々見えてくるまだぼんやりとして焦点の合わない浅葱色が、ゆっくりと、まるでコマ送りのように五条の目には見えた。
    「…………、み」
    口元が布団の中に潜り込んでいたので、何と言ったのか聞き取れなかったが、何か言った。なに、と五条が更に顔を近づけると、覚醒したのか、甚爾が腕を伸ばして、グイィと顔を押し退けられた。
    「…おはよう。痛いんだけど」
    「るせー、何してんだよ」
    「いやその子が、甚爾のこと起こそうとするから退かしてやろうとしてたんだよ」
    「あ?オマエの気配の方が煩いんだよ」
    主人が起きた事で任務達成なのか、猫は既にソファと甚爾の顔の隙間に座り込んでいる。
    スリ、と甚爾の耳あたりに顔を擦り付ける仕草はとてもかわいらしい。
    「メシだな、ちょっと待ってろよ」

    甚爾は身体を起こすと、顔を洗いに洗面台へいく。そのあと、猫の餌を皿にいれて戻ってきた。ゆらりと尻尾を揺らした猫が、甚爾の元へ向かう。
    ソファに置いてけぼりになった五条は、先程、起き抜けに甚爾が何と言ったのかを考えていたが、分からなかった。何かを呼んだのだろうか。

    「おい、ゆっくり食え。誰もとらねーから」

    かりかり、と猫が餌を食べる音が聞こえる。しゃがんでその様子を見ていた甚爾は、猫の頭を撫でたあと立ち上がる。
    猫が食べている間に、トイレの砂を変えに行ったらしい。手際がいいのは既に知っていたが、この男は意外と面倒見も良い。
    猫を家に連れてきた頃の様子だと「勝手にしろ」状態かと思っていたが、今じゃ立派な飼い主となっている。

    「猫、ちょっと大きくなったよね」
    かりかりと皿の餌を噛み砕く猫を見ながらそう言うと、部屋の奥で猫のトイレの掃除をしていた甚爾が顔を上げて、「だよな!」と笑った。
    「………」
    「来た頃はガリガリだったもんなー」
    そりゃシシャモ食うわ、と甚爾が言う言葉を「うん…」と空返事で返すと、
    「坊のアレルギーは?でねーの?」
    今度は先程の悪意のない顔とは違って、にやりと、意地の悪い笑みを此方に向ける。僕に対しての「嫌がらせになるならいいな」とかいう理由で飼い始めたこともあるが、そもそも猫アレルギーなんてものは持っていない。それが理由で僕が猫のことを苦手だと、甚爾は勘違いしている。
    「出ないよ、治ったかも」
    まさか「邪魔者が此処に入り込んで気に入らない」とは言えないので、アレルギーということで合わせている。
    甚爾も「あっそ」と興味を無くしたようなので、話を切り替えた。

    「そういえばさぁ、その猫名前は?」
    甚爾が主に世話をしているが、名前を呼んでいるところを見たことが無い。ココアを入れるために湯を沸かしにいく。カップを二つ、台の上に置く。キッチンに立ったことで、猫はおかわりをくれると勘違いしたのか、にゃお、と鳴いてみせた。ちがうちがう、オマエじゃないよ。僕が世話するのは甚爾だけだからね、と内心で邪険にしてやると、猫はカリカリが出てこないことを察したのか、皿に残った餌を再び食べ始めた。
    だいぶ毛並みが綺麗になって来た。まるで影のように、黒く細い猫だ。
    クロとか?タマって顔じゃないしな。あ、ジジという道もあるな。
    と甚爾の答えを予想していると、
    「猫」
    と返答が返ってくる。
    「ネ…、いやそれ生物の名称でしょ」
    「いいんだよ、猫は猫だろ」

    カチ、とケトルの湯が沸く音がして、カップにココアの粉を入れる。
    「おいココアいれんじゃねーぞ。コーヒーにしろブラックで」
    「分かってるよ」
    「昨日もおまえココアいれたろ」
    「でも別に飲めるじゃん」
    「飲みたかねーんだよ」
    甚爾はソファに座って、テレビをつける。

    「パン焼く?」
    「なんの」
    「駅前のパン屋で買ってきたやつ」
    「焼く」
    甚爾は駅前の食パンだと喜ぶ。その辺のコンビニとかスーパーで買った食パンだと減りが遅い。この男はそういうことに文句は言わないが、きっと好きなものや嫌いなものはあるのだ。甚爾の好みを知って、さりげなくそのパンを買うようにしている。
    パンをセットしている合間に、カップに湯を注ぐ。


