たつひか　薄く目を開いた先、まだおぼろげな視界と殺風景な部屋の中でそれは一際鮮やかに、しかし静かに眠っていた。

　・・・

　いつから、と思い返せば多分ここで暮らすようになってしばらく経ってから。目が覚めると自分以外の人間が隣に寝ていたのだから驚くなんてものじゃなかった。
　驚きはすぐさま苛立ちに変わり、朝っぱらから大きな声で怒鳴ったのを覚えている。何度苦言を呈そうと「人肌が恋しくなっちゃうんだよねぇ」といつもの軽口のように
笑って謝るものだから段々と苛立つことは減っていった。
　まぁ、困っていることには間違いないのだけれど。

　さっさと叩き起こして部屋に返そうかと手を伸ばしかけて止まる。そういえば今日は８日。ここで眠り込んでいるヤツの誕生日前日だ。前日といえど忙しく声をかけられ、日付を跨ぐ頃にはそんな騒々しさもピークになるだろう。朝になってもそれは絶えず、きっと丸二日くらいそんなやり取りを繰り返すのは予想ができる。

　だったら今のうち寝かせておいてやるか。

　付き合いが長いせいかこいつには妙に甘くなってしまっている気がする。半端に伸びていた腕を戻し、もう一度布団に潜る。
　ふと、長い髪の隙間から覗く寝顔に目を奪われた。「黙っていれば美人なのに」なんて言葉を誰かが言ってみんなで笑ったこともあったっけ。伏せられた睫毛は特段長いわけでもなく、輪郭だって中性的とは言えない。なのに、大きな瞳と感情のままに孤を描く口元はどことなく少年とも、少女ともいえない幼さを生む。もういい歳のはずなのになぜか時々、とてもあどけない顔に見える時がある。
　そんな不安定な美しさも口を開けばがらりと印象が変わってしまう。それがいいのか悪いのかはまぁ、本人次第だろう。「俺はいつでもイケメンなの！」そう返されるのが目に見えている。