    「僕が名前つけようか」
    「…あ?」
    「甚爾、つけないんでしょ」
    猫に、と指をさす。甚爾はそういうのが苦手なのかもしれない。もしかしたら、情がうつるから、死んだときに手元を離れたときに、悲しいとかそんなことを考えてのことかもしれない。そういうことに関して、僕はきっと限りなくドライだ。こんなに熱心に世話をしているのに、そんな風に別れた後のことを考えて防衛しているのなら、それは甚爾も、猫も不憫だと思った。

    「やめとけ」
    しかしまあ、予想通りの答えだ。
    甚爾が呆れたように言う。なんでよ、と聞き返せば、
    「名前なんて、つけたやつの願いや思いだけが一方的に込められててキショいだろ」
    「キ…」
    キショい?名前をつける事がか?
    ベェ、と甚爾が舌を出した。オマエが名前つけたらこの猫呪われそう、とカラカラと笑う。
    「どんな名前だよ、黒いからクロか?タマ…って面じゃねぇな。デカくなるようにってデブとか?」
    「んー、なんていうか名前センスがだだ被りなことに驚きだよ」
    「ほらみろ、ロクなもんじゃねぇ」

    朝ご飯を食べ終えた猫は身軽な動きで甚爾が座るソファに乗った。結局名前はいらない、つけないらしい。名前なんてつけた側の一方的な思いや願いが込められているだけ、と甚爾は言った。全くその通りだ。名前とは、誰もが口にする初めての呪いなのかもしれない。

    「んなことしなくても、こいつは立派な猫だろ」
    「いやコイツ猫だよ生まれた時から」
    何言ってんの、と軽口を交わして、甚爾の横で大人しく丸まっている猫を指差して笑う。
    「呪わなくて済むやつは、呪うな」
    甚爾が猫の喉元を撫でながらそう言う。

    呪わなくて、済むやつ。
    この男は勘違いをしている。
    名前をつける行動は呪いばかりじゃない。
    どんな出会いか知らないが、ここまで世話をしてくれる男に猫は懐いている。いつまでも呼ばれない名はこの猫にとってさぞ不名誉なことだろう。名前をつけられて、当たり前のようにそばにいることを許されたいのだ。この男になら、願われたいだろうに。

    「ふーん。僕が猫なら、甚爾になら呪われてもいいと思うけど」

    憐れだよ、という言葉を、ぼんやりとTVを見ながら聞いていた。
    甚爾の横顔が、ひどく寂しいものに見えた。
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    とりさし🐣

    MAIKINGセレンディピティ設定 五甚 10
    マッマとの思い出/初めて自分から五に近付いてしまったと〜じ
    10.



    泣き止まない声、真っ赤になった顔、可哀想なくらい、握り締められた手。
    狭いアパートで、昼寝から起きた子どもはよく泣いた。子どもは酷く泣き怒っていたのに、ゴメンねまだ眠たいよね、と母親が抱けばすぐに泣き止んだ。子どもはとても些細な事でよく泣いたしよく怒った。その度にあいつは「ゴメンね」と言って抱き上げた。その言葉を待っているかのように、子どもはそれを聞いて、今度は甘えるように抱き着くのだ。
    「なんでお前が謝んだよ」
    「え?」
    「恵に」
    不思議に思っていた事を聞けば、予想外のことを聞かれたとばかりにあいつはうーん…と考え込んでしまった。無意識に謝ってるのか、と思っていたら、ぱっと顔を上げたあいつが、
    「考えたこと無かったから分かんないけど、恵が困って泣いたり怒ったりしてることは、ちゃんと私たちがどうにかしてあげられるよ、だから安心してって教えてあげたいの」
    ごめんねって言うのは、ちゃんと私たちの力が及ぶ事柄にしか使わないでしょ、と言った。訳が分からず、首を傾げた自分に「うーん例えば」とあいつが、眠る恵の柔らかな髪の毛を撫でながら、
    「恵が空を飛びたいって言うとするじゃない?」 4940

    とりさし🐣

    MAIKING高専 五甚(五2年×甚3年の幻覚)
    交流戦と直の横やり / 終始ふざけています
    あ、やべ。面倒なものがくる。
    教室で甚爾が立ち上がってから出口までかかった時間は僅か2秒ほどの出来事だった。
    ガラ、と古びた引き戸を開け放つと前には壁、もとい大きな体がぬっと現れた。
    遅かった。甚爾は舌打ちをして、すぐさま踵を返そうとしたところでその壁、こと五条に肘を掴まれて、そのまま無言でずるずると廊下を引き摺られていく。

    「…………」
    甚爾が突如立ち上がって出口を目指してからのこの1分にも満たない出来事を、甚爾のクラスメイトたちは一部始終みていたが、触らぬ神に祟りなし。どういうわけか知らないが、呪術界最強の力を誇る年下の男に好かれてしまったらしいクラスメイトに、羨んだら良いのか哀れんだらよいのか、今ひとつ分からないまま、静かに心の中で手を合わせた。そもそも五条の気配を察知して逃げる甚爾も甚爾だ。逃げるから追われるのだ。普段からさして素行の宜しくないクラスメイトのこと、なにか五条の腹に据えかねるような事でもやらかしたのだろう、と特に興味もないが、そう結論づけた。


    来る、と察知してから此処へ来るまでに2秒も掛からないのは狡い。こっちは術式とか人間離れしたモンは使えねーんだぞ、と引 5206

    とりさし🐣

    MAIKING※本誌バレ有 +存在しない記憶
    直甚 (直9才と甚16才くらいの気持ちで書きました)
    ガン、と大きな衝撃音がした。
    入るなと言われている隅の小部屋からだ。目を音の鳴った方向に向けると、「見てはなりませんよ」と先を急かされる。

    「彼処、なんで入ったらあかんの」
    幼少期に別れた母親の方の言葉を真似たこの口調を、家の人間はあまり良い顔をしない。突然いなくなった母が、どういう理由で居なくなったのかは知らないが、まるでその面影を追うようで嫌なのだろう。まだまだ子どもなのね、と勘違いも甚だしい感傷を抱く奴もいれば、あの女を思い出して胸糞悪いと陰口を叩く人間もいた。勿論、家の連中が嫌がるから、わざわざ母の言葉を真似てやっているわけだが、どうやらこの家で父だけが俺の意図を正しく理解しているようだった。この家にはきっと、碌な奴が居ない。

    世話係の女が、「ご当主がお呼びですよ」と急かしたが、音の正体の方が気になっていた。もしかしたら、少し自信があったのかもしれない。術式をうまく扱えるようになって以降、父からの期待は兄弟の中で一番受けていたから、自分は優秀なのだということを知っていた。ジャリ、と足が隅の小部屋へ向く。

    「彼処は、入ってはならない部屋です。お伝えしている筈」
    「だから、そ 2578

    とりさし🐣

    MAIKINGセレンディピティ 設定 9
    ようやく五→甚 になってきました
    9.猫

    案外、熱心な性格をしている。

    用事を終えて家に着いた五条は、部屋から甚爾の声がする事に気付いた。電話も無い。靴は甚爾のものしか無い。一人のはずだが、一体何をしているのだろうかとリビングに続くドアを開けた五条は、何やら戦闘モードの甚爾とソファの上に乗る黒いものを見つけた。

    「…え?」
    「おい坊、ドア閉めろ!」
    甚爾に言われるがままに玄関に続くドアを閉めたが、改めてこの奇妙な光景に五条は目を丸くさせた。

    「え?なんで?」
    「こいつおれのアテをパクリやがった!」
    「え?」
    「楽しみにしてた子持ちシシャモ最後のひとつをだぞ?!」

    信じられるか、と憤慨する甚爾は既に顔が赤く、いつもよりも目尻が垂れている。酔っ払っている時のサインだ。ローテーブルの上にはビールの缶が置いてある。その横の皿にあった子持ちシシャモをとられた、ということらしい。

    ——この黒い猫に。

    「え、なんで?」
    「あっ!てめ!セコイんだよ!ソファの下に逃げてんじゃねぇ!」
    ソファを持ち上げんとする勢いの甚爾を後ろから羽交い締めにして止める。ジタバタと動いて怒っているが、五条はいまいち状況についていけていない。
    5732

    とりさし🐣

    MAIKINGセレンディピティ設定 五甚 88. 懺悔の夜



    パスタが食べたい気分だなぁ、と思ったが甚爾がカレーの材料を探している気がする。いやハヤシライスかもしれない、もしくはシチューの可能性もあるが昨日シチューだったのでそれは無いと願いたい。
    「…甚爾」
    「あんだよ」
    あ、呼び捨てすんなって言わなかった。考え事をしているのかもしれないが、初めてお許しが出た。
    「ねぇ、買い物行かない?」
    「は?おれとオマエ二人でか?」
    「そう」
    「あー?めんどくせぇ、一人で行けよ」
    こうなることは予測している。しかし今晩の夕食が懸かっているのだ、こちらにも抜かりはない。
    「僕下戸だから、甚爾が自分で選んでくれないとアルコールは買わないよ?」
    「行く」
    甚爾はその誘い文句で即決したらしく、僕のスエットを着たままで、坊はやくしろよ、なんて機嫌良さそうに玄関で待っている。こういう無邪気さが、案外ズシンとクるのだ。最近は心臓が誤作動を起こす度に、天逆鉾で喉ぶっ刺された衝撃を思い出すことに徹している。



    カートを押す役を僕がやろうとしたが、甚爾が食材をとるとなると人参・じゃがいも・玉ねぎ・肉、といったお馴染みすぎる食材になると思ったので、甚爾に 3076

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    MAIKINGセレンディピティ設定 五甚 10
    マッマとの思い出/初めて自分から五に近付いてしまったと〜じ
    10.



    泣き止まない声、真っ赤になった顔、可哀想なくらい、握り締められた手。
    狭いアパートで、昼寝から起きた子どもはよく泣いた。子どもは酷く泣き怒っていたのに、ゴメンねまだ眠たいよね、と母親が抱けばすぐに泣き止んだ。子どもはとても些細な事でよく泣いたしよく怒った。その度にあいつは「ゴメンね」と言って抱き上げた。その言葉を待っているかのように、子どもはそれを聞いて、今度は甘えるように抱き着くのだ。
    「なんでお前が謝んだよ」
    「え?」
    「恵に」
    不思議に思っていた事を聞けば、予想外のことを聞かれたとばかりにあいつはうーん…と考え込んでしまった。無意識に謝ってるのか、と思っていたら、ぱっと顔を上げたあいつが、
    「考えたこと無かったから分かんないけど、恵が困って泣いたり怒ったりしてることは、ちゃんと私たちがどうにかしてあげられるよ、だから安心してって教えてあげたいの」
    ごめんねって言うのは、ちゃんと私たちの力が及ぶ事柄にしか使わないでしょ、と言った。訳が分からず、首を傾げた自分に「うーん例えば」とあいつが、眠る恵の柔らかな髪の毛を撫でながら、
    「恵が空を飛びたいって言うとするじゃない?」 4940

    とりさし🐣

    MAIKING高専 五甚(五2年×甚3年の幻覚)
    交流戦と直の横やり / 終始ふざけています
    あ、やべ。面倒なものがくる。
    教室で甚爾が立ち上がってから出口までかかった時間は僅か2秒ほどの出来事だった。
    ガラ、と古びた引き戸を開け放つと前には壁、もとい大きな体がぬっと現れた。
    遅かった。甚爾は舌打ちをして、すぐさま踵を返そうとしたところでその壁、こと五条に肘を掴まれて、そのまま無言でずるずると廊下を引き摺られていく。

    「…………」
    甚爾が突如立ち上がって出口を目指してからのこの1分にも満たない出来事を、甚爾のクラスメイトたちは一部始終みていたが、触らぬ神に祟りなし。どういうわけか知らないが、呪術界最強の力を誇る年下の男に好かれてしまったらしいクラスメイトに、羨んだら良いのか哀れんだらよいのか、今ひとつ分からないまま、静かに心の中で手を合わせた。そもそも五条の気配を察知して逃げる甚爾も甚爾だ。逃げるから追われるのだ。普段からさして素行の宜しくないクラスメイトのこと、なにか五条の腹に据えかねるような事でもやらかしたのだろう、と特に興味もないが、そう結論づけた。


    来る、と察知してから此処へ来るまでに2秒も掛からないのは狡い。こっちは術式とか人間離れしたモンは使えねーんだぞ、と引 5206

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    教室で甚爾が立ち上がってから出口までかかった時間は僅か2秒ほどの出来事だった。
    ガラ、と古びた引き戸を開け放つと前には壁、もとい大きな体がぬっと現れた。
    遅かった。甚爾は舌打ちをして、すぐさま踵を返そうとしたところでその壁、こと五条に肘を掴まれて、そのまま無言でずるずると廊下を引き摺られていく。

    「…………」
    甚爾が突如立ち上がって出口を目指してからのこの1分にも満たない出来事を、甚爾のクラスメイトたちは一部始終みていたが、触らぬ神に祟りなし。どういうわけか知らないが、呪術界最強の力を誇る年下の男に好かれてしまったらしいクラスメイトに、羨んだら良いのか哀れんだらよいのか、今ひとつ分からないまま、静かに心の中で手を合わせた。そもそも五条の気配を察知して逃げる甚爾も甚爾だ。逃げるから追われるのだ。普段からさして素行の宜しくないクラスメイトのこと、なにか五条の腹に据えかねるような事でもやらかしたのだろう、と特に興味もないが、そう結論づけた。


    来る、と察知してから此処へ来るまでに2秒も掛からないのは狡い。こっちは術式とか人間離れしたモンは使えねーんだぞ、と引 5206